プロローグ | 蔵人的駄文小説劇場

蔵人的駄文小説劇場

The Beat NatureのMC担当・蔵人 THE S.T.R.F.S.が織り成す小説劇場。過度な期待はしないで下さい。

起きたら、そこは真っ暗な闇の中だった。
何も見えない。
いつも僕を呼んでくれる声も聞こえない。

ここはどこ?

だけどそこは見たことがないわけじゃない。恐らく、一度は来たことがある場所である。
分からないけれど、何故かどこか懐かしい感じがした。
そんな時、聞きなれない声が聞こえてきた。

…歌?

僕は、声がする方へ探り探り近付いて行った。
するとそこには光が挿していた。
僕は全く怖いとは思わなかった。むしろ、どこか懐かしく、安心する、暖かい感じがした。
光の方からはまだその歌声が聞えて来た。何となくだけど、向こうも僕の存在には気付いているようで、次第に歌声は優しくなっていった。
どんな歌なのかは聞き取れないけれど、それは確かに優しく、そしてどこか力強かった。
光に包まれているその場所へ向かうと、そこには一人の少年が座っていた。年齢は…僕と同じくらいだろうか?
すると、光の中にいる少年が笑顔で僕に話しかけてきた。
「やぁ。久し振り」
僕はその言葉の意味が分からなかったけれど、少年は全く汚れのない綺麗な瞳で僕にそう言った。別に怖くもない。不思議だけれど、その少年に対して優しく、懐かしい感覚さえも覚えたくらいだ。
「僕は君とは初対面だと思うんだけど」
「そうかな?もしかしたら君だけが忘れてしまっているんじゃないかい?」
僕は考えた。だけど、この少年とは初対面だ。だけれど、少年の言葉には嘘はないように感じられる。でも、僕はこの少年を知らない。
「どうしてそう思うのかな?申し訳ないだけど僕の記憶には君は存在しないんだ。でも君の言っていることが嘘だとは思えなくて…」
少年は無邪気な笑顔で答えた。
「そうかもね。もしかしたら、君の記憶には僕は存在しないのかもね。だけど、会うのはこれで初めてじゃないよ?あ、別に僕は君を騙そうとしているんじゃないよ?だけど、君にも分かるででしょ?この場所に来るのが初めてではないことが」
少年は屈託のない笑みでそう言った。不思議と、その少年の言葉を信じてもいいような気がした。
「どうして君はここにいるの?」
「君が僕の事を覚えていないのは悲しいけど、もう一度、君に会いたいと思ったんだ」
僕は少年の言葉の意味が全く分からなかった。すると、笑顔で僕にこう言った。
「大丈夫。僕は幽霊なんかじゃないよ?もしかしたら幽霊かも知れないけれど君を向こうへと誘うつもりもない。ただ…」
「…ただ?」
「もう君と会うことはないかも知れないけど、ただ、もし暇な時でいいんだ。僕がいなくなっても、時々僕の事を思い出して欲しくて、だから僕は今日君にお別れを告げにここに来て、そして君にもここに来てもらった」
僕は益々この少年が言っている言葉が分からなくなったけれど、不思議とその少年の言葉に「嘘」を感じることは出来なかった。

ここに来てもらった?

お別れ?

僕は考えたけれども、全く分からなかった。すると、少年はただ僕に優しく笑った。
「何も思い出せないかも知れない。今は。だけど時々僕の事を思い出して?それから…」
少年は少し言葉につまり、そして少年の顔から笑顔が消えた。だけど怖い顔じゃない。ただ力強く優しい。けれどどこか厳しい表情になった。
「…間違っても君の大事な人を泣かせるようなことはしないで?僕との約束じゃない。僕だけじゃない君の周りの人達、そして”彼女”…その人達の為に何があっても、生きて」
“彼女”?どう言うことだろう?でも、不思議と、その少年の言う”彼女”の表情は浮かんできた。
いつも優しく笑ってくれている”彼女”。それは間違いなく僕の中で大切な人だ。だけど、少年は何故”彼女”の事を知っているのか?
「いいかい?絶対に、”彼女”だけは君が守って?”彼女”は君の大事な存在で、そして」
少年はの言葉は一度途切れて、再び笑顔になり
「”彼女”は”全て”を知っていたんだ。だから、もし彼女から笑顔が消えたら再び君が”彼女”を笑顔にして。だから、絶対に生きて」
その時遠くから声が聞こえて来た。また、聞き覚えのある声。いつも聞いている声。
「お喋りが過ぎたね。君とは会えないかも知れない。だけど時々僕のことを思い出して?そして、この人達を…そして”彼女”のもとに戻ったら、絶対に悲しませないで。それは僕と、そして、”彼女”との約束だから」
そう言い終えると少年は上を見上げた。上からは少し、光が挿しているように感じた。
「ほら、君を呼んでる。みんなの所に戻って、そして、”彼女”がもしも”間違った行動”を取ってしまいそうになったら、この夢の…僕の話をして」
「…君の名前は?」
「僕は…」
聞き取れない声で少年は囁いた。すると、上から僕を呼ぶ声に引っ張られるかのように、僕の意識はなくなっていった。