ベニバラ兎団vol.13【6-six-】
unit1 黄色いSUISEI~午前0時のきいちゃん~
unit2 青いレバリッジ~狂った計画~
unit3 RED SCREAM~産んで良いですか?~

ご来場、誠に有り難う御座いました。
まず最初に劇場へと足をお運び頂いた皆様に心より感謝申し上げます。

6-six-の『あとがき』。
今回の3作品、結果的にとても充実した本だったと思います。
いつもベニバラの本は約120ページに及びます。
初見の本読みは大体3時間、立ち稽古で2時間30分強、テンポと間を作って概ね2時間10分弱。
こんな仕組みで出来上がって行く訳ですが、今回は三作品を同日に公演する都合上、
若干公演時間を短めにしたいと言う要望があり
『黄色い・・・』65ページ。
『青い・・・』は74ページ。
『RED・・・』は60ページ。
どれも通常の約半分の量。そしてそれぞれの平均上演時間は95分。
これ結構良い感じのタイムなんですね。足し算が可能、泣く泣く引き算をする必要なし。
要するに融通が利くナイスなタイム。
今更『今まで書き過ぎてたんだな・・・』と振り返る始末。
劇場によっては2時間を越えるとお尻が痛くなりますもんね。

ベニバラ兎団は結成時に【骨太のコメディをやる演劇集団】
と言うコンセプトのもとに活動を開始したので必然的にハードルは高いです。
大きな使命感を背負って毎度舞台に挑んでいます。
演劇集団て【何系】みたいな、ある程度その集団の匂い的な方向性を
Infoする必要があると常々思いますね。
リスキーだけど至極当然なんだと。

だってね、そもそも演劇と言うのは観劇料が高い。
興行をしているこちらが言うのもなんですが、高い。
欧米だともう少しリーズナブルな物もあります。
そりゃ作品にもよるけど、総じて演劇行くと言う手軽さがある。
ま、その分ヨーロッパはテレビが面白く無いと言う相乗効果もあるんだけど。
日本の観劇料がこれだけ高いのは俳優やタレントさんのギャラも高額ってのもあるが
多くは劇場費に起因すると考えます。
この辺りに革命が起きない限り作品を提供する側はこのある程度のテイスト感を
Infoする義務があるでしょう。何をするのか?どんな系統の集団なのか?
安い買い物ではないですから。
だから改めて声を大にして伝えるのですが、ベニバラ兎団は【骨太のコメディ演劇集団】です。

誤解が起きないように一度整理しておきますが
コメディは面白いと言う要素だけでは成立しないジャンルだと考えてます。
例えばマインドマップのど真ん中に《コメディ》をデーンと構えさせた時
その周りには《悲しみ》《怒り》《悲観》《希望》《絶望》《稚拙》《夢》《真剣》
《裏切り》《成長》《ストレス》《無神経》《正義》《不条理》《勇気》・・・など。
様々な要素が化学反応を起こして初めて【面白い】現象が生まれ
結果コメディに至るんですね。
このケミカルをそっちのけで、その集団をいつも見ていないと分からないギャグ
その場のノリのギャグ、作品の世界観を無視した台詞での笑いの誘発
最悪なのはやってる本人達が笑ってしまってる・・・。
コレ、駄目ですね。
勿論、本気でコメディをやっている集団、ユニットは沢山あります。
僕も幾つかそんな集団の作品を見た事がありますが、誰だか知らなくても心奪われ
本気で笑ってしまっている。そんな骨太の集団は沢山小劇場界には存在します。
ベニバラ兎団もコメディを愛する集団の一員として
真摯にコメディに向き合い、この先も上質な作品をお届けするのみなのです。

