シナリオ【あの夏あの島で】 1 | Novel & Scenario (小説と脚本)

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このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。


 

●江の島・情景(昼前)

 

江ノ電の駅から海に続く道や片瀬海岸、弁天橋などのにぎわい。

 

波多野美歩(18)の声「私が勇翔さんをはじめて見たのは、ゴールデンウィーク。千葉に住む従妹のリクエストで、江の島に来た時」

 

波多野美歩と従妹の波多野結衣(14)が仲見世通りを登る。にぎわいの中で「ママー、パパー」と探している5歳ぐらいの男の子がいる。

 

美歩「(振り向いて見つけ)迷子かな」

 

結衣「ね。あ、あれカワイイ(と店へ)」

 

美歩「(迷子を気にしつつ結衣を追う)」

 

 

 

 

●土産物屋

 

結衣がアクセサリーを見ている。美歩もそばにいる。しかし迷子が気になる。

 

 

 

 

●仲見世通り

 

美歩が店から出てきて迷子を探す。しかしさっき見た方向にいない。逆の上側に気づく。

 

男の子が南雲勇翔(25)に肩車され、はぐれた家族を探している。

 

勇翔「どうだ? 見える?」

 

男の子「いた!(と下の方を指さす)」

 

美歩「(その先を見ると)」

 

若い両親が男の子に手をあげながら来る。男の子よりさらに幼い妹を連れている。

 

勇翔「よしよし、よかったよかった(と男の子を下ろしながら美歩の横を通過)」

 

美歩「――」

 

男の子が家族と合流し、勇翔はお礼を言われる。男の子は叱られる。

 

結衣「(店から出てきて)お待たせ」

 

美歩「うん(結衣について仲見世通りを登る。勇翔が気になって振り向く)」

 

 

 

 

●江の島観光のモンタージュ

 

ふたりの散策をスケッチ。江島神社。サムエル・コッキング苑。シーキャンドル。御岩屋道通り。太平洋の見渡せる定食屋で食事。龍恋の鐘。人の少ない西側の道を戻る。

 

美歩の声「次に見たのはその日の帰り」

 

 

 

 

●仲見世通り

 

美歩と結衣が下りてくる。結衣がまた土産物屋にひっかかる。美歩は周囲を見まわす。行きに彼を見たのはこの辺り、と探す目。しかしいるわけない、と諦める。

 

勇翔の声「お客さん」

 

美歩「(声のした坂の上を見る)」

 

勇翔「(腰にエプロンを巻いたTシャツ姿で走って通過。50代の女性3人組に)これこれ、忘れ物(と日傘を届ける)」

 

女性たち「あらうっかり」「やぁね歳で」「ごめんなさいわざわざ」

 

勇翔「いえ。お気をつけて」

 

女性たち「はい」「ほんとほんと」「ありがとう」

 

勇翔「じゃ」

 

女性たち「また来ます」「必ず」

 

勇翔「お待ちしてます(と一礼しながら引き返してくる。美歩の横を通過)」

 

美歩「(振り返って見送る)」

 

勇翔が脇道に入っていく。

 

 

 

 

●大学(後日・昼前)

 

美歩の通う大学。美歩が講義を受けている。

 

まじめに受けているその顔に、

 

 

 

 

●フラッシュインサート

 

迷子を肩車する勇翔。

 

 

 

 

●大学

 

講義を受ける美歩。

 

 

 

 

●フラッシュインサート

 

日傘を届けて引き返してくる笑顔の勇翔。

 

 

 

 

●大学

 

講義を受ける美歩。

 

女子の声「(先行して)え、美歩ちゃんちって藤沢なの?」

 

 

 

 

●学生食堂

 

美歩を含む女子学生5人がランチ。美歩はまだ馴染んでなく隅に座っている。

 

美歩「うん」

 

棚橋彩「江の島近い?」

 

美歩「まぁ」

 

野崎梢「どんくらい?」

 

美歩「歩いて2~30分とか」

 

小川敦美「行こうよ今度みんなで江の島。いいよあの辺。エノスイとか」

 

沢井穂香「鎌倉も近いしね、江ノ電で」

 

彩「1日でそんなあちこち無理っしょ」

 

梢「泊りがけよ泊りがけ。波多野さんち近いって言うし」

 

美歩「え」

 

敦美「いいねそれ。泊めて泊めて。お家おっきい?」

 

穂香「雑魚寝でいいから」

 

梢「布団もいらない。最近暑いし」

 

美歩「いいけど(少し困惑)」

 

