マイ・フェイバリットピース2023 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

今年は第九を聴く予定が無いので、イザイの無伴奏で聴き納め。最後にまとめとして、今年聴いたコンサートで初めて出会い気に入った曲、その魅力に初めて開眼した曲、今後も聴き続けていきたいと思う曲を、聴いた順にふり返っておきたい。

 

♪シマノフスキ/スターバト・マーテル

これまでに聴いたシマノフスキ作品の中で、ヴァイオリン協奏曲第1番と並び最も好きな曲。ポーランド語による歌とオーケストラの清冽な響きに、この作曲家の宇宙が凝縮されている。第6曲でソプラノが歌うフレーズがとりわけ美しく耳に残る。ウルバンスキ&東響(4/15サントリーホール)

 

♪メンデルスゾーン/交響曲第2番 変ロ長調「賛歌」

これは以前から好きだった曲だが、実演で3回も聴けた今年、初めてその真価に触れることができたと言っていいだろう。スペック的にも内容的にももっと演奏されていい名作で、個人的には今年を代表する1曲。沼尻竜典&新日フィル(5/15サントリーホール)鈴木優人&東響(8/19サントリーホール)ピノック&紀尾井H室内管(9/23紀尾井ホール)

 

♪シベリウス/弦楽四重奏曲 ニ短調「親愛なる声」

ずっと聴いてみたかった1曲。シンフォニックな楽想と内省的な情感が緊密に絡み合い、弦楽四重奏で聴くシベリウスのもう1つの交響曲のよう。第3楽章アダージョはこの作曲家の最も核心的な一章だと思う。なかなか演奏されないのが勿体ない。The 4 Players Tokyo(8/9ハクジュホール)

 

♪コネソン/管弦楽のための「コスミック・トリロジー」

この日本初演の未知の大曲を、常任指揮者就任披露の東京公演という大一番にぶつけてきた沖澤のどかの胆力が見事。大編成のオケを聴く快感を味わわせてくれるスペクタクル作品で、在京各オケもマーラーやショスタコばかりでなく、ぜひこんな快作を採り上げてほしい。沖澤のどか&京響(9/24サントリーホール)

 

♪ハース/弦楽四重奏曲第2番「オピチ・ホリから」(弦楽オーケストラ版)

モラヴィア高地を舞台としたロードムービー的秘曲。ミニマル・ミュージックを先取りしたようなパヴェル・ハースのセンスが冴えている。弦楽オーケストラ版も賑やかな舞台みたいで楽しいけれど、いつかオリジナル編成の弦楽四重奏で聴いてみたい。トネッティ&オーストラリア室内管(10/10紀尾井ホール)

 

♪ヤナーチェク/グラゴル・ミサ

鬼才ヤナーチェクの代表曲の1つをライブで初体験。クラシックのコンサートの枠を超えた独特のグルーヴ感に胸を躍らされずにはいられない(宗教曲なのに!)。往年のプログレ・サウンドを彷彿させるオルガン・ソロの弾けっぷりがとにかくカッコいい。ノット&東響(10/15サントリーホール)

 

♪外山雄三/交響詩「まつら」

約40年前に聴いて以来、長らく実演に接する機会が無く、久々に邂逅した懐かしの曲。こんな機会が無ければ、この曲をこれほど詳細に聴き込むことも無かっただろう。佐賀県唐津市は出身地でも何でもないけれど、この曲を聴いていると、何やら心の原風景めいたものを感じる。カーチュン・ウォン&日フィル(12/8・9サントリーホール)

 

♪イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(全曲)

今年最もCDでよく聴いた作品であり、実演でも初めて全曲を通して聴いた。それぞれに性格の異なる全6曲に、ヴァイオリンという楽器の魅力のあれこれが詰め込まれている。弾き手も聴き手も、この楽器への愛情を試されているようでもあり、今後も様々な奏者で聴いていきたい。青木尚佳(12/21紀尾井ホール)

 

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今年通ったコンサートの総数は74公演(演劇・ダンスを除く)で、昨年より9つ減った。その分、今年は美術や写真の展覧会に行く機会が増えた(ここに書かなかったものも含め)。興味ある企画が多かったこともあるが、興味の方向性自体が変わってきているのかもしれない。チケット代の高騰もあるにせよ、名門オケの来日ラッシュにもあまり食指が動かなくなったり…。

 

という訳で、今年も拙文をご覧いただきありがとうございました。来年も記憶に残る作品や演奏との出会いがありますように。