6-six-でご覧頂いた三作品はそのどれもに自信を持ってお届け致しました。
さてここからは公演をご覧頂いた酔狂な皆様へ《あとがき》を。

unit1《黄色いSUISEI~午前0時のきいちゃん~》は元々
《黄色い保育園~午前0時のきいちゃん~》と言う作品だったんです。
新宿歌舞伎町にある深夜の保育園のお話です。
事実、娘が行ってる保育園が黄色いのです。
ゲストの平田弥里さんが、娘のきいちゃんを保育園に預け、
夜のお仕事へと向かった後に起こる騒動をお話にしようと思ったのですが
プロットを進めても進めてもちぃ~とも面白くならないんですね。
そのうちいつか面白くなるんだろうと我慢して書き進めたけど、一向に面白くならない。
『この本、構造的に面白くならないな・・・』てな事で、お話自体を思い切ってデリート。
この時点で約2日間のロスが発生です。三作脱稿するのに約3週間も無いと言うのに。
一から考え直し着地したのが、小さな町のラジオ局と言う設定。
この設定があの時、保育園と同じ様にちぃ~とも面白くならなかったら?
と思うと身の毛がよだちます。
だけど意外にも面白かった。書いてても楽しいと言うか。
作者の頭の中にアドレナリンが沸き出し、心も頭も楽しいモードになると、
大方その作品は100%面白くなりますね。
脳が踊るんですね、踊り始めると作品は確実にエネルギーを持ちます。
さて副題ですが、保育園のお話をやめた後、当然変更するつもりでした。
元々は保育園の時につけた副題ですから。
だってきいちゃんはラジオ局のお話とは全く関係ありませんもの。
ところがこの『午前0時のきいちゃん』を物語のクライマックスで上手く活用出来るかも?
と直感的に思えたのは今思えば相当脳が踊ってた証拠です。
こう言う安易で直感的なアイデアは時として物語に強いインパクトを与えます。
逆に用意周到な伏線の方が意外と効き目が弱かったりもして・・・。
つまり作者にエネルギーがある時はある程度の事をドラマティックに表現出来るものだと思います。
てな事で、きいちゃんの件は元々あった訳ではなく後付けに過ぎなかったのです。

この作品のキーマン【オーティス舞浜】役を演じた団員の青地洋。
彼の役どころは当初ピザの配達人。
しかし配役を書いた紙を見た彼の顔を見た時、なんか嬉しそうじゃ無かったので
急遽番組にゲストで来た一発屋のアーティストに変更しました。
今となれば変更は正解、重要なキーマンになりましたよね。
オーティスの存在は物語の楔(くさび)役として非常に重宝しました。
ああ言う役がいてくれると物語全体に愛着感が生まれます。
この愛着感も作品にはとても大切で、そんなキーマンが一人でもいると本は面白くなる。
勿論、青地君があの時ピザの配達人が気に入らなかったどうかは確認を取っていないので
未だその辺りの真相は分かりませんが。
僕と言う作者は、俳優達の顔色も伺っている臆病な生き物だと言う事です。
しかしですよ、あの間の取り方で、多くの人々から笑いが取れたのは
決して本の構成力だけではなく、彼の表現力が大きいのです。
だって作者が思うんです、紙面上ではあんなに面白い人物じゃなかった。
ね?

タイトルを黄色いSUISI(彗星)にした理由。
では一度RED SCREAMに飛んで説明しましょう。
RED・・・は2005年に、僕が当時いた劇団でやった事のある作品。
初稿では《惑星直列》が原因で男性が妊娠すると言うお話でした。
当時のタイトルは【リビングの中心で何を叫ぶ?】。
だけどこの惑星直列と言う感じがどーも時代遅れを感じたんですね。
ならば彗星にしちゃえ!で彗星になったのです。安易でしたね、ご免なさい。
彗星が時代にマッチしてるかどうかはさておき
惑星直列よりは古臭くないと言う個人的な好みの問題だったのです。
さてこの【黄色いSUISEI】のテーマは『成長・大切な誰かに想いを伝える』でしたが
実際問題、この想いを伝える事が作者自身がとても下手な人物ゆえ
自分を戒めるような思いで、自分ももう少しこうありたい・・・。
と思いながらラストシーンを書き進めました。
もっと素直に想いを言葉にして伝える事が出来たなら
人としてもう少し成長出来るんだろうな~とつくづく思うんですね。
そんなこんなで《黄色い・・・》の製作日数は約8日間。

Unit2《青い・・・》
これは僕自身が出演した作品だけど、一度悪役をやってみたい!
そんな所からスタートした超個人的好みで書いた作品。
そして書く前から《長~いコントみなたいな作品》にしよう!
だけどそんな意気込みとは裏腹に、実際コント色は強くならず
強いて言うならあのストッキングをかぶった所だけだったんじゃないかな?

