音楽・ダンス・演劇で描く「ラヴェル最期の日々」 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム(2/18東京文化会館小ホール)

 

ラヴェル最期の日々

 

[音楽監督・作編曲・ピアノ]加藤昌則

[演出・脚本]岩崎正裕

[振付・ダンス]小尻健太

[俳優]西尾友樹

[ヴァイオリン]橘和美優

[チェロ]清水詩織

[バンドネオン]仁詩 Hitoshi

 

毎年この時期には芸劇主催の趣向を凝らしたオペラ公演があり、東文主催の複数ジャンルがコラボした舞台公演があり、今年はそれが同じ週末に重なった。そしてどうやら私の場合、新国などでの本寸法のオペラよりも、こういった小粒でもピリリとしたプロダクションに惹かれる傾向にある。このホールではお馴染みの加藤昌則氏も、東京春祭のブリテン・シリーズで知って以来のファンだけれど、音楽からその周辺へと越境していくプロデューサーとしてのセンスを信頼している。

 

舞台を取り囲むように縦長の大きな鏡が6枚、背景に林立していて、舞台上のみならず客席まで映り込んでいる。床にはモノクロームの市松模様が一面に描かれている。出演者はダンサー、俳優、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、バンドネオンの6人。舞台下手の手前にバンドネオン、その奥にピアノ、ヴァイオリン、チェロ、上手寄りには小振りなソファが置かれていて、ラヴェルに扮したダンサーが座り、俳優が語りかける。

 

語られるのは作曲家モーリス・ラヴェルの波乱に満ちた生涯で、実在したという隣人ジャック・ド・ゾゲブ役の俳優が問わず語りに1人でしゃべり続ける。交通事故の後遺症で記憶障害と言語障害に悩まされたラヴェル晩年の、朦朧とした意識に去来する追想の断片。街角で耳にした「亡き王女のためのパヴァーヌ」に感心し、傍にいた知人に誰の曲か尋ねたという。そのパヴァーヌで舞台は始まり(滲むようなバンドネオン・ソロ)、最後も息を引き取るようにパヴァーヌで終わる。

 

休憩も含めて約2時間、ラヴェルの様々な楽曲が流れ続ける。ヴァイオリンとチェロによる「マ・メール・ロワ」の第1曲、4人で演奏する「ダフニスとクロエ」の夜明け。ピアノ三重奏曲やヴァイオリン・ソナタなど、オリジナル編成での演奏もある。第2幕冒頭では「ツィガーヌ」がフルサイズで演奏された(チェロ&バンドネオン付き)。たった4つの楽器でも、この作曲家の粋と言うべき美質が瑞々しく伝わってくるし、普段とは違う編成で聴くからこそ一層新鮮に感じるということもあるだろう。

 

黙役のダンサーが要所で踊る。「全員の踊り」で、「ラ・ヴァルス」で、そして「ボレロ」で。小ホールの舞台に、小尻さんのスケールの大きな肢体が躍動する。前後半で2回踊る「ボレロ」の後半、混濁した意識の中でボレロの音楽が解体されながらも踊り続ける場面は、言葉では表現できないこのコラボならではの境地だった。ジャックとモーリスのデリケートな関係を示唆する意味ありげな抱擁の場面、棺に見立てたピアノの蓋を閉じて花を置く場面も印象的だった。