 

 

 

●藤沢駅・改札口(後日・朝)

 

美歩を含む前シーンの5人が待ち合わせ。

 

 

 

 

●江ノ電

 

乗っている5人。車窓風景。初夏の陽射し。

 

 

 

 

●江の島

 

5人が弁天橋を渡り青銅の鳥居をくぐる。

 

 

 

 

●仲見世通り

 

登ってくる5人。

 

彩「食べるとこもうあいてんだね」

 

梢「早い方がいいのかな。混みそうだよねお昼になっと」

 

穂香「どっかオススメある美歩」

 

美歩「あ、生シラス丼なら(先日勇翔が曲がった角にちょうどさしかかり、脇道沿いの店を指さして)あそことかあるかも」

 

敦美「シラス食べたい」

 

穂香「えー、もっとおしゃれなとこがいいよ。島のむこうにイタリアンとかなかったっけ」

 

梢「あ、あったかも」

 

穂香「イタリアンいい。そこにしよ(と再び歩きだす)」

 

敦美「シラスー」

 

彩「なんかあるよピザとか」

 

敦美「ほんと?」

 

通過する5人。脇道にある店「しおさい」の看板。

 

 

 

 

●5人のモンタージュ

 

神社の参拝。食事。ツツジやバラなどの季節の花。稚児ヶ淵。動画を撮り合ったりする。

 

 

 

 

●仲見世通り

 

5人が下りてくる。水族館に行くつもりでまだ昼下がり。美歩が最後尾で「しおさい」のある脇道を見て通過する。今日は会えなかったな、と残念顔。しかし進行方向に気づく。

 

勇翔が両手に買い物袋を持って登ってくる。急いでいる。

 

美歩「――」

 

美歩の横を勇翔が通過。美歩は振り向く。遠ざかる勇翔の背中。買い物袋からレモンが1つ飛び出る。坂道を転がってくる。

 

美歩「あ(拾ってどうしようと仲間たちを振り向くが4人は気づかない。下りていく。美歩はまた勇翔を見る)」

 

勇翔はしおさいのある脇道に入る。美歩、走って追う。

 

 

 

 

●脇道

 

しおさいの戸が閉まり、美歩が来る。

 

 

 

 

●しおさい

 

美歩「(戸をあけて入店)」

 

勇翔「(厨房で買い物袋を置いていて)いらっしゃいませ」

 

美歩「(緊張。深呼吸)」

 

勇翔「(店に出てきて)おひとりですか」

 

美歩「あ、これ(とレモンを差し出す)」

 

勇翔「レモン?」

 

美歩「落としました」

 

勇翔「あ、俺?」

 

美歩「袋から」

 

勇翔「そう。ありがとう。気づかなかった(受け取る)」

 

美歩「ええ」

 

勇翔「わざわざすみません。お礼に何か、飲んできます?」

 

美歩「あ、いえ、ともだち待ってるんで(と外を指さす)」

 

勇翔「そう」

 

美歩「じゃ(戸をあけて外へ)」

 

勇翔「ありがとう」

 

美歩「いえ」

 

 

 

 

●脇道

 

美歩が仲見世通りに戻っていく。しおさいを振り向くと勇翔が見送っていて会釈。美歩も会釈を返して仲見世通りに折れる。坂をおりながら笑みがこぼれる。

 

 

 

 

●大学・情景(後日)

 

雨が降っている。梅雨。

 

 

 

 

●教室

 

美歩が講義を受けている。彩たちがそばにいる。頬杖をつく美歩の顔に、

 

 

 

 

●フラッシュインサート

 

勇翔にレモンを届けた時の回想。

 

 

 

 

●大学・教室

 

美歩。

 

 

 

 

●フラッシュインサート

 

美歩を見送り会釈した勇翔。

 

 

 

 

●大学・教室

 

美歩。窓の外を見る。降り続く雨。

 

 

 

 

●江の島・遠景

 

雨に霞んでいる。

 

 

 

 

●仲見世通り

 

雨のために観光客は少ない。美歩が傘をさして登ってくる。店先の求人の貼紙を見たりする。

 

 

 

 

●しおさい

 

勇翔「(テーブルを拭いていて入口を見)いらっしゃいませ」

 

美歩「(会釈して入店。戸を閉める)」

 

店内に客はいない。

 

勇翔「おひとりですか」

 

美歩「はい」

 

勇翔「どうぞ、お好きな席どこでも(厨房に入る)」

 

美歩「(席に座ってメニューを見る)」

 

