シナリオ【友情結婚】 1 | Novel & Scenario (小説と脚本)

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このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。


 

●ホテル・外観(午後)

 

3月下旬。庭園に桜が咲いている。

 

大橋勝枝(62)の声「(先行して)お店はどうなの渚さん。儲かってる?」

 

 

 

 

●ホテル・ラウンジ

 

大橋勝枝の取り持ちで杉浦英司(37)と水谷渚(34)が見合いをしている。それぞれの母親も同席している。

 

渚「(直結で勝枝に答え)ええ、まぁまぁ」

 

勝枝「すごい。英司さんはあれよね、エアコンのなんとか」

 

英司「技術開発を」

 

勝枝「そうそう。難しいことしてるの。頭いい。でも出会いがない。緊張してる?」

 

英司「え?」

 

勝枝「硬くなってるような。そりゃそうよね。こんな美人目の前にしたら」

 

渚「いいえ(謙遜)」

 

勝枝「あら、渚さんだけじゃなく私らもよ。美人たちに囲まれてって意味」

 

渚「あ」

 

英司「ええ、まぁ、ヘヘヘ」

 

 

 

 

●タイトル「友情結婚」

 

間あって再び勝枝のセリフが割り込み、

 

勝枝の声「商売抜きだと全然関心ないの。そういうもんじゃないでしょっていつも言うのね」

 

 

 

 

●ホテル・ラウンジ

 

勝枝「仕事ばっかで生きてるわけじゃない。人生のほんの一部よ。純粋に人の役に立ちたい。そういうのがないのうちの旦那は」

 

英司の母「すみません、お世話になって」

 

勝枝「ううんううん、いいのいいの。恩に着せる気はない。役に立ってるのが私も嬉しい。それだけ。フフフ」

 

英司「ヘヘ」

 

勝枝「お見合いで夫婦の愚痴言っちゃいけないね。いつも失敗しちゃう。しゃべり過ぎ。顔合わせのここが最高潮で。もう遠慮します。あとは若い方ふたりだけにして。しましょうね」

 

母たち「ええ」

 

渚「プッ(と小さく吹きだす)」

 

 

 

 

●ホテル・庭園

 

英司と渚が歩いてくる。無言の間あって、

 

英司「本当におつき合いしてる方いらっしゃらないんですか」

 

渚「ええ、まぁ(目を伏せる)」

 

英司「信じらんないな」

 

渚「え?」

 

英司「綺麗なのに」

 

渚「――」

 

英司「(桜の場所でとまり)しかしホントこんな風にされるんですね」

 

渚「こんな風?」

 

英司「ふたりに。あとは若い者同士で」

 

渚「あぁ、ですね。思わず笑っちゃった」

 

英司「あ、さっきのやっぱり?」

 

渚「あるある、これ見たことあるって思ったらなんか」

 

英司「うんうん。うわ、ベタって僕も思った」

 

渚「フフフ」

 

英司「気が合いますね」

 

渚「――(真顔になり)私は母が、ちょっと強引だったんです、今回のお話」

 

英司「そう」

 

渚「実はそんな、結婚は考えてなくて、願望もなくて」

 

英司「――そうですか」

 

渚「一度言うこと聞けば、しばらく気が済むのかなって、それで承知したんです――ごめんなさい」

 

英司「いやぁ」

 

渚「杉浦さんがどうとかじゃなく、私の方の問題で」

 

英司「いいんです。僕も似たような感じだった」

 

渚「そうですか?」

 

英司「親がうるさくて。まぁ今年38だし、心配もわかるけど」

 

渚「ええ――」

 

英司「厄介ですね。あ、断られたからって張り合ってるんじゃないですよ」

 

渚「そんなこと思ってません」

 

英司「(さっぱりと微笑し)気にしないで、お互い断りましょう」

 

渚「はい」

 

英司「うん(桜を見まわす)」

 

渚「あ、もしよければこちら(バッグから名刺入れを出して1枚差し出し)機会あれば使って下さい。お近くに来た時とか、お仕事でも、女性とでも」

 

英司「(受け取り)あぁ、ありがとう。じゃあ僕も一応(とスーツの内ポケットを探す)」

 

途中からやり取りの声が低くなり、それにかぶせて、

 

英司の声「他人は僕らを不幸と思うかもしれない。確かにあんまりない話だろう。それでも、それでも僕らの物語だ」

 

