シナリオ【あの夏あの島で】 4 | Novel & Scenario (小説と脚本)

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このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。


 

●しおさい(後日)

 

美歩と勇翔が開店準備をしている。

 

和代「(奥から来て)そうだ美歩ちゃん、うちのお父さん退院決まったの」

 

美歩「そうなんですか?」

 

和代「昨日決まって、来週ここ帰ってくるから」

 

美歩「へぇ」

 

和代「よろしくね」

 

美歩「おめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

 

和代「帰ってきても松葉杖だから、店には出らんないけど」

 

勇翔「本人出る気なんじゃない?」

 

和代「そうなのよ。これから忙しくなるのにジッとしてらんないって。ウロウロされても邪魔なんだけど」

 

勇翔「座ってできんのは、レジぐらいか」

 

和代「にしても無理してまた転んだらねぇ」

 

勇翔「でも少しは楽になるじゃない。ばあちゃんは見舞い行かなくて済んで」

 

和代「その分うちで世話する手間増えるでしょ」

 

勇翔「そうか」

 

和代「動きたくてしょうがないのよ。2ヶ月も入院したから。まぁわかんなくないけど」

 

勇翔「にぎやかになるね」

 

和代「にぎやかって言うかうるさくって言うか。美歩ちゃん我慢してね」

 

美歩「はい」

 

 

 

 

●仲見世通り(夜)

 

雨が降っている。七夕の飾りがある。

 

 

 

 

●しおさい

 

美歩がトイレ掃除をしている。終わるところ。

 

厨房では勇翔が床にブラシをかけている。

 

美歩「(来て)終わりました」

 

勇翔「ありがと」

 

美歩「あとは何を」

 

勇翔「ああ、もういいよ。上がって」

 

美歩「はぁ」

 

勇翔「明日も来てもらうし。考えたら美歩ちゃんの方が大変だね。ここまで通う分時間くって」

 

美歩「いえ」

 

勇翔「ちゃんと休めてる?」

 

美歩「寝つきはいいんで」

 

勇翔「そう。勉強は? やれてる?」

 

美歩「だいじょうぶです」

 

勇翔「ならいいけど」

 

美歩「ご主人が帰ってくると」

 

勇翔「ご主人て、じいちゃん?」

 

美歩「ええ」

 

勇翔「なんかピンと来ないな。呼び方考えよう」

 

美歩「帰ってくるとふたりって、なくなりそうで」

 

勇翔「ああ、賄いにばあちゃんはいるし、じいちゃんもか」

 

美歩「この時間貴重って言うか」

 

勇翔「貴重? なんで?」

 

美歩「あ、いえ、ピンと来ないならいいンスけど、説明すんのも(ブツブツ)」

 

勇翔「なんだかんだ楽になると思うよ。ギプス取れるのはすぐらしいし。ふたりに朝か夜任せて、俺は時間減らせたり、夕方までとか」

 

美歩「あぁ――じゃあ、今日は帰ります」

 

勇翔「うん、お疲れさま。気をつけて」

 

美歩「お先に失礼します」

 

 

 

 

●仲見世通り

 

傘をさした美歩が下りてくる。七夕の飾りが見える。

 

勇翔の声「ふたりに朝か夜任せて、俺は時間減らせたり、夕方までとか」

 

 

 

 

●イメージ・しおさい

 

和代「勇ちゃんもう上がりな」

 

勇翔「ああ、じゃあ美歩ちゃん送ってこうか(とカメラ目線)」

 

 

 

 

●現実・仲見世通り

 

美歩「(ニヤニヤする。すれ違った女にふと気づき、立ち止まって振り向く)」

 

その視線の先に傘をさした早希の背中。登っていく。しおさいに続く角を曲がる。

 

美歩「――」

 

 

 

 

●脇道

 

早希が傘をたたんでしおさいに入る。

 

 

 

 

●仲見世通り

 

美歩、動けずにいる。

 

 

 

 

●イメージ・しおさい

 

