6.9 Qアノン:「連邦議事堂占拠作戦」
1月6日襲撃のすぐ後、「Q」シャツを着た顎髭の男が連邦議事堂の廊下で連邦議事堂警察官ライアン・グッドマンを追い回しているビデオが拡散された。その男は、「Qアノン」信奉者のダグ・ジェンセンであった。
ジェンセンの逮捕後、連邦捜査局(FBI)捜査員は、最初にアイオアからワシントンDCに移動した理由を尋ねた。「トランプが、ワシントンDCの1月6日集会に確実に参加するようにと投稿した」と、ジェンセンは答えた。
ジェンセンだけが1月6日に連邦議事堂を襲撃したただ一人の「Qアノン」信者ではなかった。「Q」という文字とそれに関連した「我々の一人が行くところに、我々全員が行く(“Where We Go One, We Go All)」というようなスローガンが、暴徒の間で至るところで聞かれた。それらのスローガンは、そこに集まった群集のシャツ、看板そして旗に書かれていた。デジタル空間での取るに足りない運動であったものが、連邦議事堂の合同会議を妨害するために十分に役立つほど強力な勢力になった。
「Qアノン」は、「Q」としてだけ知られたある人物が匿名のメッセージボードである4チャンに投稿を開始した2017年に人気が出始めた風変わりで怪しげなカルトである。その投稿を行った者は、「エネルギー省」で「Q」の機密情報アクセス権限を有していたと言われていた。「Qアノン」信奉者は、トランプを「ディ―プステート(闇の国家)」の部隊と民主党員とアメリカ国民のエリートたちが主導している悪魔の小児性愛者の一団と戦っている救世主であると信じている。2017年10月の「Q」による最初の投稿記事は、前国務長官ヒラリー・クリントンが間もなく逮捕されるだろうというものであった。その予言は的中しなかったものの、その陰謀論は、時間の経過とともにますます進化し、声高となり、ソーシャルメディアのプラットフォーム全般で拡散され、最終的には陰謀論とヘイトを売り物にしていることでよく知られているもう一つの匿名のメッセージボードである8kunを住処にした。
トランプ大統領には、「Qアノン」を否認する複数の機会があった。しかしながら、彼は、基本的に「Qアノン」の中心となる教義を支持した。2020年8月19日の記者会見の席で、トランプ大統領は、彼が悪魔の結社と戦っているという「Qアノン」の信念についてどう考えているかを質問された。「分かっているように、私が諸問題から世界を救うことができるなら、私はそれを行うつもりがある。私は、自らそれに取り組むつもりだ。」と、彼は答えた。大統領選挙の2週間前のNBCニュースでのタウンホール・ミーテイングの間、トランプ大統領は当初は「Qアノン」については何も知らないと主張したが、その後、「小児性愛者に大変強く反対している」という「Qアノン」の信者を称賛した。大統領は、「そして、私はその主張に同意する。つまり、私はまさにその意見に同意している。」と強調した。
2020年に、「Qアノン」は、さまざまな選挙に関する陰謀論を拡散するという重要な役割を果たした。選挙後、「Qアノン」のアカウントは、「ドミニオン・ボーテイング・システム」のソフトウエアが票を差し替えたという主張をさらに強化した。11月19日、トランプ大統領は、「ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク(OAN)」上で「ドミニオン社による票の不正操作(dominionizing the Vote)」という見出しが付けられたセグメントへのリンクをツイートし、再ツイートした。そのセグメントは、「ドミニオン」がトランプ大統領からバイデン前副大統領に票を差し替えたと主張した。OANは、「Qアノン」陰謀論運動における重要な人物であるサイバー専門家と言われているロン・ワトキンスを特集した。ワトキンスの父親のジムは、「Q」が本拠と呼んでおり、ロンがそのメッセージボードを監督することを手助けした「8kun」を所有していた。
「Qアノン」セグメントをプロモートした後、トランプ大統領は、ロン・ワトキンスのアカウントを他の機会に再ツイートした。2020年12月15日、トランプ大統領は、その中で選挙に対する外国の干渉があるという主張を拡散した投稿記事を再ツイートした。その後、1月3日に、トランプ大統領は、ロン・ワトキンスの記事をさらに4回再ツイートした。
「Qアノン」の信奉者たちは、トランプ大統領の発言とツイートに明確に関心を持っていた。大統領の「ワイルドになるだろう」というツイートは明確な呼びかけとして広範囲に受け止められた。ジム・ワトキンスは、特別委員会に対して、「大統領の12月19日のツイートは、彼らに対してのワシントンDCに来るようにという呼びかけであったということにきわめて多くに人々が同意するだろう」と語った。ジム・ワトキンス自身は、大統領の呼びかけがあったので、1月6日にワシントンDCで行進をしたが、いかなる犯罪でも起訴されてはいない。
他の「Qアノン」の信奉者たちは、トランプ大統領の行動を求める呼びかけに応じてワシントンDCに参集した。「POTUS(合衆国大統領)が2021年1月6日にあなたがワシントンDCに参加することを要請した」と、「Qアノン」の信奉者のトーマス・マンは、フェ―スブックに投稿した。マンは、さらに付け加えた。「我々の大統領は、我々からたった二つだけのことを要求している。これまでのところ、一番目は「投票しろ」であり、二番目は2021年1月6日だ。」「Qアノン・シャーマン」としてよく知られているジェーコブ・チャンスレーは、トランプ大統領がすべての「愛国者」に1月6日にワシントンDに来るように要請したので、アリゾナから移動してきたと連邦捜査局(FBI)に告げた。
その調査を行っている中で、特別委員会は、「Qアノン」陰謀論がしばしばそれ以外の過激派の信念と重複していることを知った。「オース・キーパーズ」のスチュワート・ローズは、自分は「Qの類ではないし、まったくQの支持者ではない」と、特別委員会に対して証言した。しかしながら、ローズは、彼自身の目的のために「Qアノン」を利用した。「オース・キーパーズ」のウェブサイトとテキスト・メッセージは、「Qアノン」の言い回しがちりばめられていた。「プラウド・ボーイズ」の後を追った映画製作者のニック・クエステッドは、「プラウド・ボーイズ」の仲間内での議論で「Qアノン」を話題としていたのをしばしば聞いた。
1月6日が近づくにしたがって、「Qアノン」関連のウェブサイト「8kun」上のいくつかの投稿は、暴力が差し迫っていることを示唆していた。「君たちは、1月6日にワシントンに行き、連邦議事堂を襲撃することができる!」と、あるユーザーは書いた。この同じユーザーは、次のように続けた。「できる限り多くの我々愛国者たちは、政府の建物を襲撃し、警察官を殺し、警備員を殺し、連邦政府職員を殺し、票の再集計を要求するだろう。」ウェブサイト「8kun」上の他の投稿は、ユーザーが議事堂内に侵入した後にターゲットにすべき政治家について話し合った。
「Qアノン」によって吹聴されたイメージはまた、1月5日と6日に関するイベントを計画した様々なグループによって幅広く共有された。そのイメージの最たるものは、「連邦議事堂占拠作戦(Operation Occupy the Capitol )と書かれていた。その中心となったイメージは、連邦議事堂ビルが二つに割れる姿を示していた。その左側の隅には、「ハッシュタグ我々はストームだ(#WeAreTheStorm)」というフレーズが書かれていた。
(以下、「6.10メッセージボード「ザ・ドナルド・ウイン(TheDonald.win)」:「連邦議事堂を占拠せよ」」に続く)