マトヴィエンコ&東響 シン・ペトルーシュカ | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳東京交響楽団 第721回定期演奏会(6/15サントリーホール)

 

[指揮]ドミトリー・マトヴィエンコ

[ピアノ]髙橋優介*

 

ラヴェル/道化師の朝の歌

ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」

ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)*

 

これが日本デビューとなるドミトリー・マトヴィエンコは、ベラルーシ出身の33歳。2020年代に国際的な指揮者コンクールで頭角を現し、ユロフスキやクルレンツィスのアシスタントを務め、デンマークのオーフス響首席指揮者に就任予定という新鋭。若手指揮者の先物買いには実績のある東響だが、さて今回のマトヴィエンコはどうだろうか。

 

当初発表のプログラムでは、前半にはツェムリンスキーの交響詩「人魚姫」が予定されていたが、ラヴェルの2曲に差し替えられた。「道化師の朝の歌」は2年前にもノットで聴いているし、せっかくなら「人魚姫」を聴いてみたかったのだが…。挨拶代わりの「道化師の朝の歌」は、冒頭から弦のピチカートが気持ちよく爆ぜ、続く「マ・メール・ロワ」もそつなくまとめていたが、誰が振ってもそれなりに聞こえる演目でもあり、ここまでは格別の印象は無かった。

 

しかし後半の「ペトルーシュカ」が実に鮮烈。親の仇かというほど烈しいフルートの強奏に始まり、どのパートも五割増しぐらいの音量でぐいぐい鳴らし、驚くほど筆圧が強く描線の濃いアンサンブルが立ち現れる。端的に言って音がデカい。記憶の中の音量の比較は困難だが、過去に聴いたどの「ペトルーシュカ」よりもデカいのではないか。しかも16型の大編成で、これほど膨大な数の音に溢れていながら、どのパートのどの音符も細大漏らさず聞こえているような感覚がする。

 

指揮台の正面に置かれたピアノも、いつになく雄弁で歯切れがいい(ソロの髙橋優介氏は一度聴いてみたいピアノ・ユニット「アンセットシス」の1人)。「ロシアの踊り」以外の場面では何をやっているのか分からないことも多いピアノ・パートだが、この日は完全に主役級の存在感。ほかにも、最近凄みを増しているフルートの相澤氏、安定感あるトランペットのディラン氏、本職のコーラングレが似合う最上氏、場面転換の連打も忙しいスネアの綱川氏…等々、どの役も見せ場十分の群像劇が展開する。

 

謝肉祭の市場(夕方)の場面も臨場感が素晴らしい。これまで昔ながらのフィルムで観ていた名作映画「ペトルーシュカ」が、最新技術を駆使した「シン・ペトルーシュカ」にリメイクされたかのよう。この曲、ストラヴィンスキーの3大バレエの中では最もバレエと一緒に鑑賞すべき作品のような気がするのだが、これだけスペクタクルにやってくれれば、もはや音楽のみでお腹いっぱいである。18時開演で19時30分過ぎには終演していたコンパクトな演奏会だったが、満足感にはいささかも不足が無い。

 

マトヴィエンコ、少なくもこれほどオケを鳴らせる技術には非凡なものがある。これが「ペトルーシュカ」だからなのか、それ以外でも発揮される個性なのか、ほかのレパートリーもぜひ聴いてみたいところ。そういえば東響は首席客演指揮者のポストがしばらく空いてますねぇ…。