夕日で赤く染められていく空の下、私は一緒に演奏を聴いていた友達にこう言った。
「ごめん、私ちょっと行くところあるから先に帰るね」
「え?あ、ちょっ・・・・!!」
「ごめん!また明日学校でね!」
それ以上の返事は聞かなかった。
夢中で、走った。
「はあっ・・・はあっ・・・!!!」
今までも何度か、会いに行ける機会はあった。
だけど、それらしい理由をつけてそれから逃げていた。
たぶん、今日を逃せばもう一生会う事もない。
それだけは、嫌だった。
そして。
「・・・・・お姉、ちゃん?」
信じられない、というような表情で、梨桜は呟いた。
隣にいる2人の少年も、同じように驚いた表情をしている。
言いたい事はたくさんあった。
伝えたい事もたくさんあった。
でも、私の口から溢れた言の葉は、たった一言だけだった。
「・・・久しぶり、梨桜」
こうして。
いつかと同じオレンジ色の空の下で、私と梨桜は再会を果たした。
*
「へえー、梨桜のお姉さんなのか」
そう言ったのは御手洗優希(みたらいゆうき)と名乗った少年だ。
軽く天然パーマのかかった青髪で、いつもふわっとした笑みを浮かべている。
「そういえば、双子の姉ちゃんがいるって言ってたもんな」
と言ったのは一之瀬玲(いちのせあきら)と名乗った少年。
明るく染めてある茶髪と纏っている雰囲気から、どうしても不良のイメージが付きまとうような見た目をしている。
2人とも優しそうだな、というのが私の第一印象だった。
「あれ?そうだっけ?」
「優希にも話したはずですけど」
「わりーわりー」
3人をとりまく雰囲気はとても和やかなもので、梨桜がどれだけ2人を信頼しているか、というのがよくわかる。
少し大げさかも知れないけれど、私と梨桜が過ごしてきた日々を考えれば妥当だろう。
「そういえば・・・・」
と、梨桜が不意にこんなことを尋ねてきた。
「お姉ちゃんは、どうしてこの街に?」
「ん?ああ・・・」
私は3人にこの街に来た理由を説明した。
「なるほど。たまたま来てみたイベントに家族が出演してたら、そりゃ驚くのも無理はないな」
一之瀬くんの言葉に、私は苦笑混じりに頷く。
その後も、私達は色んな話をした。
いじめを受けて不登校になった梨桜を御手洗くんと一之瀬くんが助けてくれたこと。
ロックフェスへの出演は梨桜の提案だったこと。
そして、お母さんが亡くなったということ。
「・・・母さんが・・・・」
お母さんが亡くなったということを私が伝えた時、梨桜は涙を堪えるように手をぎゅっと握りしめていた。
強くなったな、と思った。
楽しい時間、というのはあっと言う間に過ぎるもので。
気づいた時には、オレンジ色だった空が紫色に染まり始めていた。
「っと・・・それじゃ、私そろそろ帰るね」
「うん。・・・・また、会えるよね?お姉ちゃん」
「うん、きっと」
都会から少し離れたこの街では、終電は意外と早い時間に来る。
私は少し駆け足ぎみで歩きながら、紫とオレンジとが混ざっている空を見上げてみる。
あんなに泣き虫で臆病だった梨桜は、もう私が心配する必要もないくらいに強くなっていた。
きっと、あそこに辿り着くまでに多くの涙を流したし、多くの悩みを抱えていたんだと思う。
でも、それを乗り越えてしまえばもう大丈夫。
後に待っているのは、きっと笑顔が溢れる明るい未来なんだろう。
自然と、私の口元には小さな笑みが浮かんでいた。
弟が頑張ってるんだ。
姉が頑張らないでどうする。
(・・・・負けてらんないな、私も)
明日からは、きっと私も強くなれる。
そんな気がしていた。
*
夏が過ぎ、秋が過ぎ・・・季節は冬になっていた。
あれから梨桜とは電話で連絡を取り合っていて、少し前まで感じていた寂しさはすっかり消えていた。
学校生活の方はというと、今は近くに迫っている合唱コンクールの練習期間となっていた。
昔からピアノが得意だった私は伴奏を務めることになっている。
ちょうどこの日も合唱の練習をすることになっていて、私は練習場所として割り当てられている第一音楽室に向かっていた。
「あ、水無月さん」
声がした方を振り向くと、指揮者を務めている女子生徒が小走りで私に向かってきていた。
「私こういうことするのって初めてでさ・・・ちゃんとみんなをまとめられるかなあ?」
音楽室に向かって歩きながら、女子生徒がそんなことを口にする。
「出来るよ、きっと」
私がそう答えると、女子生徒ははにかんだように笑っていた。
そうは言ってみたものの、私達のクラスはこういった行事に対する団結力が欠けているのか、練習が始まった後でも座ってお喋りをしている生徒達がほとんどだった。
指揮者の女子生徒はみんなをまとめようと必死だったけど、それでもやる気を出したのはほんの数人だけ。
なんだか、嫌な予感がする。
ふと窓の外を見てみると、青い空にうっすらと黒い雲がかかってきていた。
このままだと、あと30分もすれば雨が降り出すかもしれない。
確か今日の天気予報は晴れだったはずなんだけど。
(・・・・・大丈夫、だよね?)
胸の鼓動が少し早まっているのを自覚する。
・・・憂鬱だな。
そんな風に感じたのは、いつ以来だろうか。
もしかしたら、このまま放っておくとあの雲がもたらす雨のように何かぎ起こってしまうかも知れない。
そんな予感がするけど、それを阻止するためにどうすればいいのかがわからない。
順風満帆、とは言えないスタート。
そして、私の予感が的中したのか。
それから1週間ほどが経過したある日、事件は起こった。
*続く*
こんばんは!
宵空ディストラストも折り返し地点にやってまいりました。
実を言うとこの回の合唱コンクールのくだりからが宵空ディストラストの歌詞になってまして、それ以前は追憶ノ欠片の莱花視点、ということになっています。
そして、今回の合唱コンクールの話ですが。
「こういう行事って1位になりたいとは思うけど、本気になって頑張るのは照れくさいしめんどくさい」
こういう感情は、たぶん誰もが感じたことがあるんじゃないかと思います。
だからこそ、本気で頑張ってる人達と少し距離を取ってみたり、「ウザい」とかなんとか言ってみたり・・・・。
まあ僕はこういうキャラの心の中を書いたりするのが好きなんですけどね。
今回莱花が梨桜から元気を貰いましたが、次回からは再び鬱な展開が始まる予定です。
ほんと莱花に申し訳ない。
では、今回はこの辺で!