勇翔と早希がどちらともなく近づき、抱き合う。

 

 

 

 

●バス停

 

美歩の前にバスが停まっている。美歩は乗らない。ドアが閉まりバスが出ていく。

 

 

 

 

●イメージ・しおさい

 

店のテーブルの上に倒れた勇翔と早希が激しく抱き合う。

 

 

 

 

●現実・バス停

 

またしても美歩の前にバスが停まっている。運転手が「乗りませんか」と美歩に確認。

 

美歩「あ、乗ります(と乗車)」

 

 

 

 

●江の島大橋

 

バスが来る。

 

 

 

 

●走るバス車内

 

美歩が後方の席で仲見世通りを振り向く。

 

 

 

 

●LINE画面

 

美歩と彩のトーク画面。文字が流れる。

 

彩〈明日確かめるんだね〉

 

美歩〈内緒にされたらどうしよう〉

 

彩〈それならそういうことだね〉

 

美歩〈ウザがられたらどうする?〉

 

彩〈じゃあムダに悩んでろ〉

 

 

 

 

●しおさい(朝)

 

美歩「おはようございます(と入ってくる)」

 

和代「(開店準備していて)おはよう」

 

勇翔「(開店準備していて)おはよう」

 

美歩、テーブルの1つを見る。昨日のイメージと同じアングルで、

 

 

 

 

●フラッシュインサート

 

店のテーブルの上に倒れた勇翔と早希が激しく抱き合う。

 

 

 

 

●しおさい・厨房

 

勇翔「(働いている。視線に気づいて)なに?」

 

美歩「(見ていて)いえ(と目をそらし更衣室へ)」

 

 

 

 

●LINE画面

 

美歩〈やっぱ聞けない〉

 

彩〈「昨日見た」ってまんま言えばいいじゃん〉

 

美歩〈ウザくない?〉

 

彩〈タイミング逃がしたらますます聞けないよ〉

 

 

 

 

●しおさい

 

賄いの食後。

 

美歩「(スマートフォンを見ている)」

 

勇翔「(店のテレビで高校野球を見ている。黙っている美歩の様子が気になり)どうした?」

 

美歩「昨日の帰り、あの女の人見ました。このまえ来たあの――途中ですれ違って」

 

勇翔「あぁ」

 

美歩「ここ来ました?」

 

勇翔「来たよ」

 

美歩「なにしに」

 

勇翔「なにしにって、俺たちつき合ってるし」

 

 

 

 

●しおさい

 

前シーンは美歩のイメージ。同じアングルで、

 

美歩「(スマートフォンを見ている)」

 

勇翔「(店のテレビで高校野球を見ている。黙っている美歩の様子が気になり)どうした?」

 

美歩「――なんでもありません(目を合わせない)」

 

勇翔「(見ている)」

 

潮田家のある奥からピーピーと音がして、勇翔が立つ。

 

 

 

 

●潮田家・脱衣所

 

勇翔が来て洗濯機から自分の洗濯物を出す。

 

 

 

 

●LINE画面

 

美歩〈しばらく様子見ます〉

 

彩〈ガッツねーな〉

 

 

 

 

●波多野家・ダイニング

 

和明の声「聞いてるか美歩」

 

美歩「(夕飯中。我に返って)ん?」

 

由美「お盆休み。豊川」

 

美歩「ああ、行けない。バイト(食事再開)」

 

由美「バイトって、まだ1ヶ月以上先よ」

 

和明「おじいちゃんもおばあちゃんも会いたがってるよ。待ってる」

 

美歩「しょうがないじゃん。お盆なんて一番忙しいし」

 

和明「そんなに楽しいか、アルバイト」

 

美歩「楽しいばっかじゃないけど、休めないよ仕事なんだから。休まない!」

 

 

 

 

●しおさい

 

忙しい時間。働く美歩、勇翔、和代。

 

電話の着信音が先行し、

 

 

 

 

●しおさい(時間経過)

 

