ひとつ前に戻る 目次 はじめから読む

 

「人間が普段使えている、脳の範囲なんて、

 わずかだっていうよ。

 

 その子が見ている世界が、

 おかしな世界だと断定できる人間なんて、

 一体、どこにいるんだろうな」

 

心の重荷を降ろすように、

絢子は話続けた。

 

「とても怖い夢なんだけど、

 おじいさんが、いつも助けてくれる。

 

 現実の生活の中でも、時々、

 傍にいてくれている感じがするの。

 

 曲の進行を覚える時は、

 おじいさんの姿を思い出したりする。

 

 いつも、そんな感じで…」

 

「絢ちゃんは、ラッキーだな。

 

 俺も夢の中で、

 不思議な人に出会えてたら、

 

 何かもっと、違ってたんじゃないかと

 思うよ」

 

 

 

 

 

絢子は宏の意外な答えに、笑ってしまう。

 

胸がいっぱいになりすぎて、

上手く言葉に出来なかった。

 

想いを伝えることは、

とても勇気がいることだった。

 

口に出したら、消えてしまいそうだった。

 

夢を見ているような二人で過ごす日々。

幸せは、儚い夢のように思えて、

時々、絢子の心に影を落とした。

 

何もかもが、一瞬で、

消えてしまう夢のように

思えてならなくて。

 

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