「俺俺」   星野智幸作   新潮文庫



 タイトルだけみれば、「オレオレ詐欺」か何かの話かと思われるが、実はシュールな作品だ。

 実際に出だしの部分は、オレオレ詐欺のような展開なのだが、そこから登場人物が交錯していき、予想できないような展開に広がっていく。


 俺、そう自分と同一の人物が、世界に大勢現れてくるというあらすじなのだが、とても観念的な物語として作られている。学生時代にカフカを読んだ時の様な感覚であるが、さすがに現代の作品だけあって、その細部には妙な同時代的な生活感がある。


 欲を言えば、最後の部分が良くない。安っぽいヒューマニズムに締めくくられているのだ。

 この手の作品には、偽善的な落としどころは似合わない。あくまでも残酷で救われない物語として完結してほしかった。