 

 

 

●お台場(夜)

 

レインボーブリッジなどの夜景がいくつか。

 

人のざわめきが先行して、

 

 

 

 

●あるレストラン

 

南原幹男(37)と菜月(34)の結婚式の二次会会場。着飾ったふたりが別々に招待客のテーブルをまわっている。

 

英司のいるテーブルに幹男が来て幸せそうな笑顔。だいぶ酔っている。ほかの友人と話しているのを英司が笑顔で見ている。一方のテーブルに気づく。

 

女性だけのテーブルに菜月が来ている。隅に渚がいる。視線に気づいて英司を見る。英司とわかって驚き小さく一礼。

 

英司「(小さく返礼)」

 

幹男「(倒れ込むように英司の横に座って抱きつき)英ちゃんなに~? 目ざといじゃなーい」

 

英司「よせって。飲みすぎ」

 

幹男「ん? あの子?(英司の見ていた方を見て)なに気になんの? あれ嫁さんの親友よ。高校時代の友達」

 

英司「そう」

 

渚はもう見ていない。友人たちと共に菜月と話している。

 

幹男「紹介する? してほしい? 任せてよ俺に。英司のためならなんでもする」

 

英司「いいよ。余計な世話」

 

幹男「幸せなんだって俺。誰かの役に立ちたいの。一緒に幸せになろうよぉ」

 

 

 

 

●レストラン・表

 

出入口で招待客の見送りをしている幹男と菜月。挨拶している渚たち。

 

それを離れた場所、エレベーター前で見ている英司。エレベーターの扉があいて友人のひとりが「行くぞ」と声をかける。

 

英司「ああ(とエレベーターに乗る)」

 

 

 

 

●新橋・情景(夜)

 

雨が降っている。梅雨の雨。

 

英司の声「(先行して)いいのかよ新婚なのに飲み歩いて」

 

 

 

 

●居酒屋

 

幹男との待ち合わせに英司が遅れてきたところ。傘をテーブルのはじにかけたりして、

 

英司「(前シーンと直結で)うまくいってっか?」

 

幹男「あぁ、まぁ」

 

英司「どうした暗い顔して。喧嘩か。離婚か」

 

幹男「なに言ってんだ。これ土産。新婚旅行の(とABCストアの袋を渡す)」

 

英司「お、サンキュー。どれどれ(とあける)」

 

 

 

 

●トランプ

 

外国人の女性モデルのヌードが絵柄になっている。

 

英司の声「またベタなもん買って来たね。バカだろ?」

 

 

 

 

●居酒屋

 

乾杯を終えてつまみも来た頃合い。

 

幹男「(真顔で)いや実は、謝ることあって」

 

英司「誰に。俺に?」

 

幹男「二次会で紹介するって言ってたあの子、憶えてる? あの子のことで」

 

二次会で目が合った渚が短くインサート。

 

英司「なに。いいよ。いいって言ったろ(ビールを飲む)」

 

幹男「そお?」

 

英司「頼んでないじゃん俺」

 

幹男「だったらまぁ、いいんだけど。別の子紹介するよ。もっといい子」

 

英司「――彼氏いるって?」

 

幹男「え?」

 

英司「あの子。別にいいけど」

 

幹男「やっぱ気になる?」

 

英司「『やっぱ』ってなにさ。なってないよ」

 

幹男「ホントに?」

 

英司「しつけーな。そんなン言われたらどんどん気になってくるだろ(と冗談で言うが)」

 

幹男「うん――(真顔)」

 

英司「なに。なんなの。なんかあんの」

 

幹男「ま、二度と会うことないだろうしいいか」

 

英司「え?」

 

幹男「レズなんだ彼女。レズビアン。女が好きで」

 

英司「――そうなの?」

 

幹男「ついこの前カミさんに聞いた。新婚旅行の帰りに、飛行機で。俺は初耳で驚いて。あんな綺麗なのにもったいねーよな」

 

英司「――そう」

 

幹男「カミさんは大人になってから聞いたらしい。学生時代は言えなかったんだね。知ってからも別に、それ以外は普通だし、変わらずつき合ってる。性格はさっぱりしててむしろ楽だしって」

 

英司「そう」

 

幹男「いい人はいい人。俺も知らずに何度か会って話したけど。でもまぁ、そんなわけだから、しょうがない。ほか探すよ。今いないんだよな? どんなタイプがいいの最近」

 

