いじめに関する話。

 

 前回、いじめに会う者、いじめられる者について、3つのパターンに類型した。

 それは、1)劣る者、2)秀でた者、3)マイペースな者の3つのパターンである。

 

 今回は2)の秀でた者、つまり「醜いアヒルの子」のケースについて書いていきたい。

 「醜いアヒルの子」の話は、誰でも知っている童話だ。

 「アヒルの子達の仲間の中で、なぜだかみんなと姿が変わっていることで、醜い!といじめられていた子が、実はアヒルの子ではなく美しい白鳥の子であった」という有名な話。

 この童話と同じことが、人間の子供たちの世界でも繰り広げられている。いや、遠い昔から繰り広げられてきたからこそ、「醜いアヒルの子」としての逸話となって語り継がれてきたのであろう。

 

 秀でた者、しかも現在ではなく将来において確実に有利な美点(利点)を持ちうる者は、その他大勢の子供たちから嫌われ排除される。

 ここでポイントとなるのは、周囲よりも秀でていることが現在(子ども時代)でのことではなく、将来(成人してから)でのことであるという点であろう。

 子供の世界、その現在におけるコミュニティーでの優位性は、他者から嫌われる要素とはならない。たとえば、運動が得意だったり、腕白で喧嘩が強かったり、ひょうきんで面白い性格だったり、仲間思いでリーダーシップを発揮したり、これらの秀でた特長は子供の社会でもプラスにこそなれ、けっしてマイナスには作用しない。

 問題となるのは、子供の社会においてはほとんどプラスにはならないが、大人の社会(つまり実人生)において秀でた特長だ。これらの優位な特徴を有することが、子どものコミュニティーにおいては嫌われ、いじめの原因となるのである。

 典型的な例として、「金持ちの子供」だったり、「勉強ができる子供」(これは「ガリ勉」としてあまりにも一般的な侮蔑用語すらある)だったり、女の子ならば「美人の子供(美少女)」だったり。

 子供たちもバカではない。明らかに自分より将来の時点で優位に立ちそうな者を、ことさら嫌い煙たがり排除していくのだ。将来における自分の劣位を本能的に理解しているから、子どもなりのルサンチマンを持って恨み嫌うのだ。

 ルサンチマンとは、醜い「嫉妬」や「妬み」の感情である。

 ルサンチマンは人間の持つ悪意の中でも、かなり強く働き最低のものだが、このルサンチマンの感情は実は子供時代から育まれている。

 先に掲げた例の中でも、「金持ちの子供」「美人の女の子」なんていう要素は天性のものであり、いかにも運に起因する幸福であるから、それはそれで致し方ないと思われるのかもしれないが、「頭が良い」「勉学に励む」などは自らの意思によるところが大きいから、余計に周りから嫌われる要素になりうる。

 また、「金持ちの子供」の財力は親に起因するものであるがゆえに、将来(次世代)は失ってしまう可能性も無きにしも非ずだし、「女の子の美貌」なども若い頃の有意性であり加齢とともに消え去る要素だが、「知性」や「勉学」を土台とした社会的優位性は、その後の人生において職業的な確固たるヒエラルキーとして、おおむね死ぬまで継続していく要素である。(なんせ、かの福沢諭吉大先生も「学問のすゝめ」の中で高らかに宣言している自明の理というものなのだ)

 だから現在ある「子供の世界」の価値観を無視して、ひたすら将来のヒエラルキー上昇のために勉学に励む者が、「ガリ勉」としてもっとも嫌われ排除されることになる。

 これは変な話でないか。

 明治時代からの日本の伝統とも言える、「切磋琢磨」「立身出世」「努力研鑽」という価値観が、子どもの社会からは完全に否定的なニュアンスとして考えらているとは。

 

 さらに複雑なのは、ここに「受験」というファクターまで入り込む。

 私がかつて相談を受けたイジメのケースは、小学校の高学年で進学校への「中学受験」を目指している子供のケースだった。

 今まで仲良く遊んでいたクラスの友達と、受験を控えて塾に行ったりと勉強が忙しくて、自然に疎遠になったことから、いじめが始まったというものだ。

 彼にすれば、自分の目標のために今までの日常生活を犠牲にして頑張っているつもりでも、周りの子供たちからは悪意の目で見られる。

 周りの子供たちからすれば、彼だけがエリート街道を目指して、こちらが置いてきぼりをくらったようで、とても面白くないのであろう。

 そんなのは身勝手な話だが、人の感情というものは割り切れるものではない。特に子供の感情なんてものは、なおさらその傾向が強い。

 何も彼を邪魔したり、いじめたりまでしなくてもと思うが、それほどまでのルサンチマンによる悪意は強烈なのだ。

 

 嫌な話だ。

 学校の現場では、もっと「醜いアヒルの子」の逸話を子供たちに聞かせるべきだ。

 

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春の夕暮れ、肌寒い空気と白い月