「民宿雪国」   樋口毅宏著   祥伝社文庫


 これは面白い!

 新年そうそう面白い作品に出会えた。

 とにかくストーリー展開、その構成がハチャメチャなのだが、単なる低劣なエンターテイメントに堕してはいない。


 新潟の片田舎でしがない民宿を営んでいる老人が、ある時から世界的な芸術の巨匠となっていくストーリー。しかしその美術界の大家は、多くの人々を殺めた残忍な殺人鬼だったというもの。


 見る側面によって、崇高な芸術家か卑近な小悪党か、人間の姿は鏡のようだ。




 この一冊を読んで、感じたこと。むしろ考えたこと。

 現代日本社会の劣化の最大の原因は、、、、。

 本質をとらえることなく、すべて表象を評価するようになったことだろう。

 表現の仕方が良いとか、もっと単純には「見た目が良い」とかが重宝される。

 ソフト社会にあっては、見た目を含んでのコミュニケーション能力(だいたいが最近の研究によれば、コミュニケーション能力そのものが、技術というよりは大部分が見た目に依拠するというのだが)が大切というのも理解できるが、この傾向の行き過ぎは、いつかどこかで大きなしっぺ返しを食らうような気もする。

 

 嘘と真実をきちんと見極める能力が社会に求められているのだろう。


 実質を伴わない見た目など、所詮は一過性のものでしかないのであるから。