賄いの用意された席に美歩が遅れて着き、逆に勇翔はスマートフォンを見ながら席を立つ。食事は食べかけ。

 

勇翔「はいもしもし。おー、どうした。いいよ今、休憩だし(店の裏口の方に行く)」

 

美歩「(電話の相手が早希では、と思う。目を伏せて箸を取る)」

 

勇翔「ああ、久しぶりじゃない。半年ぶり?」

 

美歩「(勇翔を見る。どうやら早希ではないらしい、と思うが気は晴れない)」

 

 

 

 

●仲見世通り

 

午後4時すぎぐらい。しかし強雨のために薄暗い。七夕の飾りが見える。

 

 

 

 

●しおさい

 

美歩が厨房で皿を洗っている。来客に気づき「いらっしゃいませ」と言って手を拭きお冷やを持って店へ。

 

塚本「(入口で傘をたたみ美歩を見て)お疲れさま」

 

美歩「――いらっしゃい」

 

塚本「雨すごいね。七夕なのに」

 

美歩「なに?」

 

塚本「いや、また話せないかって」

 

美歩「仕事中(と首を振る)」

 

塚本「何時まで」

 

美歩「6時」

 

塚本「待ってるよ、このまえの場所で」

 

美歩「――」

 

塚本「もう一度、ちゃんと話したいんだ」

 

美歩「言ったでしょ、私は」

 

塚本「(遮って)帰るまでに考えて。とにかく待ってる」

 

美歩「――」

 

塚本「注文いいかな。腹へってて(と一席へ)」

 

美歩「うん(お冷やを置く)」

 

塚本「えーと、ネギトロ丼1つ」

 

美歩「はい(厨房に戻り勇翔に)ネギトロ丼お願いします」

 

勇翔「はいよ(と調理を始める)」

 

美歩「(一緒に出す味噌汁や漬物の用意)」

 

勇翔「(調理しつつ)このまえ来た同級生?」

 

美歩「え」

 

勇翔「しゃべってたから」

 

美歩「ええ、まぁ」

 

勇翔「毒入れとく?」

 

美歩「え」

 

勇翔「冗談だよ(と笑う)」

 

美歩「(真顔のまま目をそらす。仕事に戻る)」

 

勇翔「――」

 

時間飛んで、

 

塚本「(席でスマートフォンを見ている。厨房の方に気づく)」

 

美歩「(料理を持ってきて)お待たせしました」

 

塚本「ありがと」

 

美歩「(首を振って料理を置く)」

 

塚本「今のうち1つだけ。宮永とは別れた」

 

美歩「(塚本を見る)」

 

塚本「ちゃんと終わったよ」

 

美歩「(目をそらし)私に関係ないと思うけど」

 

塚本「まぁ、そうだけど」

 

美歩「待たないで。帰って(伝票を置いて厨房に戻る)」

 

塚本「――」

 

勇翔「(厨房に戻ってきた美歩を見る)」

 

美歩「(動揺を静めて)女子のトイレ、今のうち掃除してきます」

 

勇翔「ああ、ありがと」

 

美歩「(うなずいてトイレへ)」

 

 

 

 

●女子トイレ

 

美歩がゴシゴシ丁寧に掃除している。

 

 

 

 

●しおさい・店内

 

塚本の声「すいませーん」

 

勇翔「(厨房から出てきて)あ、お待たせして」

 

塚本「(食べ終えて立っていて)ごちそうさまです」

 

勇翔「ありがとうございます(伝票を受け取りレジへ)千2百円になります」

 

塚本「はい(と札を出す)」

 

勇翔「ありがとうございます」

 

 

 

 

●女子トイレ

 

掃除を終えた美歩が動かずにいる。遠くで戸のあく音がして、

 

勇翔の声「ありがとうございました」

 

 

 

 

●脇道

 

しおさいから出た塚本が傘をさして仲見世通りに歩いていく。

 

 

 

 

●しおさい

 

