第5章「法理論を求めたクーデター」

はじめに

2021年1月6日の朝、マイケル・R・ペンス副大統領は、祈りをささげるために彼のスタッフを集めた。ペンス副大統領と彼の側近たちは、その日が大変な日になるだろうということを知っていた。彼らは、神に対して今後の数時間に対する「導きと英知」を願った。ドナルド・J・トランプ大統領の荒れ狂った政権の全期間わたって、ペンス副大統領以上にトランプ大統領に忠実であった共和党員はいなかった。ペンス副大統領は、皆無ではないにせよ、ほとんど彼の上司を批判しなかった。しかしながら、1月6日が近づくにしたがって、トランプ大統領は、彼の副大統領を激しく非難し始めた。

ランプ大統領は、必死だった。これまでの章で描かれたように、大統領は、権力に留まる方法を追求していた。彼は、バイデン副大統領に選挙で敗北した。彼の弁護士達が提起したすべての裁判に敗北した数週間前に、彼は、選挙を覆すための法的選択肢を使い果たしていた。

大統領はまた、その他の手段も追求した。トランプ大統領と彼の弁護士たちは、選挙を覆すことを州と地方の当局者に説得しようと試みたが、抵抗に会った。これらの同じ当局者たちは、法律に違反することや合衆国憲法に対する誓約を破ることはなかった。トランプ大統領と彼の仲間は、州議会に対して前副大統領が獲得した合法的な選挙人をトランプ選挙人と入れ替えることを説得しようとした。トランプ選挙対策本部は、ワシントンに偽の選挙人票を提出した彼ら自身の偽選挙人の集会を招集さえした。しかし、これらの取り組みも失敗した。

トランプ大統領はまた、彼自身の不正な政治的目的のために司法省(DOJ)を利用しようと試みた。トランプ大統領は、司法長官代行の職を彼に忠誠を尽くした者に提案した。トランプ大統領は、この同じ司法省職員であるジェフリー・クラークが、いくつかの州に対して彼らがトラン選挙対策本部によって招集された偽選挙人を認証すべきであると示唆する書簡を送ることを望んだ。トランプ大統領の司法省を悪用しようとした取り組みは、司法省の幹部と大統領法律顧問室の弁護士たちが、クラークを長官代行に任命した場合には大量に辞任すると脅した時である1月3日に山場に達した。

その時点で、副大統領が上下両院合同会議で果たすことができる役割に関する議論が、インターネットの一定のコーナーとトランプ支持の弁護士たちの間で広がっていた。トランプ大統領は、彼の近くで4年間にわたり忠実に仕えてきた男に彼の焦点を絞った。

2021年1月4日、トランプ大統領は、選挙結果に異議を申し立てる訴訟でトランプ大統領の代理人であった法律学教授のジョン・イーストマンとの会議のためにペンス副大統領を大統領執務室に呼び出した。イーストマンは、トランプ大統領に代わり、副大統領は1月6日の上下両院合同会議中において自らの判断でことを処理することができると主張した。

イーストマンは、ペンス副大統領に2つの選択肢を提案した。最初に、副大統領は、バイデン副大統領が勝利したいくつかの州からの認証された選挙人を一方的に拒否することができ、これによって大統領職をトランプ大統領に引き渡すというものであった。あるいは、イーストマンによれば、ペンス副大統領は、州議会に対してトランプ大統領に忠実な新たな選挙人を認証する機会を与えるために両院合同会議を遅らせることができるというものであった。イーストマンは、トランプ大統領の前で、二つの選択肢が共に、合同会議中に選挙人票を集計し、争うことに関する手続きを定めた法律である1887年の「選挙人集計法(Electoral Count Act)」に違反することを認めていた。イーストマンは、その後の副大統領スタッフとの会話でも同様にそのことを認めていた。

したがって、トランプ大統領は、このスキームが違法であること、実際にそれが選挙人集計法と合衆国憲法に違反していることを知っていたはずであった。トランプ大統領は、ペンス副大統領はいずれにしてもそのスキームを実行すべきであると繰り返し要求した。

ペンス副大統領は、1月4日とその後の数日間、トランプ大統領の要求を「何度も」拒否した。ペンス副大統領は、認証された選挙人票を集計する以外の措置を講じるいかなる権限も有していないと正しく指摘した。米国の建国者たちが、副大統領が選挙人票を一方的に拒否し、大統領選挙の結果を決定するというシナリオを検討した可能性はなかったと思われる。

しかしながら、トランプ大統領は、引き下がるのではなく、一層圧力を強化し、陰に陽にペンス副大統領を容赦なく攻撃した。

トランプ大統領は、彼の支持者に嘘をつくために、彼の大統領としての傑出した公的地位(bully pulpit)を集会とツイッターで利用した。トランプ大統領は、彼の支持者に対して、ペンス副大統領はさらにホワイトハウスの4年間を彼に引き渡す権限があると告げた。それは、真実ではなかった。


