3丁目の夕日の時代、レトロな昭和とか呼ばれている時代から、もう早くも半世紀近くの時間が流れようとしている。あの時代と現在とでは、何が違うのか。

 時々うらぶれた新宿ゴールデン街を通りかかるたびに思うことである。やはり、一言で表現するならば、「時代の空気」というものなのか。



 「堕落」  高橋和巳  新潮文庫



 この作品には、過ぎ去りしあの時代の雰囲気が漂っている。作品自体はきわめて観念的なものだが、彼の描くものはなぜか時代の空気を感じさせる。

 彼が生きて描いた20世紀の後半と現在とでは、社会の在り方も人々の意識も変わってしまった。

 堕落として描かれていることは、現在では堕落としてすら認識されない。贅沢な感傷ですらないだろう。この半世紀の時間の経過をえて、私たちは現実に対する思いや感性を著しく変質させていった。現在の世界とは、ある意味で生きやすく、そしてある意味で生きにくい。



 私たちはどこからやってきて、今どこにいて、そしてこれからどこへと向かっていくのだろう。