本作は誘拐事件がプラットホーム。
人質としてターゲットになった大学病院の教授の娘。だけど連れて来た人質は別人だった!
てんやわんやの中、なんとその人質が突然主導権を握り
誘拐事件は犯人達の意と反してスケールアップして行く。
この物語の構想は実は2~3年前からあったんだけど、満を持してこの6-six-で作品化。
今まで作品に出来なかったのはベニバラがいつも大所帯だったから。
まさか本公演でこの構想がベニバラで出来るとは思ってなかったのです。

テンポと展開に一番苦労したのは紛れもなくこの『青いレバリッジ』。
密室劇ゆえに、ワンシーンに飽きがくる直前で暗転を挟み次の展開に持って行くように作ってみました。だけど立ち稽古中、どうしても中だるみを解消出来ないシーンがあり、無念の数ページカット!泥と河合のシーンは実はもっと長かったのです。
面白いシーンだったんだけど、もう十分に泥と河合のボタンの掛け違いは表現出来てので断腸の思いでカットしたのです。

さて誘拐された女の子は自分の不遇な家庭環境にネガティブで
降り掛かったこの事件を逆に利用する荒んだ性格の持ち主でしたね。
しかし鬱ではなく躁でもなく、どこか奇想天外、天真爛漫、破天荒な人物。
演じた団員の原さち穂がどれだけ本を読み込んだのかは知らないけど
稽古初段階の時点で人物クオリティが高かかったので
かなり早い段階からイメージが出来ていたと思うのです。
とは言ってみたものの本人確認した訳じゃないから真相は分かりませんが。

僕は小説を書いた事が無く、今まで小説に挑戦しようと思った事がなかったのですが
昨年あたりから【書いてみたいな】と血迷っているんですね。
もしそうなったら、この作品を小説化します。

Unit3《RED・・・》
一番難解なナンセンスコメディ。個人的には三作中、一番好きなお話だったりします。
初演の2005年は作品の持つ毒々しさや、不条理感を消化出来ず、満を持してリメイクした作品。
クライマックスは決して気持ちの良い終わり方ではありませんでしたね。
すいませんでした、、、レッドなのにブルーにさせちゃって。
実に人間的で泥臭く、人間臭い、闇の終わり方。
だからこのお話は決してハッピーエンドにはならないのです。
例えばこねくり回してハッピーエンドにしたらつまらない。
ならば最初から違う作品を書いてたでしょうね。
結果的に感情のディテールを丁寧に演じる事が出来る飯田南織の酔演、妙演、好演によって
この作品は完成したと思います。
そして客演の白石朋也さんの飄々とした表現力にも支えられた感が強い。
この飄々とした雰囲気ってナンセンスには必要な表現法ですから。
不条理だとか、ナンセンスって、どこかリアリティを感じず
日常からかけ離れた世界のように映るかも知れませんが
僕にとってはとてもリアルで、とても身近な心理劇だと思うんですね。
だからこの人間臭さが好きで最も好みだったりするんです。

赤い靴下が吊るしてあった演出について。
劇中は全く動かない靴下。
クライマックスで美香と昭夫が二人きりになった辺りからユラユラと揺れ始める。
美香の心の動き、混乱、決意、覚悟、要は心の動揺を表現しようと試みた演出。
混乱なのか?決意なのか?それはあのシーンでの美香の表情を見た方の解釈に委ねるもので
演出からの答えはありません。

6-six-は僕の中にある面白い部分と、シリアスな部分と、あたたかい部分、冷たい部分
さりげない部分、くどい部分、舞台的な部分、映像的な部分
色んな部分を総合し三分割した作品群でした。
超個人的モードで書いたこの作品群を、具体化出来たベニバラ兎団の俳優達の力強さ
そしてこの6-six-の興行をやり遂げたベニバラ兎団、改めて良い劇団です。
内側にいる僕が言うのも変ですが。

そして私達はゲスト俳優の方達に常に恵まれている事も決して忘れていません。
多大なる協力があり常に稽古を計画通りに進行出来ます。
確かな演技で脚本が一回りも二回りもドラマティックに生まれ変わります。
この場を借りて心から感謝致します。

さて公演も終わったので、これからは映画を見たり、本を読んだり、他のお仕事をしたり
完全にスイッチをオフにして生活します。

次にオンした時、心も身体も踊れる態勢でいれるように。

ではこのあたりで娘を保育園に迎えに行くとしましょう。
皆様、よい春を。