勇翔「(お冷やを持ってきて)いらっしゃいませ」

 

美歩「オススメありますか」

 

勇翔「そうですね。今日はアジのいいのが入ってます」

 

美歩「へぇ」

 

勇翔「なので刺身。フライでもいいけど」

 

美歩「じゃあ、お刺身で」

 

勇翔「定食?」

 

美歩「ええ、定食」

 

勇翔「お待ち下さい(微笑し厨房へ)」

 

美歩「――(緊張。次にどう話そうか、と思いながら店内を見まわす)」

 

勇翔「(調理している)」

 

美歩「(店の外に気づく)」

 

 

 

 

●しおさい・表

 

雨が強い。店先に若いカップルが来る。メニューを見て検討。入るのをやめにして離れる。

 

 

 

 

●しおさい

 

美歩「(ほっとする。同時にふたりで話せるチャンスは今しかない、とあせる)」

 

勇翔「(定食の盆を持ってきて)お待たせしました。アジの刺身定食です」

 

美歩「ありがとうございます」

 

勇翔「(置いて)ごゆっくりどうぞ(厨房に戻っていく)」

 

美歩「(会釈。箸を取る。話しかけられない)」

 

勇翔「(とまって振り向き)これあの、ナンパとかじゃなく」

 

美歩「え?」

 

勇翔「質問なんですけど、前に会ったことあります? 僕と」

 

美歩「あ――」

 

勇翔「いや、なんか見憶えある気がして」

 

美歩「このまえ、先週あの、レモン」

 

勇翔「あ、あの時の」

 

美歩「ええ」

 

勇翔「そうか。そうだ。あの時はどうも」

 

美歩「いえ」

 

勇翔「ありがとう」

 

美歩「目の前に転がってきたから」

 

勇翔「じゃあこれ(定食を指さし)今日はお礼で」

 

美歩「え」

 

勇翔「ごちそうします」

 

美歩「いえ、そんなつもりじゃないんで」

 

勇翔「まぁ、だろうけど」

 

美歩「払います。いただきます」

 

勇翔「こっちの気持ちで(厨房へ)」

 

美歩「でも――」

 

勇翔「(自分のお冷やを持って戻ってきて)どうぞ、召し上がって」

 

美歩「はい」

 

勇翔「バイトですか(少し離れた席に座る)」

 

美歩「バイト?」

 

勇翔「ここら。先週来て今日もって」

 

美歩「あ――」

 

勇翔「そこの通りのどっかで働いてて、その帰りとか」

 

美歩「いえ、アルバイトは探してるけど」

 

勇翔「そうなの?」

 

美歩「学生です。大学1年。夏休みにどっかいいバイトないかって」

 

勇翔「ここらで? お家は島内?」

 

美歩「いえ、海のむこうですけど、ここまで来る方がちょっと時給いいし、観光地の相場で」

 

勇翔「ここでする? バイト」

 

美歩「え」

 

勇翔「つっても俺もバイトだけど」

 

美歩「そうなんですか?」

 

勇翔「じいちゃんとばあちゃんの店で、ここ。ふたりは今いない。じいちゃんがこのまえ入院して。スネの骨折で。ばあちゃんはその見舞い。今日はついさっき出かけて」

 

美歩「へぇ」

 

勇翔「その入院があとひと月かかるって言うんで、これから忙しくなると今みたいに見舞い行けない。どうしたもんかって話してて」

 

美歩「そうですか」

 

勇翔「もうひとりいると助かるの。もしよければ紹介、即OK出ると思うけど」

 

美歩「でも――」

 

勇翔「嫌か、こんな古い店(と見まわす)」

 

美歩「いえ、そんなことはないけど」

 

勇翔「もっと綺麗なとこあるよね、いくらでも」

 

美歩「なんか、急展開で」

 

勇翔「あぁ、確かに」

 

美歩「私なんて――アルバイトは生まれて初めてで、できるかどうか」

 

勇翔「だいじょうぶ。いや間違いないと思って」

 

美歩「間違い?」

 

勇翔「落とし物を拾ってくれる人なら、いい人に違いない」

 

美歩「――拾わない方が不自然だったし」

 

勇翔「時給ははじめ千円。慣れたら千百円。交通費は1日5百円まで。賄い付き。仕事は注文取りと料理を出すのと片づけ。あとは会計と皿洗い」

 

美歩「はぁ」

 

勇翔「考えて、もしやりたくなったら連絡くれますか(立って厨房との境にあるカウンターからスマートフォンを持ってくる)連絡先いま」

 

