■紀尾井ホール室内管弦楽団 第111回定期演奏会(4/27紀尾井ホール)
[指揮]パオロ・カリニャーニ
[メゾ・ソプラノ]リリー・ヨルシュター*
ケルビーニ/歌劇「アリババ」序曲
マルトゥッチ/夜想曲 作品70-1(管弦楽版)
レスピーギ/組曲「鳥」
ドビュッシー(クロエ&カプレ編)/ベルガマスク組曲
ベルリオーズ/クレオパトラの死*
現在の楽団名に改称して2シーズン目を迎えた紀尾井ホール室内管。私が改称後に聴くのは、昨年6月の定期以来2度目のこと。今回の目玉は何と言っても「クレオパトラの死」である。この作品については、ブログを始めて間もない頃に一度書いたことがある。 オケ伴付き歌曲に抜群の適性を示すノット&東響にいつか採り上げてほしい、という主旨で、その機会は未だに実現していないどころか、少なくとも都内の演奏会でそれ以来この曲が演奏された様子も無い。だから紀尾井ホール室内管の新シーズンのラインナップにこの曲を見付けた時には、よくぞ採り上げてくれました!と快哉を叫びたい気分だった。
初めて生で聴くこの作品、やはり若きベルリオーズの書法が冴えている。特に惹かれるのは、後半、弦のピチカートが不穏なリズムを刻み続ける場面と、心臓の鼓動のようなコントラバスの音型に始まる最終場面である。特に後者は、コントラバスのみならず、弦セクションの各パートがそれぞれ別の生き物のように切迫した拍動を描き出し、室内オケならではの繊細かつ立体的な表現力が際立つ。一度沈黙が訪れた後、再び蘇生したように弦がカタッ、カタッと動き出すエンディングの鮮烈さは、実演でなければ真の凄みは味わえないだろう。ベルリオーズの音楽で個人的に最も好きなのはこの幕切れかもしれない。
クレオパトラを歌ったのは、これが日本デビューとなるロシア出身の新鋭リリー・ヨルシュター。長身のカリニャーニと並んでも見劣りしない華のあるビジュアルの持ち主で、その声は瑞々しい可憐さと翳りのある気品を併せ持つ、バランスに優れたメッゾ。カンタータ、もしくは「叙情的情景」とも呼ばれる作品の性格をよく踏まえ、決して歌劇場の歌い方ではない、室内オケとホールを活かした歌唱にも好感が持てる。この曲を聴き親しんだジェシー・ノーマンの、ゆらりとした狂気に慄くようなクレオパトラとはまた違った、ストレートでシャープな表現力が凛とした印象を残す、清新なクレオパトラの誕生である。
イタリアとフランスの秘曲や編曲作品を集めた前プロも楽しかったが、「クレオパトラ」の充実度に比べるといささかもの足りない。昨年、新国オペラのピットで見た時には気付かなかったが、弾むようなステップで軽快に登場するカリニャーニは、長い手足や俊敏な動きのシルエットがまるでクロサギのようで、レスピーギの「鳥」はまさにぴったり。第3曲「めんどり」では、最後の一声でトランペットの2人を立たせていた。管弦楽版「ベルガマスク組曲」は、「月の光」とほかの3曲で編曲者が異なる。ピアノ曲からの編曲なのに、管弦楽版にもピアノ・パートがあるのはちょっと反則(特に「パスピエ」)な気がしないでもない…。