リスクを軽減する方法の一つに「分散」という方法があることについて前回から考えてきた。特に資産をどうするか、投資をどうするかの観点からの、リスク分散の研究は歴史が長い。

 金持ちにとっては、まず一番に大切なことは「現在あるお金を増やすこと」ではなく、「現在あるお金を失わないこと」だからだ。お金、つまり資産は消失しなければ、自然と複利で増えていくものだからである。だから資産家にとっては、何はともあれリスクを避けることが最優先の課題だ。


 そこで、2つの対応が想定される。「リスクは避けることのできない事実であるから、それをなるべく軽減するために分散を心がける」という考え方と、「リスクを分散するよりも、リスクを的確に察知して、素早く危機から逃れることを心がける」という考え方の2つである。

 近年では後者の考え方が広く受け入れられている。投資の分野でも一般的になりつつある。ちょうどトレンド分析の手法が、「ファンダメンタル」から「テクニカル」に移行するかのように。


 私個人の考えでは、やはり分散の方に利があるように思われる。確かにリーマンショックのような経済の激震の前には、いかにリスク分散しようとも歯が立たない。それよりも、サッサと逃げてしまった方が勝ちのような気もする。しかし世の中には人智を超えたリスクというものも存在する。やはり分散という考え方は必要不可欠なのである。


 そのことを裏付けるようなことが起きた。以下は知人の資産家の失敗談だ。彼は幅広く資産を株式に振り分けていた。リーマンショックの手痛い損失を教訓にして、確実で安定した銘柄(価格においても配当利回りにおいても)に集中して資産を投資するようになった。

 大きなパフォーマンスは得られずとも、安定したリスクのない銘柄に集中させたのである。そのほとんどが電力株だった。特に東京電力。東京電力は関西電力や九州電力などの他の電力株に比較すると、配当利回りは低いが、その安定性は高いとされていたのだ。

 彼は言っていた。「東京電力がダメになるときは、日本の国自体がダメになるときだから、一番安定している銘柄に集中してリスクを避けるのだと」

 確かに当時とすれば、彼の意見は理にかなっていたものだろう。何もいかがわしいライブドアの株に集中するというのではない、私たちにとって必需品である電力を供給している、天下の東京電力の株なのだ。しかしどんな場合でもリスクは軽減しても、けっして0にはならないという事実を忘れていた。

 そして福島第一原発の事故が起きた。いったい誰がこのような惨事を想定できたであろうか。しかしこれが現実である。リスクの分散を避けて集中を選択した彼は、東京電力の株式に多くの資産を振り分けて、リーマンショックどころではない、とてつもない大損害を被ってしまった。

 

 これは他人の笑いごとではない。同じようなことが、いつ何時、自分たちの身に降りかからないとも限らないのだ。だから最小限のリスク分散は必要不可欠である。