美歩「やります」

 

勇翔「え」

 

美歩「アルバイト、ここでします」

 

勇翔「そお? 悩まなくていい?」

 

美歩「はい(立って)よろしくお願いします(とお辞儀)」

 

勇翔「よろしく。じゃあ食べたあと、名前と連絡先教えてくれる?」

 

美歩「はい(バッグからスマートフォンを出す)」

 

勇翔「僕は南雲勇翔。南の雲に、勇ましく翔ぶ」

 

美歩「あ、私は、波多野です。波多野美歩」

 

勇翔「ミホちゃんか」

 

美歩「波に多いに野原の野、美しく歩く」

 

勇翔「モデルさん?」

 

美歩「え」

 

勇翔「美しく歩く」

 

美歩「あ――(リアクションに困る)」

 

勇翔「007みたいだった」

 

美歩「00?」

 

勇翔「ボンド、ジェームズボンド」

 

美歩「(よくわからず首をかしげ)はぁ」

 

勇翔「よろしく(スマートフォンを置いて見せ)これ、店と僕の連絡先。いつからできるかな(戸のあく音で来客に気づき)いらっしゃいませ」

 

 

 

 

●波多野家・外観(夕方)

 

古い一戸建て。美歩が傘をさして帰ってくる。

 

 

 

 

●キッチン

 

母親の由美(46)が夕飯をつくっている。

 

美歩「ただいま」

 

由美「おかえり」

 

美歩「(できあがった料理を眺めつつ鼻歌)」

 

由美「どうした」

 

美歩「何が?」

 

由美「いいことあった?」

 

美歩「バイト決まった」

 

由美「どんな」

 

美歩「江の島。ご飯食べるとこ」

 

由美「へぇ」

 

美歩「あさってから行く(と自分の部屋がある2階へ)」

 

由美「そう(見送る。調理に戻る)」

 

 

 

 

●江の島・遠景(朝)

 

晴天。

 

 

 

 

●弁天橋

 

走る自転車の車輪。美歩の自転車。江の島に向かう。

 

 

 

 

●江の島・駐輪場

 

バス停近くの無料駐輪場。美歩が自転車で来てとめる。

 

 

 

 

●しおさい

 

美歩「(仲見世通りから来て戸があいている店内を覗き)おはようございます」

 

勇翔の祖母、潮田和代(73)「(開店の準備をしていて)はい、おはようございます」

 

美歩「あ、今日からアルバイトさせていただく、波多野です」

 

和代「あ、あ、聞いてた聞いてた」

 

美歩「はじめまして。よろしくお願いします」

 

和代「こちらこそ(お辞儀したあと厨房に)勇ちゃん、アルバイトの子来た(と呼んでから美歩に微笑し)よろしくね」

 

美歩「はい」

 

和代「まぁかわいい」

 

美歩「いえ」

 

勇翔「(厨房から来て)あ、おはよう」

 

美歩「おはようございます」

 

勇翔「ずいぶん早いね。今日からよろしく(と微笑したあと和代に)波多野さん」

 

和代「聞いた」

 

勇翔「美歩さん。美歩ちゃんでいい? 呼び方」

 

美歩「あ、はい」

 

勇翔「こっちはばあちゃん。ばあちゃんて呼ぶの変だな。なんて呼ぶ?(と和代に聞く)」

 

和代「そうねぇ。どうしよ」

 

勇翔「店長もアレだし、名字の潮田もなんだし、おかみ? おかみさん? マダム?」

 

和代「ふざけて(呆れて美歩に)ねぇ」

 

勇翔「名前でいいか。なんだっけ名前ばあちゃん。和代だ。和代さんでいい?」

 

和代「いいよなんでも」

 

勇翔「(美歩に)じゃあそれで」

 

美歩「はい」

 

和代「ほんとかわいい子」

 

美歩「いえ」

 

勇翔「だろ? まず着替えよっか。場所はこっち」

 

和代「いやらしい。なんてこと言うの」

 

勇翔「何が。場所教えるだけだろ」

 

和代「私がやるよ。こっちね(と美歩に言って奥へ)」

 

美歩「はい(とついて行く)」

 

 

 

 

●江の島・モンタージュ

 

弁天橋から青銅の鳥居、仲見世通りの情景。梅雨の晴れ間でたくさんの観光客。

 

 

 

 

●しおさい

 

どんどん客が入ってくる。

 

美歩「いらっしゃいませ。何名様ですか」

 

客A「3人」

 

