「黄龍の耳」 大沢在昌作 集英社文庫
中国の皇帝の血筋を引くという若者が、その力を駆使して敵を倒すという、スローリーとしてよくあるような平凡なエンターテイメント作品だ。
その中での人物の設定に興味を覚えた。
主人公の大きな耳たぶには穴(ピアスとかではない生まれつきの穴)が開いていて、その耳から強運とパワーが発散されるというものだ。
その封印されたエネルギーを解き放つことで、ラスベガスでは奇跡の大勝をするし、絶世の美女にも言い寄られる。まことにうらやましくも、愉快な話なのだ。
ところで、これと似たような逸話を私は、アジアの片隅で長老然とした人から語られたことがある。
大きな耳たぶは古来金運の象徴とも言われているが、その耳たぶに生まれながらにほくろを具える者は、さらに強運の持ち主だというのだ。
まぁ、迷信や人相学の範疇であるが、みなさまはどう思われるか?
そもそも、小さな耳たぶにほくろがあるなんて、とても珍しいことだ。
そんな奴はそうそうお目にかかれないのではと考える人も多いだろう。
しかし、私は耳たぶのほくろを具えている人物を知っている。それも片方だけではなく、右の耳たぶにも左の耳たぶにも、ほくろがある人を知っている。
何かの勘違いとか、見間違えとか、後から書き加えたとかではない。幼い頃から、そのようだ。
その人物とは、実は私なのだ。
先の長老の話も、とある場所で私の耳を見て驚いて、私に話された逸話なのだ。
しかし、私は大金持ちでもなければ、絶世の美女にもてるわけでもない。
そこが問題だ。