 

 

 

●フレンチレストラン「プレジール」(夜)

 

後日。渚が働いている。来客を席に案内したりメニューを説明したり。

 

 

 

 

●店の前の道路

 

仕事帰りの英司が通りすがりに店内を窺う。

 

 

 

 

●プレジール

 

渚が出入口のレジのところに来て気づく。

 

おもての英司、渚と目が合ってしまい無視するわけにいかず小さく一礼。

 

渚「(出入口を出て)どうされました?」

 

英司「あ、杉浦です」

 

渚「ええ、勿論、憶えてます。お食事に――」

 

英司「あ、ええ、そうですね(腕時計を見て)そういう時間ですね。食事に」

 

渚「おひとりでらっしゃいますか?」

 

英司「うん、そう、ひとりで」

 

渚「どうぞ。いらっしゃいませ(微笑で店内へ)」

 

英司「はい(と続く)」

 

渚「あ、近くにたまたまお越しとか?」

 

英司「いえ、そういうわけでもないんですが」

 

渚「どうぞ。ご案内いたします(店内を歩き、どこの席にしようか真顔で考え、個室に入る)どうぞこちら(微笑する)」

 

英司「あ、こんないいとこ、ひとりなのに」

 

渚「ええ、今日はあいてたので」

 

英司「そう」

 

渚「(椅子を引き)どうぞ」

 

英司「(一礼して着席し)そうですね」

 

渚「え?」

 

英司「普通は予約するもんですよね、こういうお店は。突然来ちゃって」

 

渚「ううん、いきなりも大歓迎。お気になさらないで下さい」

 

英司「はい」

 

渚「こちらメニューです。今お水をお持ちします」

 

 

 

 

●厨房・インサート

 

シェフ数人が調理中。忙しい。

 

 

 

 

●個室

 

渚「(お冷やを置き)お台場で、このまえお会いしましたね」

 

英司「(メニューを見ていて)ええ、ご挨拶しなくて」

 

渚「私は菜月の、新婦の高校時代の友人で」

 

英司「ええ(うなずく)僕は幹男の、大学時代のサークル仲間で」

 

渚「何か聞きました? 私のこと」

 

英司「いえ――」

 

渚「すごい偶然ですね。驚いた」

 

英司「なんか、やっぱり縁があるのかもって」

 

渚「縁?」

 

英司「あ、お忙しいですね今」

 

渚「まぁ」

 

英司「どうぞ。まだ決まってなくて(メニューをめくる)」

 

渚「(真顔で)無理になら、ご注文はいいです」

 

英司「え?」

 

渚「何かご用があっていらしたんじゃないですか?」

 

英司「――まぁ(目を伏せる)」

 

渚「ただ食べになら、嬉しんですけど」

 

英司「――」

 

渚「何かあるのかなって、それでこちらにご案内したんです」

 

英司「座っていただく時間、ありますか」

 

渚「ええ――わかりました(うなずいて英司の正面に座る)」

 

英司「すみません」

 

渚「ううん、気になってると仕事に障るし」

 

英司「なるべく、なるべく早く話します」

 

渚「なんでしょう」

 

英司「実は、僕は(深呼吸し)ゲイなんです」

 

渚「え」

 

英司「言ってないから見合いに、ああいうことになって。すみません(一礼)普通の結婚は無理で」

 

渚「――そう」

 

英司「パートナーもいます。2年つき合ってる年下の。いきなりこんなこと(すみません、とまた一礼)」

 

渚「そうですか」

 

英司「ええ」

 

渚「わかりました。驚いたけど」

 

英司「はい」

 

渚「お見合いは私も断ったんだし、だまされたなんて思いません。お気になさらないで下さい」

 

英司「――」

 

渚「わざわざそんな――なぜわざわざ言いに?」

 

英司「ええ(目が泳ぐ)」

 

渚「なんです?(警戒)」

 

英司「これは善意のことなので、怒らないでほしんですが」

 

渚「ええ」

 

英司「幹男から渚さんのこと、聞きました。幹男は僕が、渚さんを紹介してほしそうな、そういうカン違いをして、諦めろって意味で、渚さんは無理だと」

 

渚「――そう」

 

英司「彼も聞いたのは、最近らしく、菜月さんに」

 

渚「アウティング?」

 

