一時間電車に揺られ、僕の家の近くの駅に着いた。夜はまだ冬の寒さを残し、肌寒かった。





今年もまたこの日が来た、二月十四日だった。何回も言っている様に、僕が一年のうちで一番嫌いな日だった。でも僕ら高校三年生は今日学校に行く必要はなかった。あと数回学校に行けば高校生活も終わりを告げる。長かったのか短かったのかはよく解らないが、僕には充実した高校生活を送れた様な気がしていた。僕は昼過ぎまで部屋で寝ていた。休みなので誰にも邪魔をされることはなかった。僕はブランチを食べながら、テレビを見ていた。ブランチも食べ終わり部屋に戻ってみると、夏海からメールが来ていた。
“今日、逢わない?”
というメールだった。僕は正直驚いた。
“どうして?”
僕は少し悪戯に返信した。
“えっ、ちょっと話がしたいなって想ったからだよ。”
“そっかぁ、わかったよ。”
“いいの?”
“うん。”
“じゃあ、今から出るね。”
“うん、わかった。”
僕は急いで家を出た。自転車に乗って行こうとしたら、自転車はパンクしていた。仕方がないので歩いて行くことにした。メールには載ってないが、僕の家と夏海の家までの最短距離の道を僕らは歩いていた。ちょうど中間あたりにある交差点で夏海の姿が見えた。夏海は小さな紙袋を抱え、駆け寄ってきた。
「真。」
夏海が僕の名を呼んだ。何処か聞き慣れていないその声は不思議なものがあった。夏海が信号のない交差点を走って渡ろうとしたその時だった、夏海は横から来るバイクに気づかず道に飛び出した。バイクは急ブレーキをかけたが間に合わず、夏海と衝突をした。僕は思わず目を瞑ってしまった。一瞬僕は、今自分が夢の中にいるのではないかと想った。僕は静かに目を開けた。目の前には血を流した夏海が倒れていた。僕は現実の世界にいると言う事にすぐ気がついた。僕は夏海の傍に駆け寄り、夏海の名を泣きながら何度も叫び、抱きかかえた。
「夏海、夏海・・・」
夏海は目を開いてくれなかった。僕は携帯を取り出し、救急車を呼んだ。僕は夏海の止血をし、何度も夏海の名を呼んだが、やはり夏海は気が付く気配さえなかった。救急車はすぐに来た。
「夏海、夏海・・・」
僕はまた何度も夏海の名を呼んだ。しかし、夏海は一度も返事をしてくれなかった。病院に着くと夏海は手術室へと運ばれた。僕はその前で泣き崩れることしか出来なかった。看護士さんが僕に夏海の家の電話番号を知っているか訊ねて来た。僕は携帯に入っている夏海の家の電話番号を看護士さんに告げ、携帯の電源を落とした。


遠くから人の走る足音が聞こえた。夏海の両親だった。夏海の両親は僕の姿を見て驚いていた。僕の手と服は夏海の血で染まっていたのだ。
「夏海は・・・」
夏海のお父さんが僕の肩を持ち訊いてきた。
「・・・」
僕は何も答えることが出来なかった。


しばらくして、夏海のお母さんがこう言った。
「もう遅いから、帰りなさい。」
「いいえ、帰りません。傍に、傍にいさせて下さい。」
涙ながらに僕は言った。
「じゃあ、一度家の方に電話を入れてきなさい。あなたの両親が心配するわよ。」
夏海のお母さんが優しい声で言った。
「はい。」
僕は夏海のお母さんの言葉に従った。


僕は病院を出て、携帯の電源を入れた。
「もしもし、お母さん?」
「どうしたの?」
「今日・・・家に帰れない。」
「えっ、どうして?」
「夏海が、夏海が・・・」
「何処にいるの?」
「大学病院。」
「今から、行くから待ってなさい。」
「うん。」
「あっ、何か持っていって欲しいものはある?」
「服が血まみれなんだ。」
「わかったわ。」
‘ツーツーツー’
電話が切れた。そして僕はまた電源を落とした。


僕はまた手術室前に行った。夏海の両親は心配そうにランプを見ていた。刻々と時間が過ぎていった。しばらくして、遠くから人が走ってくる足音が聞こえた。その足音の主は僕の母親だった。母親は夏海の両親にお辞儀をし、僕に服の入った紙袋を渡した。僕は、紙袋を持ちトイレに向かった。服を着替え、また手術室前の椅子に座って夏海を待った。手術は長かった。時間がとても長く感じた。


誰もがランプを見ていた。音もなくランプが消えた。しばらくして、中から医師が出てきた。夏海のお父さんが駆け寄り訊ねた。
「夏海は・・・」
医師は下を向きこう言った。
「残念ですが・・・」
「・・・」
一瞬時が止まった。


夏海は死んだ。夏海は霊安室に移された。ベッドの上で夏海は静かに眠っていた。顔に白い布をかけられていた。夏海のお父さんが白い布を外した。夏海の顔がそこにあった。僕の目から涙が零れた。夏海の両親も泣いていた。そして、僕の母親も泣いていた。


翌日、夏海の通夜があった。僕は部屋に閉じこもったきりだった。僕は夏海を目の前でなくした。僕にとって、今までの哀しみの中で一番深いものだった。


その次の日、夏海の葬式が営まれた。その日も僕は部屋に閉じこもっていた。真っ赤に腫れた僕の目はもう何も映そうとしなかった。階段を上る誰かの足音が聞こえた。そして、僕の部屋のドアが叩かれた。
‘ドンドン’
「真。」
母親の声がした。そして、部屋のドアが開いた。
「真・・・」
「夏海ちゃんのお葬式に行ってあげなさい。」
「・・・」
「もう逢えないんだよ、今日で最後なんだよ。」
「・・・」
「真。」
・・・・・。


しばらくして僕は、制服に着替え部屋を出た。夏海の葬式が行われる葬儀場へと向かった。最後のお別れを言うために、僕は走った。やっと葬儀場に着いた。僕の息は切れていた。一番奥に夏海の写真があった。そして、その下の方に棺が見えた。しばらくして、夏海の体のまわりに黒い服の人々は花を敷き詰めはじめた。僕も夏海の入った棺に花を詰めた。
「さようなら。」
僕は夏海に別れを告げた。
 夏海は火葬場へ連れて行かれた。僕も火葬場へ向かった。夏海のお母さんが僕に話しかけてきた。
「真くん。」
「はい。」
僕は驚いた。夏海のお母さんの手には、この前夏海が持っていた紙袋があった。夏海のお母さんはそれを僕に渡した。
「これ、夏海から君に。」
「えっ、」
僕はまた驚いた。中を見てみると、チョコレートと手紙が三つ入っていた。チョコレートは、バレンタインで渡すもののように見えた。僕は外に出て、三つの手紙を読んだ。手紙の日付はすべて二月十四日だった。一つは今年ので、残りの二つは昨年と、一昨年のものだった。その内容は・・・




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