ルイス・フェルナンド・ペレスが刻む「イベリア」全曲 | 今夜、ホールの片隅で

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東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

■ラ・フォル・ジュルネTOKYO2018 M236・237(5/4東京国際フォーラム ホールB5)


M236 アルベニス/「イベリア」全曲演奏vol.1

第1集(エボカシオン、港、セビーリャの聖体祭)

第2集(ロンデーニャ、アルメリーア、トゥリアーナ)


M237 アルベニス/「イベリア」全曲演奏vol.2

第3集(エル・アルバイシン、エル・ポーロ、ラバピエス)

第4集(マラガ、ヘレス、エリターニャ)


[ピアノ]ルイス・フェルナンド・ペレス


一度生で聴いてみたかったアルベニス「イベリア」の全曲演奏があるということで、ピンポイントでラ・フォル・ジュルネへ。LFJ参戦は2014年に金沢で聴いて以来4年ぶり、東京で聴くのは前回がいつだったか思い出せないほど超久々のことである。ちなみに今年のテーマは「エグザイル(亡命)」、転じて「モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ」。晩年、病身のパリにありながら故国の記憶を喚起して、現実とも幻想とも異なるイベリア半島の世界を現出させたアルベニス畢生の名編は、なるほどこのテーマに相応しい。


ルイス・フェルナンド・ペレスは、今回初めて聴くピアニスト。スペイン・マドリード出身で、1977年生まれだからもう中堅と言っていい世代である。LFJでは常連メンバーらしく、過去にも全曲演奏を行い録音もある「イベリア」は得意のレパートリーでもあるようだ。今回は19時30分から前半の第1・2集を、40分ほどのインターバルを置いて21時から後半の第3・4集を、2公演に分けて全曲が披露された。

 

第1曲から野趣溢れる骨太なパフォーマンスである。全編に頻出するスペイン舞曲の独特の節回しに、ネイティブならではの強みが存分に発揮されている。「セビーリャの聖体祭」のリズムに乗った旋律の何とも言えない絶妙の「間」がスリリングだし、「ロンデーニャ」冒頭の暴れ回るように噴出する奔放な躍動感はどうだろう。舞台を揺るがす渾身の打鍵は、ピアノを弾いているというより音を刻み付ける版画家のようであり、リズムを踏み鳴らすバイラオールのようでもある。


前半は楽器に隠れて全く見えなかったが、座席が移動した後半はぺレスの手元がよく見える位置。非常に手の大きなピアニストである。長身と長い手足のせいか、椅子の高さが低く見える。「エル・アルバイシン」冒頭の、右手と左手の掛け合いが綾なすアラベスクも聴き応え十分。「ラバピエス」に散りばめられた跳躍する音型は、べらんめえ調でざっくりと歯切れよく弾ける。ペダルとは反対側の足をしばしば宙に浮かせ、肘を支点にして豪快に腕をしならせ、身体全体でピアノと対峙する。


この組曲が並外れた超絶技巧を必要とすることを、実演で聴いてみて目の当たりに実感させられる。そしてこの難曲に、ペレスは真っ向勝負で小細工なしのパワープレーを挑み続ける。「ヘレス」では、柔らかく穏やかに始まったタッチが、クライマックスに向けて凄まじいダイナミック・レンジを形成し、再び終結部へと軟着陸していくという厚みのある構成感を示し、全編でも屈指の完成度を誇った。最後を飾る「エリターニャ」の壮麗無双なフィナーレを弾き終えると、「やれやれ」という感じで両手を宙に投げ出して全曲を打ち上げた。


アンコールは2曲。1曲目はどうやらモンポウの小品らしい。「イベリア」を弾いた後は手が石のように動かない…と嘆きつつも、スカルラッティ風の2曲目ではトリルや同音連打が頻出する大サービスだった。