フーシーとまりとお姫さま
作 さらいえ なおこ
「フーシー、私はもう待ちくたびれたよ。」
「母さん。」
まだ9つの女の子フーシーは、突然病気でたおれた
母の枕もとで、途方に暮れてしまった。
「お前、お願いだから父さんを連れ戻してくれないか。」
「えっ、お城へ行ったきり戻って来ない父さんを、あたしが?」
「そうだよ。お前が5つの時にお城へ呼ばれて、それきり
帰れない父さんだよ。助けられるのは、お前しかいないよ。」
「でも、どうやって? あたしにできるのは、まりを8つほうり
投げる事だけなのに。」
「お前は父さんの子だ。父さんはまりを15こもあやつることが
できるんだ。お前はこの国一番の名人の子なんだよ。
きっとだいじょうぶだ。私が何年も待ち続けて、病気になって
しまったと、王様にお伝えして帰してもらっておくれ。」
「わかった、母さん。あたし行ってくる。それまで
ちゃんと待っていてね。」
フーシーは大事なまりを8つポケットにしまいこむと、
家を飛び出した。
「おいで、キジネコ。」
フーシーの一声で、オスのキジネコがどこからかしゅるりと
出てきた。
一人と一匹の旅の始まりだった。
白い土ぼこりの上がる、一本道のまん中を歩きながら、
フーシーはキジネコに話しかけた。
「ねえ、父さんの15このまりの事、お前は覚えてる?
あたしは5つの時から会っていないけど、あのすごいまりの
技は一日だって忘れたことないわ。」
キジネコは、道の端を用心深く歩きながら、しなやかな
長いしっぽを前後にひゅるんと振った。
「そう、覚えているの、そうよね。そりゃあ見事だったもの。
色とりどりのまりが風をきり、雨のようにパラパラと落ちてくる。
それがまた目にもとまらぬ速さで宙に舞い、
魔法にかけられたように空中でいろんなものの形を
作り出した。ある時は山や海の形、またある時は人や
動物の形に。父さんのまりはまるで生きているみたいに
父さんのこころのままに踊った。父さんはいつも言ってたっけ。
『フーシー、まりは手先であやつるもんじゃない。
心で投げるんだよ。』って。父さんの魔法使いのような
細くて長い指、今でもよおく覚えてる。あたしはまだ、8つの
まりを投げる事しかできないけれど、いつか、いつかきっと
父さんのように15このまりを投げてみせるわ。」
フーシーの大きな黒い瞳が、キラキラ輝いた。その瞳には
15このまりを高々と投げるフーシーと父さんの笑顔が、
はっきりと見えるようだった。
つづく
絵本道文庫~フーシーとまりとおひめさまー2~ | 絵本で、安心して気持ちが話せる「場づくり」の担い手を育む (ameblo.jp)