美歩「あ、えっと、じゃあこちら、こちらの席どうぞ」

 

客B「注文いいですか」

 

美歩「あ、私まだ注文は。ちょっとお待ち下さい(厨房に行き和代に)すみません注文お願いします」

 

和代「何番?」

 

美歩「あ、そうだ(店に戻りかけ)」

 

和代「ついでにお水、持ってって」

 

美歩「はい(とすでについであった水のコップを持とうとして倒す)あわわ」

 

勇翔「おっとっと」

 

美歩「ごめんなさい」

 

時間飛んで、帰った客の食器を美歩が片し厨房に来る。料理を持った和代とぶつかりそうになって、

 

美歩「わ!」

 

和代「気をつけて」

 

美歩「すみません」

 

勇翔「(黙々と調理していて)はいこれ上がった」

 

美歩「はい(と伝票と共に料理の盆を持っていく。店で)お待たせしました。海鮮丼と生シラス丼です」

 

客C「あ、まだ頼んでないけど」

 

美歩「え(伝票を見直し)あ、7だ。1じゃない。すみません間違えました(とお辞儀して別のテーブルに行き)ごめんなさいお待たせして」

 

 

 

 

●駐車場(午後)

 

和代が夫の見舞いに行くため普段着で来る。軽自動車に乗る。

 

 

 

 

●しおさい

 

女子トイレから美歩が出てくる。泣いていたところで目が赤い。鼻をすする。

 

客がいない店内で勇翔が賄いを食べている。美歩の分もテーブルにある。美歩が来て席につく。

 

勇翔「腹へったっしょ。昼はいつもこのぐらいだから、朝はしっかり食べてきて」

 

美歩「はい」

 

勇翔「どうぞ」

 

美歩「いただきます(と言うが手をつけない。目を伏せる)」

 

勇翔「どした? 食欲ない?」

 

美歩「いえ」

 

勇翔「(美歩の腫れたまぶたに気づき)お腹こわした? トイレ長かったのウンコ?」

 

美歩「違います!」

 

勇翔「なに、アイドルだからウンコしない?(と笑わそうとするが)」

 

美歩「(真顔のまま)失敗ばかりで、すみません(と一礼)」

 

勇翔「そお?」

 

美歩「足ひっぱって」

 

勇翔「だいぶ楽できたと思うけどばあちゃん。見舞いも行けたし」

 

美歩「私なんか役に立てるか」

 

勇翔「生まれて初めてなんでしょバイト」

 

美歩「ですけど」

 

勇翔「初日にしては忙しすぎだったね。悪いことした」

 

美歩「いいえ」

 

勇翔「もっと楽な日からスタートすればよかった」

 

美歩「そんなことありません」

 

勇翔「ま、客入りはなかなか読めないし。そのうち慣れるよ。だいじょうぶ」

 

美歩「(首をひねる。自信ない)」

 

勇翔「これからもっと忙しくなるし、失敗は今のうちどんどんしとくといいよ。食べて」

 

美歩「はい。いただきます」

 

勇翔「うん」

 

 

 

 

●弁天橋(夕方)

 

美歩が自転車を押して江の島から来る。帰り道。朝のはりきりとは別人のように落ち込んでいる。鼻をすする。

 

 

 

 

●美歩の大学(後日・午後)

 

美歩が彩たちと笑顔でおしゃべり。手を叩いて爆笑する。

 

 

 

 

●しおさい(朝)

 

美歩が出勤し「おはようございます」

 

勇翔が寝ぼけた顔と寝癖のついた髪で客席の椅子を整えていて「おはよう」

 

 

 

 

●仲見世通りの混雑

 

 

 

 

●しおさい

 

働いている美歩と勇翔と和代。忙しい。美歩はまだ慣れない。

 

 

 

 

●江の島・モンタージュ

 

美歩や勇翔と同世代の若者が楽しんでいる。

 

 

 

 

●しおさい・店内

 

美歩がトイレから戻って賄いの席につく。勇翔は食べ終わって椅子を4脚ならべ横になっている。

 

美歩「いただきます(と食べ始めるが勇翔を意識。勇翔は目をつぶって動かない。勇翔が会話を望んでないのが寂しく、つまらない。少し不機嫌に)食べてすぐ寝ると牛になりますよ」

 

勇翔「(目をつぶったまま)モ~」

 

美歩「(機嫌が直って笑顔で食べる)」

 

 

 

 

●テレビ画面

 

ドラマが流れている。激しいやり取り。

 

 

 

 

●波多野家・リビング

 

