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施設に、絢子と似たような子がいた。

二人で顔をくっつけ合って、

互いの見た怖い夢を、喋り合った。

 

 

 

 

その子の夢は、

死体の山から脱出する夢だった。

 

「殺しに来る奴らがいなくなるまで、

 じっと待つんだ。

 気が変わって、戻ってくるかもしれない。

 足音が遠くなって、

 聴こえなくなるまで待つんだ。

 血が固まるぐらいの時間は、待つんだ。

 タイミングを間違えると、

 全部水の泡になっちゃうから」

 

と、その子は言う。

 

絢子の夢の話を聞き終えて、

その子は、真面目な顔で、

 

「絢ちゃん。夢の話は、

 大人に話さないほうがいいみたいだ。

 頭がおかしいと思われて、

 病院に隔離された子いるだろう。

 あの子も、よくうなされてたんだよ」

 

と教えてくれた。

 

絢子はそれ以来、

夢の話を、大人に話すのを止めた。

 

絢子が夢の話しをすると、

どこか戸惑うように、相槌を返す、

施設の人達の心の内が、わかったからだ。

 

絢子の、ぼんやりした視界の中では、

わからなかった事だ。

 

その子は、はしこかった。

冷静に、里親候補を観察していた。

穏やかそうな夫婦に、上手にアピールして、

引き取られて行った。

 

別れ際に、その子は、

思いがけないプレゼントを、

絢子に残して行った。

 

「絢ちゃんに、僕のクマをあげるよ。

 よく眠れるように」

 

 

 

 

「ありがとう。でも、本当にいいの?」

 

と、絢子が聞くと、

 

「絢ちゃんと、お喋りできて楽しかった。

 似たような子に会えて、ホッとしたんだ」

 

と言って、絢子の手に、

小さなクマを乗せてくれた。

 

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