英司「でも善意です。菜月さんだってそうだろうし、夫婦ふたりのあいだだけ、幹男はほかの誰かに言うようなヤツじゃありません。そこは信じてやって下さい。僕もあいつのことは――いや」

 

渚「いや?」

 

英司「いえ、僕は彼にも、自分がゲイだと言ってないんで」

 

渚「そう」

 

英司「普通に男の友人で、20年近く。だから信じてるって言うのは、なんか」

 

渚「――」

 

英司「そんなヤツじゃない。話しても差別するようなヤツじゃない。実際渚さんのこと話してる時も、そうだった。でも自分のことを話すのは――勇気がなくて」

 

渚「わかりますけど」

 

英司「――(うなずく)」

 

渚「で、なぜそれを私に?」

 

英司「――渚さんもご家族には、内緒にされてるんですよね、お見合いしたということは」

 

渚「まぁ」

 

英司「あれから話しました?」

 

渚「いえ」

 

英司「これから話す気は」

 

渚「――」

 

英司「都合のいい提案ですけど、隠すつもりでいらっしゃるなら、僕と形だけ、そういう結婚はどうかって」

 

渚「結婚?」

 

英司「形だけです。家族に、世間に、本当のことを隠すのに」

 

渚「――」

 

英司「こんな嘘は、つかずに済むなら一番だけど、まだそんな風に世の中なってない。少なくとも僕の家族は」

 

渚「偽装結婚?」

 

英司「友情結婚です。聞いたことありません? それを成立させるサービスもある」

 

渚「知ってますけど」

 

英司「うまく行くか、簡単じゃないかもしれないけど、渚さんとなら、なんとかできそうな」

 

渚「どうして?」

 

英司「話が合ったし、あのお見合いの時、いい人と思ったし」

 

渚「――」

 

英司「母ともあのとき会ってる。母は渚さんのこと、気に入ってました。母みたいなタイプは苦手ですか?」

 

渚「そんなことは(まだわからない)」

 

英司「思いついたらどんどんできそうな、どんどん名案に思えてきて」

 

渚「パートナーの方は、どう言ってるんです?」

 

英司「ええ――」

 

渚「賛成なんですか?」

 

英司「いえ、まだ話してません。まずは渚さんにと」

 

渚「彼が先じゃないかな?」

 

英司「――かもしれない」

 

渚「私もパートナーいるんです」

 

英司「――そうですか」

 

渚「彼女がもしそんな提案したら、私は賛成できるか――寂しいは寂しいし、モヤモヤは当然するし」

 

英司「ええ」

 

渚「ちょっと無理――無理です。ごめんなさい」

 

英司「ですね。すみません。変なこと言い出して」

 

渚「いいえ」

 

英司「幹男に聞いたことは、安心して下さい。僕は誰にも、墓場まで持ってきます」

 

渚「――ええ」

 

 

 

 

●走る電車内

 

英司が吊革につかまり揺られている。

 

 

 

 

●プレジール

 

渚が仕事中。接客している。

 

 

 

 

●あるアパート・ドア

 

英司のパートナー、松山明(35)が内側からドアをあけ、

 

明「どしたの突然」

 

英司「邪魔した?」

 

明「全然。どうぞ」

 

英司「うん(と入る)」

 

 

 

 

●プレジール

 

閉店後の店内で渚がひとり売り上げの計算をしている。手がとまる。考えている目。

 

 

 

 

●住宅地(朝)

 

休日。鳥の声。

 

石崎睦美の声「(先行して)店に来たって――しつこいの?」

 

 

 

 

●渚のマンション

 

キッチンで渚が朝食をつくっている。パートナーの石崎睦美(32)がパジャマで来る。「おはよう」と挨拶し合うふたりの声は聞こえず、

 

渚の声「最初はそうかって警戒したけど、全然違って」

 

睦美の声「なに?」

 

 

 

 

●ダイニング(時間経過)

 

朝食中の渚と睦美。

 

睦美「(手がとまっていて)友情結婚――」

 

渚「どうかって提案」

 

睦美「どう言ったの?」

 

渚「そりゃ断ったよ。突然だし」

 

睦美「突然て」

 

渚「改めて考えたら、悪くないかもって」

 

睦美「やめてよ」

 

渚「最初はそう言うのわかるけど」

 

睦美「本気?」

 

渚「その彼もパートナーいるって。まだ話してないみたいだけど」

 

