店をはじめて50年以上も経つというケーキ屋。
看板もなく、店に入るとはショーケースと椅子が二つあるだけだ。
毎年夏になるとヨーロッパの人のように長い休みに入る。
「あの店のバナナケーキが食べたいな」と思い訪れたら
もうすでに夏休みに入っていた。
「しまった。もうそんな季節だったんだ」と気がついたところで
秋になるまで店が開くのを待つしかないのだ


小さなケーキ屋のショーケースには、一時代を築いてきた
ショートケーキやチョコレートケーキ、シュークリームといった
日本人ならきっと嬉しくなる馴染みの商品が並ぶ。
こういうケーキを見ると昔ながらのと言い出す人がいるが
「じゃあ、新しいケーキってなんなんですか?」といじわるく問い返したくなる。
昔も今も、今食べた人が美味しいと思えればそれが「今の味」なんだと思う。
店を入ると手書きの店の名を書いた作家の書が掲げられている。
文豪にも愛されてきたお店の証なんだと思う。店主は語らずとも黙した自信を感じる。
次に店が開くのは、8月だと手書きで張り紙が出されていたが、
正直これもあてにはなるまい。
無添加でドライアイスなんてものも品物に入れて持たせるような店ではないし
きっと残暑が厳しければ、この店の夏休みはもう少し長くなるのだと思う。
なんとも、のんきというか、のどかなケーキ屋だ。
仕方ない、僕もこの店のテンポにあわせて、店が秋に再開するのを待つことにしよう。
再開した暁には、あのバナナチョコレートケーキを食べるのが楽しみだ。