勇翔「(レジで札を整えたりしながら一方を見て)帰っちゃったよ」

 

美歩「(女子トイレのある奥から来て)ええ」

 

勇翔「よかったの」

 

美歩「(塚本の食べ終えた食器を片づける。厨房に行く)」

 

勇翔「――」

 

和代「(戸をあけて入ってきて)ただいま」

 

勇翔「おかえり」

 

和代「いやひどい雨。ここまで来るのに足元びっしょり」

 

 

 

 

●弁天橋のたもと

 

塚本が傘をさして待っている。強雨。

 

 

 

 

●しおさい

 

勇翔「(厨房のブラシがけを中断し)もう6時だから上がって」

 

美歩「(店のテーブルを拭き終えたところで)ええ(流しに行き台拭きを洗う)」

 

勇翔「客はもう来ない。ばあちゃんもいるし。雨はまだあれだけど」

 

美歩「(勇翔に背を向けたまま)送ってくれませんか」

 

勇翔「うん?」

 

美歩「車で家まで、送ってくれませんか(振り向いて勇翔を見る)」

 

勇翔「あぁ――わかった。いいよ」

 

美歩「(目を伏せ)ありがとうございます」

 

 

 

 

●しおさい・表

 

美歩が出てきて傘をさす。続いて勇翔が出て店の鍵を締める。

 

 

 

 

●仲見世通り

 

雨に濡れている七夕の飾り。ふたりがそれぞれ傘をさして来る。

 

勇翔「こっち(と道をそれる)」

 

 

 

 

●住宅地

 

ふたりが行く。

 

 

 

 

●駐車場

 

勇翔「それね(と車を指さして来る。ドアをあけて乗車)」

 

美歩「(助手席に乗る。傘の水を念入りに切ってドアを閉める)」

 

 

 

 

●車内

 

勇翔「濡れちゃったね(自分の傘を後部に)」

 

美歩「ええ(バッグからハンドタオルを出して)これしかないですけど(と勇翔に差し出す)」

 

勇翔「いいよ俺は」

 

美歩「でも」

 

勇翔「使って。そのうち乾く(濡れた腕をこする)」

 

美歩「ええ(濡れた手足を拭く)」

 

勇翔「(生足に一瞬目をとめ、エンジンをかける)終わったらシートベルトね」

 

美歩「あ(拭くのをやめて先にシートベルトをする)」

 

勇翔「(つけるのを見届けて車を動かす)」

 

 

 

 

●駐車場

 

ふたりの乗った車が出ていく。

 

 

 

 

●バスロータリーがある通り

 

車が来る。

 

 

 

 

●フロントガラス越しの風景

 

ヘッドライトに照らされた進行方向。傘をさした塚本がいる。

 

 

 

 

●車内

 

美歩が顔を伏せる。それに気づく勇翔。

 

 

 

 

●弁天橋のたもと

 

塚本のむこうを美歩と勇翔の車が通過する。

 

勇翔の声「(先行して)今日来た彼って、このまえ待ってたって言う?」

 

 

 

 

●車内

 

美歩「ええ」

 

勇翔「(運転しつつ)今日も待ってたんじゃない?」

 

美歩「――」

 

勇翔「何度も観光地に、しかも今日はひとりでなんて、マジなんでは」

 

美歩「――」

 

勇翔「こんな雨の中また来るなんて」

 

美歩「私には迷惑なんで」

 

勇翔「罪な女だね」

 

美歩「――」

 

フロントガラスに打ちつける雨。風が強い。

 

美歩「勇翔さんはこの前の人と、どうなんですか」

 

勇翔「うん?」

 

美歩「あれから、お店の手伝い断わったあと」

 

勇翔「あぁ、このまえ来たよ。ともだちと海に来たって、その帰り」

 

美歩「――ウソ」

 

勇翔「ともだちは先に帰したって。ウソ?」

 

美歩「――」

 

勇翔「もしかして、帰りに見た? 美歩ちゃん帰ってわりとすぐだったけど、来たの」

 