睦美「マジで言ってんの?」

 

渚「睦美は睦美でそのパートナー、紹介してもらえるかも」

 

睦美「紹介って――私はそっちと?」

 

渚「睦美次第」

 

睦美「ふざけないで。クラスの班分けじゃあるまいし」

 

渚「勿論どんな人か、睦美と合うか合わないかは会ってみないと」

 

睦美「うまくいくわけないじゃん」

 

渚「どうして?」

 

睦美「渚はうまくやってける? その見合いした人と、できそう?」

 

渚「形だけだし」

 

睦美「でも結婚となったら、親に挨拶したり式挙げたりするんでしょ」

 

渚「まぁ」

 

睦美「新居決めたりお盆やお正月に相手の実家行ったり。そこまで本気で考えてる?」

 

渚「睦美も本気で考えて。私たちこのままでずっと行ける?」

 

睦美「不満ないよ」

 

渚「のちのちの話。あと2年で今の私と同い年になる。結婚はまだか、いつするんだって家族にせっつかれる」

 

睦美「とっくに言われてるけど」

 

渚「まわりもそういう目で見る。男が寄りつかなくなるのはいいとして、面倒減って」

 

睦美「私は渚ほど男にモテないし」

 

渚「形だけでも結婚したらどお? 今の面倒、これから待ってる面倒避けられない?」

 

睦美「でもなくならないでしょ。次は子供。いつかまだかってすぐ言われる」

 

渚「でも今よりマシにならない?」

 

睦美「そんなに今の生活変えたい?」

 

渚「変わらないよ。もし結婚したって、年に何日か。それ以外の三百何十日が大事。それを守るため」

 

睦美「――」

 

渚「メリットあると思うの、私たちにも。いつまでも女のルームメイトといるから行き遅れるんだ、なんて言われない」

 

睦美「――どんな人かわかんないじゃん、相手」

 

渚「そうね。気に入らなきゃナシでいい。当然。でも私たちは、秘密にして閉じこもってコソコソして――あちらもそうかも。男とか女とか恋愛とか関係なく、ただつき合える友達みたいの、もっとあってもいいんじゃって」

 

睦美「――」

 

渚「まずはそこから。気が合わなきゃその先もない。無理する気もない。でも気が向いたら、軽くでいい、考えてみて」

 

 

 

 

●英司の会社(午後)

 

広い敷地に工場がある会社。雨が降っている。

 

 

 

 

●会議室

 

20人ほどの男たちの中に英司がいる。バイブレーションの音がして上着からスマートフォンを出す。電話に出られず留守電にする。

 

 

 

 

●プレジールの前の道(夜)

 

傘をさした英司が来る。プレジールに入っていく。

 

 

 

 

●事務室

 

小さな応接セットのテーブルに水のグラスが置かれる。

 

英司「(ソファーに座っていて)ありがとうございます」

 

渚「すみませんこんな場所で。夕方までは個室あいてたんですが、急に予約入って」

 

英司「いいんです、全然」

 

渚「わざわざ来ていただいたのに(正面に座る)」

 

英司「お忙しんじゃないですか?」

 

渚「だいじょうぶ。任せておけば、困った時は呼びに来るし」

 

英司「そう」

 

 

 

 

●店内

 

厨房やホールの忙しさ。

 

英司の声「(先行して)お話というのは」

 

 

 

 

●事務室

 

渚「ええ(目を伏せ)突然お電話して(一礼)」

 

英司「いいえ。驚いたけど」

 

渚「お呼び立てしたようになって」

 

英司「こっちが週末まで待てなかったんで、気にしないで下さい」

 

渚「うん――」

 

英司「会って話したいというのは」

 

渚「実は先日、私のパートナーにあの話、杉浦さんがおっしゃってた結婚のこと――」

 

英司「話された?」

 

渚「ええ」

 

英司「どうして――怒られたり、気分を害されたんじゃ?」

 

渚「最初はまぁ、抵抗あったけど」

 

英司「最初は?」

 

渚「私も提案したんです。悪くないんじゃって」

 

英司「それって――」

 

渚「私と杉浦さんが結婚して、仮に、形だけでも」

 

英司「ええ」

 

渚「それと一緒にパートナー同士も、同じように結婚するのはどうか」

 

英司「お互いに?」

 

渚「結婚まで行くかは勿論わかんないけど、今の時点では」

 

