貫井徳郎 『北天の馬たち』 レビュー | 哲学のプロムナード

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毅志は、横浜の馬車道近くで、母親と共に喫茶店「ペガサス」を営んでいる。ある日、空室だった「ペガサス」の2階に、皆藤と山南というふたりの男が探偵事務所を開いた。スマートで快活な彼らに憧れを抱いた毅志は、探偵仕事を手伝わせてもらうことに。しかし、付き合いを重ねるうちに、毅志は皆藤と山南に対してある疑問を抱きはじめる…。


・レビュー

 献本企画が当たって、急いで読んだのだけれど、まとまりもよく、伏線の回収もよかった。ただ、パイロット版なのでちょっと細かいところは通常版と変わっているのかも。
 全体的に良かったので、先に悪かった点を。序盤から毅志は探偵二人に距離を感じているのが判る。ただそのような状態になった理由に関してはやはり無理があるなということ。やはり普通に読めば利用されたまでとは言わなくとも、いい感じに役割に相応しい人物がいたから仲間にしたという感じがする。それは作者の意図ではないだろうからそれを払拭するだけの説得力のあるエピソードや理由が欲しかった。小説は見事に完結したが、根底の問題はあまり解決したようには思えない。
 それ以外は、少々リアリティに欠けるような部分もあったけれど、探偵にカフェに金持ちと役者が揃えば探偵サスペンスとしては許容できる範囲で見事に伏線を仕込んで回収している。
 『慟哭』があまりに有名で、しかも傑作だったものだから、どうしても比べられてしまうかもしれない。今回も面白いミステリではあったが衝撃という点では『慟哭』には勝てない。『プリズム』の精緻さにも一歩及ばずかという気がする。ただ、雰囲気はすごく良かった。
 もっと救いのない終わり方なら面白かったのだけれど……


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