文字だけの世界から一歩踏み出し、深い夜にある女性の「声」と繋がった。

イヤホンを深く耳に差し込んだ瞬間、届いた声は
社会生活では決して聴かせることのない、信じられないほど湿った吐息だった

はじめはお互いに大人の分別を纏った、静かな挨拶
けれど夜が更けるにつれて、素性を詮索しないという了解の中で、
彼女の声の奥行きが変わっていくのが分かった

言葉に詰まったときに漏れる「はぁ……」という熱い吸い込み
僕を呼ぶときの、粘膜が擦れ合うような唇の音

それは肉体の交わりより生々しく、僕の本能を直撃した。

通話口の向こう
彼女の指がスマホを握りしめ、口元から誰にも言えない孤独が
唾液の温度を伴ってこぼれ落ちている

その一切が音になって、僕の脳裏に鮮明に浮かぶ

「もっと、その奥の声を聴かせてほしい」

僕の低い声が彼女の耳元に届くたび、受話器の向こうの呼吸が濃くなっていく

姿は見えない。

名前も知らない。

ただ夜の闇の中で、呼吸と声の熱だけで、お互いの皮膚の内側を貪り合うような、贅沢で危険な時間…

通話を切った後も、僕の耳の奥には彼女のあの濡れた吐息が、
冷めない熱を持ってこびりついている。

その声が偽ることはできない
本当のあなたは、そこにしかいない

今夜もいつも通りの深い夜、独りの時間を過ごしている
湿度ある声が欲しくなる