英司「ええ」

 

渚「でも会ってみるくらいは、マイノリティ同士いいんじゃって」

 

英司「――お相手は」

 

渚「会うだけならって」

 

英司「そう――」

 

渚「会うだけ会うって返事をくれて、昨日の夜」

 

英司「そうですか」

 

渚「だから、もし杉浦さんのパートナーの方がよければ、一度4人で会うのはどうだろって」

 

英司「うん――(目が泳ぐその顔に)」

 

明の声「(先行して)ちょいちょいちょいちょい」

 

 

 

 

●明のアパート

 

英司と明のふたりがいる。英司が帰りに寄ったところ。

 

明「なんでそんな話になってんの」

 

英司「うん」

 

明「まずは経緯よ。いつの間に? 春先の見合いは断ったんだよな? なんでその相手と会ってんの」

 

英司「先月お台場で結婚式の二次会、大学時代のダチのあったろ。そこで偶然会った」

 

明「偶然?」

 

英司「むこうは新婦の親友で」

 

明「聞いてないよそんなこと」

 

英司「それから新郎のそいつに、こっそり彼女のこと聞いて。実はレズビアンて」

 

明「俺はそんなの聞いてない」

 

英司「断れず見合いしたってことは、俺と同じじゃないか。親には言い出せずいて、じゃあいっそのこと結婚するのはどうか」

 

明「そこよそこ。おかしいだろ。なんでひとっ飛びにそこ行くの」

 

英司「うん――」

 

明「だいたい俺に断りもなく」

 

英司「彼女が却下なら言うのもアホじゃない。まずは確認て」

 

明「それでも大半黙ってたろ。世間話にチラッと言うくらいできたじゃない。相談だって――なんも言わないのはないよ」

 

英司「悪かった」

 

明「信じらんね(そっぽを向く)なんで英司はそんな信用できんの、その相手」

 

英司「いい人だし」

 

明「どんな風に」

 

英司「言うことに嘘がないような」

 

明「隠してんだろレズのこと」

 

英司「それでもなるべく嘘はつきたくないって感じで。見合いの時も普通なら世話人通して断るのに、その場で俺に詫びて」

 

明「でも乗ってきたんじゃん、偽装結婚に。嘘ありまくりじゃん」

 

英司「うん――」

 

明「英司は信用されてんの? その人に。なんで」

 

 

 

 

●英司の記憶・プレジールの事務室

 

渚「お見合いの時からなんとなく。私が断ってもさっぱりしてて、いい人って。だからしつこくされない気がして、この店の名刺を渡したり」

 

 

 

 

●現実・明のアパート

 

英司「先週提案した時の態度も、真面目で信じられたって。ゲイを告白してもその口止めをしなかったり」

 

明「自慢?」

 

英司「ん?」

 

明「知らないとこでいろいろあったんだね(嫌味)」

 

英司「――彼女のパートナーは、俺らに会ってもいいって話で」

 

明「急にそんなこと言われても」

 

英司「ゆっくりでいいよ。考えて。結婚とかそんな先まではいい。とりあえず似た者同士、つき合いできるのはいいんじゃって。明もその程度に考えて」

 

明「――俺はゲイって知られたことないんだけど、今まで女に」

 

英司「うん」

 

明「どんな態度で接していいか」

 

英司「俺も今までなかった。でも言わなきゃ進まない。そう思って話した」

 

明「――」

 

英司「緊張するのはわかるよ。でも慣れんじゃないかな。そうやって少しずつ進まないと」

 

明「今よりよくなる?」

 

英司「よく?」

 

明「結婚なんてしても面倒増えるだけじゃん。好きでもない相手の家族と絡んだり。俺は元々家族と疎遠だし。うるせー世間は無視すりゃいい」

 

英司「世間が無視しないよ」

 

明「それでもこっちが無視すりゃいい。過剰な関心なんて下品なんだ。そうやって逆に差別して、切り捨てりゃいい」

 

英司「――」

 

明「偽装結婚なんて――そこまでしてメリットある? そんな」

 

英司「一緒に暮らせる」

 

明「え?」

 

英司「むこうはもう住んでるらしいけど。女同士のルームメイトは敬遠されないからな」

 

明「――」

 

英司「でも結婚すれば、俺たちも」

 

明「――」

 

英司「考えてみて」

 

 


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