「電力不足」キャンペーンは原発推進の布石 電力逼迫をあおる異常な論調
電気が足りなくなる根拠はない (上)(2回の連載)
└──── 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
1.第七次エネルギー基本計画
第七次エネルギー基本計画を策定するための会議体が作られ、議論が始まった。
経産大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の、基本政策分科会で2035年度以降の電源構成や脱炭素、再生可能エネルギー、原子力利用方針などが決定される。
案は年内にまとめられ、2025年3月までに閣議決定する方針という。
その中で原発に関する大きなテーマは、第六次エネ基に明記されている「可能な限り原発依存度を引き下げる」という言葉の行方だ。
原発推進に大転換した岸田政権は、このエネ基の言葉が邪魔だった。
これと真っ向から対立するGX原発推進法を成立させたのだから、エネ基に意味があるのかと、大いなる不信を招いた。
岸田政権は、今回の見直しで第七次エネ基を現在の政策と整合させよ
うとする。
すなわち、脱原発方針ではなく原発推進方針を掲げることになる。そのため「原発推進派を集めて『エネルギー基本計画』議論スタート」と東京新聞が書くような会議体を作った。
2.捨てられる再生可能エネルギーの電力
原発を可能な限り活用するとの方針を掲げる場合、日本の将来の電力需要について論じなければならない。
現在の右肩下がりの需給構造では、せっかく再生可能エネルギーを増やしても、夏のピーク時に太陽光が使われない事態になっている。発電電力量が余っているからだ。
特に原発の再稼働が続いた関西電力など西日本では顕著だ。
それが、東電でも起こりつつある。このうえ柏崎刈羽原発が動けば、最大200万kwもの太陽光設備が休止する事態になりかねない。
現在、電力需要には余裕がある。
それは太陽光や風力の発電量が増えたことと天然ガスなどの価格が低下したためだが、12基ある原発のうち11基が動いていることも理由の一つだ。
3.2022年の電力逼迫警報とは何か
右肩下がりの電力需要では原発はますます必要なくなるため、政府は電力不足キャンペーンを打ち出したのが、2022年だった。
2022年3月の電力需給ひっ迫警報は、地震により複数の発電所が停止したことと急な気温の低下に伴う暖房需要の増加が重なったためだ。
つまり発電設備の不足ではなく、自然災害に加え、ミスマッチしたピーク予想(この時期に珍しい真冬並みの4840万kwの予想)によるものである。
当時、地震などで予期せず止まった火力が約500万kwに加え、511万kw規模の発電所が定期検査を行っていたのである。
しかしこれを「電力設備不足」とすり替える論法が、政府により広がった。
最近は、生成AIや電気自動車の普及、半導体産業やデータストレージ産業の拡大が、将来電力需要を大幅に引き上げる「電力不足」が起きると宣伝し始めている。
しかしそんなことは起こり得ない。 (下)に続く
(初出:5月24日たんぽぽ舎「金曜ビラ」)