美歩「つき合ってんですか」

 

勇翔「(苦笑し)古いつき合いって言ったじゃない」

 

美歩「じゃあ、なにしにって言うか」

 

勇翔「そんな気になる?」

 

美歩「――そりゃ」

 

勇翔「なんで?」

 

美歩「――それは」

 

勇翔「様子見ってね(言ってた、とため息)ヒマなんかね」

 

美歩「何度も観光地に、直接来るのは、本気なんじゃ」

 

勇翔「――」

 

美歩「手伝う話なくなったのに、またなんて」

 

勇翔「その辺はフワッとさせとく」

 

美歩「え?」

 

勇翔「広げない。その方が穏便に済むし」

 

美歩「――とぼけてるんですか?」

 

勇翔「それがベストってことあるでしょ」

 

美歩「――私のことも?」

 

勇翔「ん?」

 

美歩「気づいてないはずないと思うけど」

 

勇翔「――」

 

 

 

 

●海岸通りの交差点

 

赤信号でふたりの車が停まる。

 

 

 

 

●車内

 

美歩「――(言ってしまった、どうしよう、と身をすくめている)」

 

勇翔「(前を見たまま)美歩ちゃんは俺のこと、よく知らないでしょ」

 

美歩「え」

 

勇翔「俺ならやだね、こんなヤツ」

 

美歩「――どうして」

 

勇翔「一緒にいるからそんな気になっただけで」

 

美歩「教えて下さい」

 

勇翔「――(信号青になって車を出す)」

 

 

 

 

●海岸通りの交差点

 

ふたりの車が右折。

 

美歩の声「知りたいです、もっと」

 

 

 

 

●車内

 

勇翔「それが逆じゃない」

 

美歩「逆?」

 

勇翔「知ったから好きになるんで。なったから知りたいって逆」

 

美歩「――」

 

勇翔「もっといい人いるよ、美歩ちゃんには」

 

美歩「私は最初から、いい人とわかってました」

 

勇翔「最初から?」

 

美歩「好きになったから知りたくなるって、いくらでもあると思うけど」

 

勇翔「どういうこと? わかってたって」

 

美歩「――」

 

勇翔「どういうこと?」

 

美歩「私が勇翔さんをはじめて見たのは、ゴールデンウィーク。千葉に住む従妹のリクエストで、江の島に来た時」

 

 

 

 

●回想・仲見世通り

 

迷子が両親と合流するまでのモンタージュ。

 

勇翔の声「ゴールデンウィーク?」

 

美歩の声「迷子の男の子を肩車して、パパとママを探してました」

 

 

 

 

●現実・車内

 

勇翔「あぁ(思い出す)」

 

美歩「次に見たのはその日の帰り」

 

 

 

 

●回想・仲見世通り

 

日傘を渡したあと引き返して来る勇翔と、美歩がすれ違うまでのモンタージュ。

 

美歩の声「日傘を忘れたお客さんに、走って届けるのをまた偶然」

 

 

 

 

●現実・車内

 

勇翔「――」

 

美歩「レモンを拾ったあの時は、大学のともだち4人が江の島行きたいって、案内役でその帰り。それも偶然です。すれ違って」

 

 

 

 

●回想・仲見世通り

 

勇翔が買い物袋からレモンを落とし、美歩が拾う。

 

勇翔の声「次の週、店に来たのは」

 

 

 

 

●現実・車内

 

美歩「近くで働けば、また機会あるかって、バイト探しのついでに」

 

 

 

 

●回想・しおさい

 

美歩が食べに来た日。

 

美歩声「でもしおさいで働こうとは、思ってませんでした。そこまでは」

 

勇翔の声「――そう」

 

美歩の声「でも」

 

 

 

 

●現実・車内

 

美歩「キモイですよね、わざわざ来て」

 

勇翔「――」

 

美歩「だけど、ほかに知り合う方法思いつかなくて」

 

 

 

 

●江ノ島駅付近

 

