破壊的なインフレが社会にもたらす惨事については、もっとも有名な例として第一次世界大戦後のドイツ、ちょうどナチスによる政権獲得前の時代に見られる。リアカー一杯の紙幣をもってパンを買いに行ったりとか、道端に捨てられている紙幣を子供ですら拾わないといったエピソードが語られている。


 日本の国では幕末、江戸時代末期に各藩で大量に刷られた「藩札」(藩の中だけで流通する紙幣)があげられる。藩士の扶持の欠配分は「藩札」によって支払われ、藩内では急激なインフレ状況になっていくさまは、まさにインフレ情景を呈していく。当時の文献などを見ると、とても参考になる。

 しかも幕藩体制という強力な権力機構のもとでの、過激なインフレである。当然、紙幣ではない金や銀を保有していることは、不正隠匿として厳しく取り締まりの対象となり、隠された金や銀は役人によって摘発、徴用されていった。紙幣を金や銀に変えていくことだけで、犯罪として処罰されるのだからかなわない。

 「藩札」などは当然のことながら、その藩の内部だけでしか通用しない。これぞ権力側が強引に市中から富を強奪した一例だろう。


 その点は現代の日本は素晴らしい、せいぜい金塊の取り引きに関する税制の強化というくらいだろう。ましてや、これまでの円高おかげで、世界中で一番安く金を購入できる状況である。


 しかし現実はどうであろうか。日本の国民は逆に金を売っているようだ。街中にちらほら見受けられる「金・プラチナ買います」のお店が繁盛しているくらいなのだから。


 一般的な日本人の感覚としては、インフレのヘッジには金や株よりも土地(不動産)ということなのだろうか。終戦後のインフレ、その後の高度経済成長時代、そしてバブル期と、不動産は一貫して値上がりしてインフレのヘッジどころか有り余る利をもたらした経験があるからだろうか。

 しかしこれまでとは前提条件が異なっている。当時は日本の人口は増え続けていたのだ。そして現在は人口は減少している。この点は重要だろう。