雅喜:彼女から?
三枝:突然君と連絡が取れなくなったと
雅喜:携帯に出ない、メールに返信しない、それだと怪我したのかと入口心配します。だから番号もメアドも変えました
三枝:意図的に居なくなったのだと、わからせるため?
雅喜:ええ、その方がもろわかりやすい
三枝:なぜそんな事を
雅喜:もちろん、別れさせ屋だからですよ
三枝:しかし・・事務所を辞めたと聞いたよ
雅喜:実を言うとフェイクで、しばらく休暇を取ってから戻る事になってるんです。万が一あなたが彼女に話したら元も子もない、事務所も黙っていたんでしょう
三枝:私はお喋りなところがあるからね
雅喜:正体をバラされた時は驚きました
三枝:仕事の邪魔したね
雅喜:今・・彼女はとても寂しい状態です・・裏切られたショックで俺を憎んでもいるでしょうけど・・そうした愚痴というか慰めというか、とにかくそういうものをとても必要としているでしょう
三枝:そこへ・・私が現れる?
雅喜:ええ。しばらくは我慢して彼女の話を聞いてあげてください
三枝:それから?
雅喜:そのうち彼女の方から、今日はずっと一緒にいてほしい・・そうした誘いがあるんじゃないですかね
三枝:そんな簡単に・・
雅喜:ここんところ、俺は毎日のように彼女の家に泊まってました。空間的な密度の変化です。一人で寝るのは寂しい
三枝:女性は寂しさに流されやすい
雅喜:ただし、あまり時間を置くとダメです。一人でに慣れてしまう
三枝:女性は環境に適応しやすい
雅喜:人によって多少の誤差はあっても・・もともと好きだった居心地の良いあなたが居てなら・・彼女も大きな抵抗はないはずです
三枝:・・私は、誤解してたようだね
雅喜:・・誤解・・?
三枝:君もまた、いつしかルリちゃんに惹かれているものだとばかり
雅喜:あぁ、そういえばそんな事を
三枝:愛し始めているはずだと。
雅喜:・・えぇ
三枝:もしそうなら私は・・諦めなければいけないと思っていた
三枝:二人が愛し合い付き合っていくのなら、祝福してもいいかとさえ、考え始めていた
三枝:もちろん条件付きだがね。君にまっとうな仕事を紹介してそれを受け入れるというのなら
雅喜:・・彼女の父親みたいですね
三枝:・・不思議だねぇ・・あれほど執着していた彼女に・・・歳のせいかな。好きだという気持ちは・・娘に対するような気持ちにも変化していく・・
雅喜:あなたは情愛だといつか・・
三枝:うん、愛情と情愛は紙一重だ。観覧車のようにてっぺんまでいくと・・カチャリと、変わる事もある
雅喜:それならもう一周して、またカチャリと変化もします
三枝:うん、まぁそういう事だね
雅喜:要件はそれだけです。くれぐれも、俺に会ったという事は秘密で
三枝:わかってるよ
三枝:・・・・・君は今まで・・
雅喜:本当に人を好きになった事はあるか、って質問ですか?
三枝:よく聞かれるかね、そんな商売してると
雅喜:えぇまぁ
雅喜:・・・・・・
雅喜:・・・・・・ノーコメントで。
三枝:・・・はい
雅喜:・・・・・・
百瀬:君には申し訳ない事を言ったかもしれない
雅喜:え?
百瀬:人はそれぞれ、愛し方は違うものだからね
雅喜:先生のせいじゃありませんよ。心の片隅にはいつもその夢があったんです。ただ・・一日伸ばしにしてきたようなところもあって
百瀬:楽しかったんだね、彼女との日々は
雅喜:付き合い始めだからですよ。そんなの最初のうちは相手が誰だって
百瀬:それはそうだ。仲良くいっていてさえ、いずれ必ず倦怠というものが忍び寄る
雅喜:先生たちご夫婦も?
百瀬:そうだね。ただ、彼女が癌と分かって闘病生活に入ってからは様変わりしたかな
雅喜:えぇ
百瀬:人は、愚かなものだねぇ。失ってしまうと感じて初めて・・培っていた愛情を強く感じた。失くしてしまえば途方に暮れるだろう。自分の姿をハッキリと見る事すらできた。普段はそうしたネガティブな想像はしないものだがね
雅喜:・・ふふ
百瀬:ん?
雅喜:あ・・すいません、その話を聞いて・・彼女の事を
雅喜:あの子・・妄想するんですよ。普段からそういう事想像して、涙ぐんだりもしちゃうやつだったんです
百瀬:ふぅん?
雅喜:だから、ドキッとさせられる事もあって。不意に私が死んだらどうする?って聞いてきたりするんです。こいつ何か知ってんのかなって、ハラハラさせられたり
百瀬:面白い子だね
雅喜:普通の男なら引きますよ。ああめんどくさい女って
百瀬:・・でも君は好きだった。そういうところも
雅喜:どうかな・・そうなのかな・・わからない。・・どっちにしろ忘れますよ、俺の方も
雅喜:ほら先生、時間は人に優しいって
百瀬:あぁ
雅喜:はい
クルミ:細かいのないの?
雅喜:あぁごめん
クルミ:お釣り、ないからツケとく
雅喜:ツケとくって・・あぁいいよどっかで両替してくる
クルミ:いいって、一日に何度も何度もあんたの顔見たくないし
雅喜:え?
クルミ:ムカつくんだよねー。悲劇の主人公みたいに
クルミ:・・・はぁ・・あんたバカじゃね?
雅喜:何が?
クルミ:言やぁいいじゃん。その彼女にもうすぐ脳腫瘍で死ぬってさぁ
雅喜:そんな事・・
クルミ:そんで一緒に泣きゃぁいいじゃん
雅喜:お前こそバカじゃね?それで実際死んだら引きずんだろ
クルミ:それがあんたの望みなんだろ?忘れられるのおっかねえから
雅喜:それだって忘れんのさ
雅喜:痛みや悲しみってのは時間で薄れんだ・・前向きになって新しい彼氏とな・・・
雅喜:はぁ・・意味ねぇんだよ
雅喜:バカだからもうこないだの話はもう忘れちまったのか?
クルミ:・・ははっ、お前の彼女妄想ちゃんなんだろ?
クルミ:そういう女は忘れねぇよ
クルミ:痛みだって薄れねぇよ
クルミ:いつだって・・ババアになっても、時間なんて止めちまうのさ
居酒屋でいつものように働くルリ子の指には、雅喜からのプレゼントの指輪。
この時はまだ、連絡が取れないだけでまさか自分の前から雅喜が消えるなんて思ってもないんだろうな。
「本当に人を好きになったことがあるか」という三枝さんの質問には答えなかった雅喜。
以前、三枝さんから「彼女に魅力は感じないのか」と聞かれたこともあったね。その時は「基本女は信用していない」と答えてたっけ。
それでも彼女の事を愛し始めているのだと自分で気づいてしまった。心の片隅にあった"誰かを愛したい、愛されたい"という気持ちが溢れ出した。
だけど自分はもうすぐいなくなる。どうせ忘れられてしまう。それならばもういっそのことこの気持ちには蓋をして気づかないフリをしておこう。いなくなってしまう自分とよりも、他の誰かと幸せになればいい。
だけど、クルミに言われた言葉でまたハッとさせられてしまうんですよね。
いつしか忘れられる事が怖いと言った雅喜。自分の中の気持ちと考えてる事が上手く混ざり合わなくて葛藤しているといった感じ、かな。。
19話へ続く。(終わる気がしない)