「ばらばら死体の夜」 桜庭一樹作 集英社文庫
最近、人の悪意に関する文章を書いているが、その意味からもこの一作はヒットした。
世の中の不幸が、人々の悪意を醸成すると書いたが、この作品の中は不幸のオンパレード。
不慮の交通事故で親を亡くすに始まって、貧困、ワーキングプア、消費者金融、母子家庭、脅迫、窃盗、そして極めつけが「バラバラ殺人」。
これらの不幸の連鎖の果て、多くの人々の悪意が交錯する。
とても暗いけど、惹きつけられる作品だ。
よく、「のづさんは、どうして暗い作品ばかり好きなんですか?」と聞かれるが、そもそもフィクションとしての文学作品とはそういうものだろう。
あるところ、郊外の閑静な住宅街。幸せな家族がゆったりと暮らしていました。
父は大手金融機関に勤めるエリートビジネスマン、上品で料理の得意な母は最近フラワーアレンジメントに凝っています。
自慢の息子は、この春、一流大学の付属高校の入試に合格して、春休みは友人とがヨーロッパ旅行に出かけています。
家族の一員であるコリー犬のジョンは、広い庭の芝生で嬉しそうに遊んでいます。
祖父は仕事を隠居して、仲良しな祖母と伊豆の温泉巡りをして、綺麗な桜の映像を送ってきました。
健康一家、幸福家族。
こんな話は小説にはならんだろう。