関西が得意とする再生医療などの最先端技術を生かして、「医療都市」づくりを目指す機運が高まっている。大阪府市統合本部は傘下に、先端医療の集積や、海外から患者を呼び込む医療ツーリズムの実現を目指す有識者会議の設置を検討している。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した京都大の山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞も弾みとなり、関西経済を浮上させる“特効薬”になると期待されている。
平成23年2月、50代のサウジアラビア人男性が大阪大病院(大阪府吹田市)を退院した。重い拡張型心筋症を患っていた男性は、足の筋肉細胞を使って心臓機能を回復させる最先端の再生医療の手術を受けた。男性は「阪大病院なら(治る)可能性がある」と主治医の紹介で来日していた。
退院時の会見で、男性は「昼夜を問わず尽くしてくれた。何万人もの患者を助ける素晴らしい治療だ」と感謝の言葉を述べた。英語に堪能なスタッフをつけるなど、海外からの患者に配慮した態勢で臨んだ取り組みは「医療ツーリズム」の先駆けとして注目された。阪大病院の澤芳樹教授は「日本の医療技術の高さを知ってもらい、先端技術を国際医療貢献に生かすことにもなる」と強調する。
「大阪は世界のどの都市にも負けない医療資源を持つことを確信した」。昨年10月、大阪出身の山中教授のノーベル賞受賞決定を受け、大阪府の松井一郎知事はこう強調。大阪市との府市統合本部の傘下に、有識者会議「医療戦略会議」の設置を検討していることを表明した。
関西では医療や創薬の研究機関などが集まる神戸医療産業都市をはじめ、バイオ科学研究を進める長浜バイオ大学(滋賀県長浜市)など、各地に先端技術を牽引(けんいん)する拠点が形成されている。これらが協力して医療産業分野でアジアで主導権を握る構想が進んでいる。
医療都市の形成に向けて街づくりも進む。南海電気鉄道は31年に完成する大阪市中央区の本社ビルに先進的な医療施設を開設し、「関西国際空港からアクセスの良い大阪・ミナミで、訪日客に質の高い医療を提供できる」と意気込む。
医療都市を目指す澤教授らがモデルに位置づけるのは米ピッツバーグだ。かつて鉄鋼の街として栄えたが衰退。しかし、都市再生に向け地元財界や大学、病院が協力して先端技術や医療に集中投資した結果、米国有数の医療産業都市として復活。今では「米国で最も住みやすい街」といわれるまでに変貌した。
澤教授は「多くの先端医療機関が集まる関西が手を組めば、ピッツバーグのような都市を築く可能性が高い」と話している。
2013.1.6 07:00 産経ニュース