羽田新ルートを強行した「黒幕」と国交省、JAL、ANAの果てしない腐敗/安全問題研究会 | 市民自治ノート - NPOまちぽっとから

市民自治ノート - NPOまちぽっとから

 このブログは、NPO法人まちぽっと理事の伊藤久雄が書いています。このブログでは、「市民自治」の推進に必要なさまざまな情報や、NPO法人まちぽっとの活動などを発信していきます。

羽田新ルートを強行した「黒幕」と国交省、JAL、ANAの果てしない腐敗/安全問題研究会

【羽田空港衝突事故 第4弾】

 

 「それでは、次の議案である取締役選任についての採決結果を報告いたします。候補者番号1番、乗田俊明君の取締役選任に賛成79,315票。反対249,434票。よって、乗田君の取締役選任案は、否決されました」

 

 会場内にいた株主の誰もが無風のまま終わると思っていた東証プライム上場企業の株主総会。予想外の事態に、会場を埋めた株主からどよめきが起きた--(以上、事実に一部想像を加えた再現)。

 

●「1・2羽田事故」から思わぬ展開へ

 

 元日を襲った能登半島地震とともに全国の正月気分を引き裂いた「1・2羽田事故」。安全問題研究会は、第1報記事「羽田衝突事故は羽田空港の強引な過密化による人災だ」(1月8日付け)、第2報記事「航空機数は右肩上がり、管制官数は右肩下がり~日本の空を危険にさらした国交省の責任を追及せよ!」(1月9日付け)、第3報記事「過密化の裏にある「羽田新ルート」問題を追う」(1月29日付け)と相次いで本欄で報じてきた。

 

 このシリーズは本来なら第3回までで終わる予定だった。だが、羽田新ルート問題の取材・情報収集を続けるにつれ、事態は思わぬ方向に展開する。昨年、大手メディアが報じながら、追及が尻すぼみのまま終わった「ある事件」と羽田新ルート、そして「1・2羽田事故」。ばらばらの点に過ぎないと思われていた3つの出来事が、1本の線で結ばれたのだ--。

 

●国交省OBの「圧力」

 

 時は2022年の年末に遡る。全国各地の空港に拠点を置き、施設運営などを手がける「空港施設(株)」の社長に国交省OBを就任させるよう、別の国交省OBが働きかけていたことが発覚した。働きかけたのは、航空行政を一手に取り仕切る航空局長も経験した本田勝・元国交省事務次官。2022年12月13日、本田氏は同社を訪問し、乗田俊明社長らと面会。同じく国交省OBで同社副社長の山口勝弘氏を、2023年6月人事で社長に昇格させるよう求めたのだ。本田氏は、みずから「別の有力OBの名代」を名乗り、「国交省出身者を社長にさせていただきたい。(山口氏が社長に就任すれば)国交省としてあらゆる形でサポートする」として、空港施設に対し多くの許認可権を持つ監督官庁・国交省の「威光」をちらつかせながら山口氏の社長昇格を迫った。

 

 実は、山口氏も国交省航空局長を務めたOBで、元々は空港施設の取締役だったが「国交省出身者が代表権のある副社長に就くべきだ」と主張しみずから副社長ポストを要求、狙い通りに就任していた。本田氏による山口氏の社長昇格要求はそれに次ぐ二度目の圧力だった。

 

 空港施設が管理する建物の多くは羽田など各空港の敷地内にある。空港敷地はほとんどが国交省管理の国有地であり、空港施設は国に賃料を払ってそれらを借りる立場だ。とりわけ民間企業への国有地の貸付・払い下げには、以前、森友学園問題でも明らかになったように厳しい審査基準がある。形の上ではお願いであっても、国交省事務次官経験者の直接訪問による依頼を空港施設側が圧力と受け取るのは当然だろう。

 

 空港施設は東証プライム上場企業であり、取締役人事は指名委員会で決める手順になっている。乗田社長ら空港施設側は「上場企業なので、しっかりした手続きを踏まないとお答えが難しい」と難色を示した。「しっかりした手続き」が指名委員会での指名を意味することは言うまでもない。

 

 国家公務員OBによるこのような人事上のあっせん行為は違法ではないのか。かつて官僚による天下り問題が表面化した際、現役公務員がOBの就職あっせんを受けることや、所属省庁が現役公務員の再就職をあっせんすることは禁じられた。しかし、退職したOBが別のOBの就職や人事上のあっせんをすることは民間企業同士の人事交流として規制対象になっていない。大手メディアの取材に対し、国交省は「関与しておらず、退職した者の言動についてコメントする立場にない」と回答している。

