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絢子にとって、

心を捻じられる

原因になったプレゼントは、

絢子を虐待した、

養父母からのプレゼントだ。

 

絢子が17歳になった時の、

誕生日のプレゼント。

 

ピンク色のワンピースだ。

 

宏と過ごす日々の中で、

いろいろなことが、

移り変わっていった。

 

絢子は、

23歳の誕生日を、迎えようとしていた。

 

23歳になった絢子にとって、養父の事は、

どうにかやり過ごせた、過去の汚泥だった。

 

避けて通り過ぎることの叶わなかった、

絢子の人生にとっての、天変地異だ。

 

23歳の誕生日の、その日、

絢子は、仕事の帰りに、

宏と待ち合わせをしていた。

 

宏が誕生日のお祝いをしてくれるという。

 

何を着て行こうかと、絢子は華やいだ。

 

着替え途中で、口紅が無いことに気がついて、

どの鞄に入れたままなのだろうかと、

ガサゴソと、

クローゼットを開けて探し始めた。

 

その時、

養父母からのプレゼントのワンピースが、

家出をしていた時に、

絢子が持ち歩いていたリュックから

出てきた。

 

 

 

 

ああ、そう言えば、と絢子は、

宏と暮らしはじめた頃の記憶を辿った。

 

それまで抱え続けてきた感情を、

もうどうにも抑え込めなくなって、

滅茶苦茶に暴れた事を思い出したのだ。

 

その時に、宏が察してくれたのだ。

 

人に話す事ができずに、

絢子が一人で抱えてきた事を。

 

「これは証拠になるから、

 大事に取っておくんだ」

 

そう宏が言っていたのを、

絢子は思い出した。

 

ワンピースには、

無理矢理な行為に傷ついた、

絢子の体からの、出血が染み付いていた。

 

おそらく、養父の体液と一緒に。

 

絢子は何も考えずに、

リュックから手持ちの鞄に、

ワンピースの入ったビニール袋を

押し込んでいた。

 

そうして、もう一度、鞄の中味を確認した。

 

口紅は、

鞄に入れたポーチの中に、入っていた。

 

ああ、なんだ。あったと。

口紅を唇になじませる。

 

鏡の前で、身繕いを済ませると、絢子は、

鞄をつかんで、仕事先へと急いだ。

 

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