不思議、大好き! -4ページ目

不思議、大好き!

文章はすべてフィクション。ほぼ1話完結。

どこにも光が射し込まない。部屋の一室。そこは何もないし、何かしようとも思わない。

いや。正確には思わなくなった。一喜一憂を通り過ぎて、ずっと考えた末のことだったから。そんなことってあるの!?って思っていたこともあった。

ハッピィエンドの物語が巷に溢れていて、その影響なのかもしれない。または、一人の命は綿々と受け継がれていて、そのどの場面が欠けても、今の自分の命はないんだと児童向けの絵本が教えるように。さかのぼれば、ピカイヤまでさかのぼるんだよって。

子どもは目を光らせて、膨大な命の物語に聞き入ったり、想像したりしている。

映画の主人公たちは、人を殺すとき、あるいは繋がりの深い友を殺さなきゃいけないときに、必ずためらう。

人を一人殺した事実は一生背負わなきゃいけない。百戦錬磨の傭兵がそう語る。手のひらを見つめて、痙攣するそれを抑えようと、ぎゅっと握ように押さえ込む。PTSDと診断されても、その事実は変えられない。

家族をテーマにした物語もとても多い。何らかの理由で組織に娘をさわられた父親は復讐と奪取の為に命をかける。辛い思いを何度もして、やっと娘を両腕に抱き、涙を流す。

そしてやっぱり観ている人も涙を流す。父親の辛い思いや娘を愛する心情の一部始終を観てきたのだから。シンクロした自分の涙とその父親の涙は同質なのだ。

数々のハッピィエンドや家族の物語から、僕は狭い部屋の中でうずくまる。そうした日々が、いやそうした一時は一日の中で必ずやってきて、心を蝕むんでいく。最初はカーテンの隙間から差し込む一筋の光を求め、手で懸命に吸い込もうとする。

でも、手にはできず、どんな光も手から零れていった。

もう一緒に暮らすことはないし、無垢な笑顔を送ることもない。思い出が増えることもない。過去の記憶に閉じこもる。

死へと向かう鈍行列車の中。何度も同じ景色を、同じような景色を見ている。最初はあれこれと考えに考えて、列車から降りることを考えた。でも、そのどれもが結局どこにも行かないことに気づき‥。

それを受け入れる。

何度も見る景色が一番で、見飽きないことに気付くのだ。なにも語らず、悟らず、どこへも行かない。

そう心に誓った。
見る人の
こころにまかせおきて
木末にすめる
月の影かな



平成30年元旦


私たち粉々になったよ。

灰色になって飛んでいったよ。

私に残されたのは

効かなくなった永遠の約束



小谷美紗子/火の川



ただ信じてたんだぁ 無邪気に

ランプの下で

人は皆もっと自由で

いられるのもだと





~spitz『ランプ』より~


「あなたは孤独を知らない」

「努力が足りなかったんだよ」

「もっと相手のこと考えなよ」

「あなたは何もしなかったじゃない」

……………………………………。


深い深い谷。

そこに長い長い丸木橋。

その真ん中で僕は声を聞いた。

「おまえは喋りすぎたのさ」

構わず慎重に進もうとすると続けた。

「いつもそうさ。おまえはすぐにでしゃばる」

「そうやって多くの人を傷つけ、貶めてきた」

「驕り 我が儘 身勝手 傲慢なおまえの本性をどんな言葉で隠したってなんにもなんねぇ。おまえの言葉は呪いだ」

「おまえは人の悪いとこしか学んでねぇのさ」

「誰も救えてねぇし、貶めて辱めこそすれ、何の役にもなんねぇ」

「おっと、おまえ自身は狂酔してんのかもな。愚かすぎるねぇ」

「っても、もう墜ちるとこがねぇか」

僕は丸木橋の真ん中でそのまま肩を落とした。

「準備はできてんだろ。俺は知ってるぜぇ」

全部それでいい。もう言い訳しない。僕は沈黙を選び、沈黙という肯定を選ぶ。

もう一歩も進まない。僕独りだ。どこまでもいつまでも。

一時間後、一日、一週間。

その時の経過を沈黙とともに佇むことを選ぶ。

そういう覚悟だ。



記憶

思い出

忘れ得ぬ事

強烈なものはまぶたの後ろに焼き付いている

炙られた眼からは苦い涙がこぼれる

記憶

思い出

忘れ得ぬ事

たった一日のことで、僕の視界は濡れ続ける

「自分勝手なんじゃない」

「そうだね。自業自得だよ。全く」


***


「もうお別れだね。また元気にいっぱいご飯食べようね」



ビスケットをくれた子と一緒にいる。

一緒に絵を描いたり、映画を観たりした。

でも離れていくんだろう。

沖へ沖へと。

僕は何も選べないし、結局後悔ばかりしている。

すべてが離れていくようだ。

沖へ…沖へと…



「…あの子も死ねばいいのに」



「お誕生日おめでとう。それとこれどうぞ」ビスケット2枚。


今年も誕生日だね。
今年は独りきりだよ。

今年も辛い日だね。
今年は缶ビールを買ったよ。

今年も参ってる参ってるね。
今年はすぐ寝るよ。

今年も何も見たくないね。
今年は何も感じたくないよ。