渋滞している。ふたりの車が停まる。

 

勇翔の声「迷子のことは憶えてるよ」

 

 

 

 

●車内

 

美歩「そうですか?」

 

勇翔「開店時間でのれん出してる時、子供の声が聞こえて」

 

美歩「(うなずく)」

 

勇翔「でもあんなことは滅多ない。だから憶えてる」

 

美歩「(うなずく)」

 

勇翔「滅多ないことをたまたま見かけて、それをオーバーに取られてもね」

 

美歩「――」

 

勇翔「美歩ちゃんはたぶん、恋に恋してんじゃないかな」

 

美歩「そんな」

 

勇翔「毎日そうそう楽しいことない。つまんなくて」

 

美歩「――」

 

勇翔「偶然はドラマっぽいし、インパクトあるし、はじめてなら余計、それになんだか意味を持ちたくて」

 

美歩「――」

 

 

 

 

●江ノ島駅付近

 

渋滞が解消しふたりの車が走り出す。

 

勇翔の声「一緒に働いて、普段の俺見てどうだった? たいしたことなかったでしょ」

 

 

 

 

●車内

 

美歩「そんなことないです」

 

勇翔「そお?」

 

美歩「まじめだし、愚痴言わないし」

 

勇翔「だらしなかったり、だらけたりあったと思うけど」

 

美歩「それは毎日忙しいからで。よく見せようとか、気取ってないのもいいと思ったし」

 

勇翔「いいとこばっか見て、悪いとこは見ないで、悪いとこもよく取って、いい人に違いない、そう思いたいんじゃない?」

 

美歩「――」

 

勇翔「ややこしい、わかりにくいのは嫌で、単純にする。物語に。物語って都合よく、編集してオーバーにしたもので。事実とは違う。なのに人は信じたがって、だから間違える」

 

美歩「――」

 

勇翔「誰でも、俺でも、美歩ちゃんもそうだよ」

 

美歩「――」

 

勇翔「この辺かな?」

 

美歩「(前を見て)はい、次の信号の先」

 

 

 

 

●信号

 

その手前の停められるスペース。ふたりの車が来る。停車する。雨はだいぶ弱くなっている。

 

 

 

 

●車内

 

勇翔「いま辞められると困るから、今日の話は聞かなかったことにするね」

 

美歩「――」

 

勇翔「家の前まで送らないけど、気をつけて」

 

美歩「(うなずき)ありがとうございます」

 

勇翔「ああ」

 

美歩「(ドアをあけて傘をさし外へ)」

 

勇翔「――」

 

ドアが閉まる。

 

 

 

 

●信号

 

美歩が信号を曲がる。その後ろを勇翔の車が走り去る。

 

 

 

 

●波多野家・玄関

 

由美「(ドアをあけ)おかえり」

 

美歩「ただいま(入る)」

 

和明「(来て)心配したよ。返信ないから」

 

美歩「返信?」

 

和明「車で迎え行くって」

 

美歩「あぁ、見てなかった(スマートフォンを出す)」

 

由美「バスでしょ?」

 

美歩「お店の人に送ってもらって(靴を脱いで上がる)」

 

由美「そうなの?」

 

美歩「そこまで話してて(スマートフォンの画面を見て)気づかなかった」

 

由美「そう」

 

和明「疲れてるな」

 

美歩「うん(階段へ)」

 

和明「――」

 

 

 

 

●しおさい

 

働いている美歩、勇翔、和代。美歩と勇翔には車での会話の痕跡なく、

 

 

 

 

●しおさい(時間経過)

 

勇翔「(美歩の分の賄い料理を渡し)先にひとりでどうぞ。俺ちょっとやることあるから」

 

美歩「はい(料理をテーブルに持っていく)」

 

勇翔「(住居の方に行く)」

 

美歩「いただきます(と手を合わせてひとりで食べだす)」

 

 

 

 

●潮田家・風呂場

 

勇翔が掃除している。

 

 

 

 


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