一般的に、というよりも歴史的に見て、インフレほど国の経済にマイナスを与え、その国の国民生活を脅かすものはない。

 最近では南米の国々がインフレの脅威に見舞われている。私の友人の親戚がベネズエラから日本に逃げてきた。日本国籍を持つ日本人なので難民ということではないにせよ、ベネズエラの経済状況が行き詰って逃げてきたという。

 不況で職がないというならば、どうにか過去の貯蓄でしのげるだろうが、物価上昇による生活直撃には打つ手がないのだろう。

 そして今度はアルゼンチン、20年ぶりの通貨危機に遭遇して、この1年間でペソは50%の下落しているという。当然、その結果として猛烈な物価上昇のインフレに見舞われている。アルゼンチン政府は、緊縮財政策によって自国通貨下落を食い止めようとしているが、それもなかなかうまくはいかないだろう。

 

 翻って、我が国、日本では。

 インフレはおろか、もう十年近くもデフレ脱却を模索している。そして円安どころか円高に怯えている。この不思議な国では、デフレは悪であり、円高は悪なのだ。

 こんな状況は歴史的に見ても、ほとんど異常な状況と言える。

 インフレを防ぐ対策は限られているが、インフレを呼び起こす経済政策など、もっとも簡単なことだ。学生でもできる経済対策。金融を緩和して、自国の紙幣を増刷すれば良いだけの話だ。しかも日本では自国紙幣の増刷による自国通貨安は悪ではなく、むしろ歓迎される円安というのであるから、なおさらのこと、話は単純明快だ。

 

 というわけで、ここ数年にわたって、日銀による「異次元の金融緩和策」が遂行されてきているが、まだデフレ脱却には至っていない。ならば「まだ足りない」ということだろう。

 「異次元の金融緩和」ではなく「超異次元の金融緩和」が必要だったのだ。

 と言っても、金利水準にしてみれば、これ以上の余地は乏しいし、アメリカなどもそろそろ出口戦略に舵を切り始めている。どうしたものか、、。

 金利の調整だけでなく、大幅に通貨量を増加させるしかないだろう。お金だけあっても、なかなか社会における需給ギャップは埋まらないことも事実であるが、過剰な流動性はどこかへと向かわざるをえない。つまり、資産インフレへの道に続くのだ。

 

 そう、これはかつて30年以上前のバブル経済と同じ道に続いてしまう。だから誰もが躊躇してしまうのだろう。

 でも考えて欲しい。バブル経済と崩壊を体験した世代の人々は現存している。いくらなんでも前回と同様に、株式や土地が異常な値上がりをすることはないだろう。特に日本の将来的な人口減少を考えれば、土地は一部の首都圏を除いて一本道に上昇するとは思われない。

 本気でデフレ脱却を考えるのならば、なかなか上昇しない賃金をどうのこうのしたり、無理に需要を呼び起こして需給ギャップを埋める虚しい努力をするよりも、緩やかなレベルでの資産インフレを容認して、そこから生まれる余剰の購買力で物価上昇を目指した方が賢明であるし、国民に幸福感を与えるのではないだろうか。

 

 まさにこれは、有権者に不人気の「トリクルダウン」の施策ではあるが、それにしてもこんなレベルの経済政策で悩む日本という国は幸せなのかもしれない。

 当たり前の話だが、インフレの苦しみはデフレの苦しみの比ではない。