豊嶋康子 発生法―天地左右の裏表 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

 

豊嶋康子展を観に東京都現代美術館へ。どの駅からアクセスしてもそこそこ歩くMOT、前回訪れた時は夏の暑い盛りだった記憶があるが、この日は一段と冷え込みが厳しく急ぎ足になる。

 

豊嶋康子氏は今回初めて知る作家で、美術館サイトに紹介されている作品を見て興味を引かれた。身の回りの物事の見方を意図的にずらすことで、無意識の「当たり前」に揺らぎを与える感覚が新鮮。コンセプトとパフォーマンスそのものが作品化している。会場が現代美術館なので一応「現代美術」ということになるのだろうが、作品によっては演劇のようでもあり、現代詩のようでもあり、そういったジャンル分け自体が無意味に思えてくる。

 

個々の作品について感想を書くのも野暮な気がするので、リーフレットに記載された作者自身による解説(それもまた作品の一部だろう)を、いくつか画像と共に抜粋してみる(※「定規」「鉛筆」「安全ピン」はハガキより転載)。

 

「定規」

直線定規、三角定規、雲形定規、分度器をオーブントースターで加熱する。プラスチックの素材とともに目盛りも歪む。

 

「鉛筆」

鉛筆の中心付近に芯が出るように、両側から中心に向かって削っていく。1本の鉛筆は2本で向かい合う形となり、内向きの芯を折らない限り使用することができない。

 

「安全ピン」

安全ピンの針先に向かって折り曲げられた部分を、さらに折り曲げる。あるいは、まっすぐにのばす。

 

「口座開設」

銀行口座での口座開設の手続きで1,000円を入金して、2週間後に届くキャッシュカードを待つ。カード到着後に口座開設時の1,000円を引き出し、別の銀行で口座を開設する。この手続きをくり返す。

 

「輪郭3」

彫刻刀で木を削り落とさないように、接続したままの状態を維持しながら削る。彫り跡として平面上に刻まれた線と、平面から離れて空間に巻き上がった線を同時発生させた、一つの行為で示す二つの結果。

 

「書体」

受け取った郵便物の宛名に書かれた、他人の筆跡による私の名前を収集する。

 

…ね、ちょっとテラヤマっぽいでしょ。

ほかにも、そろばんがどこまでも長く伸び続ける「エンドレス・ソロバン」、白黒半々の碁石で棋譜が再現された「名人戦」、大東亜共栄圏の地図上に名前が書かれた無数の紙片が貼り付けられた「前例」等々、一筋縄ではいかない作品がまだまだある。

 

懐かしかったのが、展示室の最後に置かれた「スピログラフ」という作品。ペンを差し込んだ小さな円盤を歯車にかみ合わせてぐるぐる回すと、複雑な幾何学模様が描けるというもの。作者とほぼ同世代の私も、子どもの頃に遊んだ覚えがある。それ以来すっかり忘れていたが、その仕組みと筆跡だけで「作品」として成立するのだ。あれ、今でも売ってるんですね。今ぐるぐるやってみたら、当時とはまた違った発見があるだろうか。

 

なお、別室で開催中の特別展示「横尾忠則―水のように」(豊嶋康子展のチケットで入れる)も予想以上の内容で見応えがあったが、それはまた別の話。