これまで
「待つ」ということについて
 
 
まだかなまだかな〜
もじもじそわそわ・・
イライライライラ・・
もぉぉぉ早く〜!!
 
 
といった感じで
「待つ」ことがそもそも苦手だし
じれったく、せかせかしちゃって
待ち時間をマイナスにとらえがち
だったのですが
 
 
この物語を読んで、
「待つ」ことは
そんなに悪いことじゃないし
むしろ楽しみなことだと
思えるようになりました。
 
 
物語の舞台は
札幌・すすきのにある
とあるスナック。
 
 
スナックには
マスターと男女5人の客がいて、
小学校の同級生だという彼らは
遅れてくると連絡のあった
「田村」という男を
待ち続けています。
 
 
小学生のころの田村は
複雑な家庭で育ったからか
自分をあまり出さず
うつむきがちな少年で、
 
 
でもときにクラスみんなの
心を射る発言をする
印象深い人物でした。
 
 
バーで待つ5人の男女は
田村の思い出話をきっかけに
それぞれ自分の過去を
振り返りはじめるのですが
 
 
この物語では
誰かが主人公という形をとらず
連作短編形式で
カメラが切り替わるように
登場人物の心のうちが語られます。
 
 
腕白小僧のような
威勢を放つ男は
「特別隠居」した上司の話を、
 
 
あねご肌で勝気な女は
職場である保健室によく来る
19も年下の少年の話を、
 
 
映画「ゴッドファーザー」の
ドン・コルレオーネのような
風格を持つ男は
心の内に秘めたロマンを、
 
 
エビスビールを飲んで
つぶれてしまった女は
離婚のいきさつと
わだかまる心模様を、
 
 
スナックの常連客で
同級生を連れてきた男は
やましいことをしてきた
過去の言い訳をしながら
田村を待つのですが
田村はなかなか現れず・・
 
 
彼らがそれぞれの過去を
振り返りつつ
「それにつけても田村はまだか」
とそわそわし始めた頃、
怒涛の展開が待ち受けているのです。
 
 
無垢な少年少女だったはずの
登場人物たちは
いまや40代の中年になり
 
 
気軽に人に言えないような
後ろめたい経験をしたり
やましい気持ちを持ってしまうほど
時が流れてしまったことに
物悲しさ、憂鬱な気持ちを抱いていて
 
 
だからこそ
あのとき僕らの心を射止めた
田村に会って、憂さを晴らして
気持ちを前に進めたいと
みんなが思っていたのではないかと
思わせるような各短編でした。
 
 
その後田村に待ち受ける
怒涛の展開もあわせて
読み応えのある物語でした。
 
 
話は少し変わりますが
自分じゃどうにもできないことが
この世界にはたくさんあるものだと
成長途中の我が子や
自分を振り返って思います。
 
 
どうにもできないことって
たいていの場合
時間を待つしかなくって
 
 
どうにもできないことが
・努力を重ねてできるようになるか
・気にならなくなるか
のどっちかの方向に
時間をかけて乗り越えて
いくしかないと思うんですね。
 
 
しかもひとりで。
 
 
つまり、人生には
・努力を重ねてできるようになるまで
・気にならなくなるまで
「ひとりで待つ」時間というのが
すごくたくさんあって・・
 
 
そんな「待つ」時間に
疲れてしまった人々の
苦しい心の内が
この物語には描かれていて
 
 
その苦味に共感できる自分自身
年を重ねてきたんだなぁ・・と
しみじみ思いつつ、
 
 
「田村はまだか」と
じれったさ半分、楽しさ半分で
言い合う同級生とマスターの姿に触れて
 
 
「待つ」ことに疲れてしまう
こともあるけれど、
待っている間に
その先の未来を楽しく
思い描くこともできるのだと
ハッとさせられました。
 
 
たとえば、今は
成長途中の我が子の対応に
いっぱいいっぱいで
余裕をなくしがちだけれど、
 
 
もう少し大きくなったら
ファミレスでお子様ランチを
食べようねぇとか
大きな公園で一緒に遊ぼうねぇ
とか思いながら
成長を楽しみに待つ
ことだってできるのです。
 
 
「待つ」ことは
長く感じるかもしれないけれど
決して永遠じゃないので
 
 
その先の未来を
楽しみに待つ、
「田村」が来たら
どんな話をしようかな
あの話をしたらどんな反応をするかな
と思いながら楽しく待つ
 
 
そんな方法だってあるじゃないかと
この物語に教えられて
目が覚めるような思いがしました。
 
 
「待つ」ことを
上手に楽しめるようになれば
人間として一段階レベルが上がるような
そんな気がします。
 
 
子育ても、社会復帰も
「待つ」ことだらけで
これは試練の時期かもしれない・・と
思っていたので、
 
 
「待つ」ことを楽しめる
ように意識したいし
 
 
楽しむ、という視点を得られて
少し心が軽くなりました。
 
 
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