「旅に出て、目的地がどんどん遠のいていくのを経験すると、本当の目的は旅そのものであったことに気がつく」  カールフリート・グラフ・ヂュルクハイム


 旅に出て、目的地にたどり着いても、その目的地が何だかかすんで感じられたり。楽しみにしていた旅の目的そのものが、どうしても心躍るものとしてとらえられないという経験をしたことはないだろうか。

 旅とは日常生活からの離脱であるから、本来は目的を持ってどうのというのではなく、ふらりと無目的に出かけるものだろう。

 何から何までスケジュールにがんじがらめに縛られた団体旅行など、旅の面白味は半減してしまう。予定に追われる旅が楽しいはずはない。

 特定のものを物見遊山することよりも、旅をしている過程の時間が素晴らしいものなのだ。これは毎日の生活についても当てはまるかもしれない。


 人生そのものを旅に例えることもある。 

 そして、そもそも人生に特定の目的や目指すべき形などないのかもしれない。

 人生において、何事かを成し得ることも大切だけれど、真の楽しみや喜び、充実感はその達成の過程にこそあるのではないだろうか。


 旅に出発する時のワクワクするような気分。そんな心持ちで、毎日の生活を送りたいものだ。


 そして現在の日本社会に一番欠けているもの、それが未来に向けての旅のようなワクワク感だろう。

 状況は劇的に悪化しているものでもない(たとえ財政赤字で国民経済が一時的に破壊されたとしても)のに、どうして人々はかくも暗いのであろうか。国全体が年を取った老人のようだ。


 現状の諸問題を解決するために奮闘することも大切だが、政治家たる者は大いなる未来への旅の道を示すことも必要なのではないだろうか。