美歩がテレビをつけたままソファーで寝ている。

 

父の和明(49)「(帰ってきたところで美歩に気づき)寝てんのか」

 

由美「バイトでお疲れみたい」

 

和明「ふーん。勉強ちゃんとしてんのか」

 

由美「毎日楽しそうよ」

 

 

 

 

●しおさい

 

働いている美歩と勇翔と和代。忙しい。美歩が注文を取っている。だいぶ慣れてきた。

 

 

 

 

●江の島(午後)

 

テレビ局のスタッフ3人がロケハン。

 

 

 

 

●潮田家・脱衣所

 

しおさいの奥にある住居。勇翔が洗濯機に自分の下着などを入れている。

 

 

 

 

●しおさい・厨房

 

和代「(食器を洗っていて時計を見上げ)あぁこんな時間か。そろそろ行かないと」

 

美歩「代わります」

 

和代「ありがと」

 

美歩「ご主人の病院てどちらなんですか?」

 

和代「藤沢と辻堂のあいだ、引地川沿いのね(手を洗ったりエプロンを取ったりする)」

 

美歩「へぇ、大変ですね毎日」

 

和代「私しか見舞う人いないし」

 

美歩「え、勇翔さんのお母さん、和代さんの娘さんは、病院いらしたりしないんですか」

 

和代「あぁ――勇ちゃんなんも言ってない?」

 

美歩「え、なんもって」

 

和代「そうね。そんなことできたらよかったんだけど(目をそらして奥に行ってしまう)」

 

美歩「――(なんか事情があるのか、悪いことを聞いたか、と思う)」

 

 

 

 

●しおさい・表

 

普段着に着替えた和代が店から出てきて仲見世通りへ。

 

 

 

 

●しおさい

 

勇翔が厨房で料理の下ごしらえをしている。

 

美歩「(今日の勤務を終えて着替えてきて)じゃあ、お先に失礼します」

 

勇翔「おー、お疲れさま。気をつけて」

 

美歩「はい、ありがとうございます。お疲れさまです(と言うが立っている)」

 

勇翔「うん――どした?」

 

美歩「今日はおっきいミスしなかったなって」

 

勇翔「あぁ、そうか。そうね、がんばった」

 

美歩「いえ」

 

勇翔「なに、時給交渉? もっと上げろ?」

 

美歩「違います。そんなじゃないです」

 

勇翔「ばあちゃんに言っとく」

 

美歩「言わなくていいです」

 

勇翔「助かってるよほんと、冗談抜きで」

 

美歩「(うなずき)よかったです。じゃ」

 

勇翔「また」

 

美歩「はい(と戸をあけると前出のテレビ局スタッフが戸をあけようとしたところで)」

 

ディレクター「あ、すみません」

 

美歩「いえ、いらっしゃいませ」

 

ディレクター「え(普段着の美歩に言われたのでポカン)」

 

美歩「どうぞ(と言ってから勇翔に)お客さんです(と声をかけ、入店したスタッフたちに)失礼します(と会釈して外へ)」

 

ディレクター「(見送る)」

 

勇翔「いらっしゃいませ(と厨房から出てくる)」

 

 

 

 

●仲見世通り

 

美歩が下りてくる。笑顔がこぼれる。

 

勇翔の声「(先行して)このまえ美歩ちゃんが帰りがけに会った人たち、テレビ局の人だったのね」

 

 

 

 

●美歩の大学(後日)

 

美歩や彩たち。

 

美歩の声「へぇ」

 

勇翔の声「情報番組? 梅雨明け前に江の島の特集やりたいらしく、取材したいって。今日これから来るから」

 

 

 

 

●しおさい

 

勇翔「(厨房で開店準備をしつつ直結で)よろしくね」

 

美歩「(やはり開店準備をしていて)よろしくって?」

 

勇翔「映るのよ。料理出したり説明したり」

 

美歩「え、私が?」

 

勇翔「こんなヒゲよりいいじゃない(剃り忘れたのか無精髭)」

 

和代「ババアよりね」

 

美歩「え、え、無理ですそんな、説明とか、顔出しも」

 

勇翔「NG? 事務所的に? どんな事務所よ」

 

美歩「急に言われても心の準備が」

 

勇翔「だいじょうぶ。どうせ短くだろうし、使われないかもしれない」

 

和代「がんばって」

 

美歩「えー(困惑)」

 

 

 

 

●青銅の鳥居あたり

 

お笑いコンビとテレビ局スタッフが撮影している。

 

 

 

 


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