トランプ大統領の無理強いキャンペーンが非常に強力となったことから、ペンス副大統領の主席補佐官であったマーク・ショートは、副大統領のシークレットサービスのトップに対して切迫した危険があると警告した。1月5日、ショートは、トランプ大統領とペンス副大統領の間の「意見の不一致がより公然となってきたことから、大統領が何らかの方法で攻撃するだろう」と警告した。


トランプ大統領とペンス副大統領は、二人ともそれ以降の数か月間に1月6日の出来事に関して考えをめぐらした。ペンス副大統領は、トランプ大統領の要求を「非アメリカ的(un-American)である」として描いた。トランプ大統領は、それ以降、ペンス副大統領が「選挙を覆すことができはずであった」と主張した。副大統領の首を吊るせ」という叫び声について質問されたとき、トランプ大統領は、それは「常識だ」と述べた。

2022年早々、米連邦地方裁判所判事のデービッド・カーター判事が、副大統領に対するトランプとイーストマンの圧力行使スキームを評価した。カーター判事は、それを「民主的選挙を覆そうとするキャンペーンであり、アメリカの歴史において前代未聞の行為である」と記述した。それは、「少なくとも二つの連邦法に違反した可能性のある法理論を追求したクーデターである。」トランプとイーストマンのスキームは、トランプ大統領が彼の支持者に述べたような合衆国憲法が許容しているものではない。むしろ、それは、「永久に平和な政権移行を終わらせ、アメリカ民主主義と合衆国憲法に打撃を与えるものとなるだろう。」と、カーター判事は判断した。

そして、それはすべて、8,100万人のアメリカ人の投票を通して表明された選挙の結果をトランプ大統領が受け入れることを拒否したことから始まった。

5.1 トランプ大統領と彼の仲間は、2020年大統領選挙の認証を阻止するための無鉄砲な賭けに着手した

「副大統領が両院合同会議で選挙結果を変えることができという理論に関する知的枠組みは、2020年選挙後にトランプ選挙対策本部の弁護士らの議論から生まれた」

2020年12月14日に各州で選挙人団が認証された勝利者に関する投票を行うために集会を行ったとき、トランプ大統領が彼の敗北を逆転させるいかなる可能性もなくなった。選挙戦はそれよりも以前に決着が着いており、12月14日はトランプの選挙運動の正式な終わりとなるべき日であった。バイデン前副大統領が選挙に勝ち、彼の勝利は州の選挙人票によって確立された。この現実に従う代わりに、一部の親トランプ弁護士たちは、不可避な事態を否定するための方法を既にたくらみ始めていた。
選挙後、彼らの他のプランがそれぞれ失敗したことで、1月6日の重要性とペンス副大統領に対する圧力を強化する必要性が高まった。これらの同じ弁護士たちは、トランプ大統領が1月6日に選挙を覆すことを副大統領が手助けすることができるが、そうするためには、ペンス副大統領が歴史と法律を無視する必要があるだろうと結論付けた。彼らは、ペンス副大統領が1887年の「選挙人集計法(Electoral Count Act)」に違反することを必要としていた。同法は、130年間にわたって上下両院合同会議に適用されてきたが、トランプ大統領がその職に留まる計画にとっては不都合な障壁であった。

「トランプ選挙対策本部がトランプ大統領の敗北した重要州において「代替」選挙人を招集していた12月の始めにケネス・チェスブロが「上院議長」戦略を取りまとめていた」

12月13日、親トランプ弁護士のケネス・チェスブロが、トランプ選挙本部幹部のボリス・エプスタインからの要求で大統領の主任外部弁護士であったルドルフ・ジュリアーニにある覚書を送付した。チェスブロは、「上院議長戦略」を展開し、「上院議長は(彼が、そして彼だけが)、「もし対立する票がある場合には、これをどうすべきかに関して判断を行う責任がある」と主張した。チェスブロは、1月6日に合同会議が開催されたとき、上院議長は、「2組の選挙人票のリストがあることから、バイデン元副大統領に関するアリゾナの選挙人団の票を集計すべきではないと主張した。もちろん、アリゾナからの違法な2組の選挙人票のリストはなかった。州によって認証された正式の選挙人たちと、トランプ選挙対策本部が招集した偽の選挙人のグループがあったということである。

チェスブロの覚書は、トランプ大統領の圧力作戦の路線を1月6日に副大統領をターゲットにすることに定めた。カーター判事は、「覚書草案が選挙人集計法に故意に違反した戦略を推し進め、これは、2021年1月6日の連邦議会の合同会議を妨害する計画に密接に関連しており、これを明確に進めた」と判断した。その計画はまた、ジョン・イーストマンによっても推進された。

(「12月23日、ジョン・イーストマンは、彼の2つの「1月6日シナリオ」覚書の最初の草案を作成し、副大統領が合衆国憲法に基づく「最終的裁定者」であるという主張を述べた」に続く)