 

●大手航空2社を使い「報復」に出た国交省と本田氏

 

 露骨な圧力を使っての「人事介入」は空港施設側に拒まれた。これに加え、2023年3月にはこの件が大手メディアに報じられる。2023年4月3日付けで、山口氏も副社長辞任に追い込まれる。国交省の不当な人事介入を跳ね返した空港施設の「完全勝利」と思われた。

 

 だが、国交省は2023年6月、思わぬ形で「報復」に出る。その場面が、事実に一部想像を交えて再現したこの記事の冒頭部分だ(取締役番号1番が乗田氏であることや、賛成、反対の票数は当研究会の情報収集に基づく事実であり、株主総会議長の台詞などを想像で補った)。2期目続投が盤石と思われていた乗田氏に反旗を翻し、大量の反対票で取締役再任「否決」に追い込んだ株主は誰なのか。

 

 乗田氏の取締役選任(再任)議案に関し、総投票数328,749票のうち、反対票は249,434票で75.8%を占める。空港施設の株式のうち、ANAHDとJALの大手航空2社がそれぞれ21%、日本政策投資銀行が13.8%を保有している(議決権ベース)。この3社以外にも反対の株主がいたことがわかるものの、合計で55.8%と過半数を占める前述の3社の意向が事実上、議案成否の鍵を握っていることになる。関係者の話を総合すると、ANAHDが反対、日本政策投資銀行は賛成したという。JALは議案への賛否を明らかにしていないが、この票数から考えると反対したことは間違いない。

 

 驚かされるのは、乗田氏がJAL出身であることだ。事実上、自身の「古巣」によって解任(再任拒否)されたことになる。航空行政を一手に取り仕切る国交省航空局は、国内各空港における発着枠の配分などを通じて航空会社にも大きな影響力を持つ。空港施設にメンツを潰された形の国交省に「恩を売る」ため、大手航空2社が国交省と本田氏の書いたシナリオに沿って乗田氏解任に動いたというのが「事情通」による見立てである。

 

●本田氏と羽田新ルート~国交省、大手航空2社の腐敗こそ「1・2羽田事故」の元凶

 

 2009年、国交省の外郭団体研究員らによって原案が作成されながら、長く「非現実的」として放置されてきた羽田新ルートが、2014年に「官邸案件」化して以降、一気に動き始めたことは第3回記事ですでに述べた。本田氏は2014年7月8日付けで国交省事務次官に就任しており、時期的にぴたりと符合している。官邸の意を汲み、羽田新ルート推進体制を持ち前の「剛腕」で省内に構築する本田氏の姿が目に浮かぶ。

 

 新ルートで発着回数が年3.9万回(羽田空港発着数全体の約9%)も増えれば、大半の発着枠を割り当てられる大手航空2社もまた大きな利益を上げられる。騒音・振動被害だけでなく、落下物の危険も招き寄せる新ルートに多くの都民が反対する中、それらの事実を知りながら、新ルートの恩恵にあずかろうとした大手航空2社の姿も透けて見える。国交省も大手航空2社も利益優先、安全軽視でまさに腐敗の極致というしかない。こうした極限の腐敗こそが「1・2羽田事故」を引き起こしたのだ。

 

   ◇   ◇   ◇

 

 過去3回、多数の「おすすめ」をいただき好評の羽田空港事故追跡シリーズ、今回で終わらせる予定だったが、さらに続ける。まだ私の手元には重要な事実が残っており、これを書かずして終わらせることはできないからだ。次回、第5回では、本田氏にまつわる「書き切れなかった重要な事実」をさらに掘り下げる。彼の官僚人生こそ、過去半世紀にわたって旧運輸省~国土交通省が続けてきた日本の「新自由主義的交通行政」を象徴するものだという私の自信は、今、確信に変わりつつある。(第5回に続く)

 

<シリーズ過去記事>

 

・第1回「羽田衝突事故は羽田空港の強引な過密化による人災だ」(1月8日付け)  http://www.labornetjp.org/news/2024/1704414581584zad25714

 

・第2回「航空機数は右肩上がり、管制官数は右肩下がり~日本の空を危険にさらした国交省の責任を追及せよ!」(1月9日付け)  http://www.labornetjp.org/news/2024/0109kuro

 

・第3回「過密化の裏にある「羽田新ルート」問題を追う」(1月29日付け)  http://www.labornetjp.org/news/2024/1706457813551zad25714

 

(取材・文責:黒鉄好/安全問題研究会)