それは兵器を使って戦闘を行うのだから当たり前の事で、誰もがそう思う事。
しかし、この「学生戦争」は、その常識から少し外れた場所にある。
「学生戦争」には、いくつかの暗黙のルールが存在する。
誰が決めたのか、そもそも戦争にルールなど存在するのか。
誰もが知っているのに、その真相は誰も知らない。
そんないくつかのルールの中の、代表的なものを挙げてみよう。
1つ。
「可能な限り、無意味な人命の損失を回避すること。」
*
東京西部。
まだ都市開発の手が及んでいない森林地帯を、全力で駆ける1つの影があった。
それは少年の形をしていて、その少年はスタンダードな学ランを羽織っている。
「はあっ・・・はあっ・・・・・!!!」
既にかなりの距離を駆けているのか、少年の息は乱れている。
「いたぞ!!!あそこだ!!!!」
「っ!?やっべ・・・!!!」
後ろから近づいてくる怒号に怯えながらも、その少年は足を前へ前へと踏み出していく。
そう。
その少年は、追われていた。
「・・・・・何で俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
追っ手を振り切るために全力疾走しつつ、少年は空に向かって若干涙目になりながら叫ぶ。
・・・・正確には、このクソみたいな状況を作り出した1人の少女に向かって。
*
時は遡り、
「ねえねえしゅんー」
「・・・・・何か用でも?」
「ジュース買ってきてくれない?」
「嫌だよ!!!そんなことだろうと思ったよ!!!!!」
関西に本拠地を構える「黒羽谷高校(くろはやこうこう)」の数ある教室の中の1つで、黒羽谷高校の1年生である「長瀬駿(ながせしゅん)」は可愛い後輩をパシリに使おうとした先輩の少女に向かって叫んでいた。
「ケチー」
直接机に座っていた先輩の少女は頬を膨らませてそう言い、宙ぶらりんになっている足をばたばたと振り回す。
「いや・・・・・普通急にそんな事言われて「はいわかりました」っていう奴なんていませんよ?もしいたらそいつ相当のバカかただのお人好しですよ?」
駿はうんざりした表情で反論するが、先輩の少女の不満は止まらない。
彼女の名前は「実夏月璃季(みかづきりき)」。
駿と同じく黒軍の暗殺部隊にに所属する高校3年生の少女で、駿にとっては直属の上司となる。
ちなみに怒ると超怖い。
「んー・・・わかった!じゃあ、」
「じゃあ?」
「コーラ買ってきて?」
「断るっ!!!!」
と、暇人2人が漫才を繰り広げていた、そんな時だった。
コンコン、と。
決して広くはない教室の中に、ノックの音が響き渡る。
「ん?誰だろ・・・開いてるよー」
璃季がそう返事をすると、教室のドアが開かれ、1人の少女がぴょこっと顔を出した。
「あ、あのう・・・失礼しまーす」
「あ、ちょこだ!どうしたの?」
少しおどおどとした様子のその少女は、璃季の顔を見ると、途端に表情をぱあっと明るくした。
「璃季ちゃん!よかったぁ、教室間違ってたらどうしようかと思ってましたよー」
ちょこ、と呼ばれた少女は、ほっとしたような表情で微笑んだ。
「知り合いですか?」
駿がそう尋ねると、璃季は「うん」と頷く。
「「苺咲ちょこ(いちごさきちょこ)」ちゃん。諜報部隊の子で、私の友達だよ」
「ふーん・・・・あ、俺長瀬駿っていいます。よろしkってえええ!!??」
先輩の友達だというので、駿が自己紹介をしようとしたらいきなり腰に差していたレイピア(本物)を向けられた。
「あ、ちょこにいきなり話しかけたらレイピア向けられるから気をつけてね」
「遅えよ!!!!!注意が遅すぎるよ!!!!!すげえびっくりしたんだけど!!??」
駿の切実なツッコミも虚しく、当の璃季はしれっとした様子でこう告げる。
「あっ、そーだ駿」
「・・・・・・・・・・何ですか一体」
「ちょこも来たことだしー・・・・ジュース買ってきてくれない?2人分」
「断るっっっっ!!!!!!!!!!!」
*
「・・・・白軍が、ですか?」
駿の問いかけに、ちょこは「はい」と頷いた。
わざわざここに来た目的を璃季がちょこに聞いたところ、白軍が関東方面で数人目撃されている、という事を伝えに来たのだそうだ。
「普通、白軍が本拠地である東北を離れる事はあまり無いんですけど・・・・」
ちょこの言う通り、白軍はよほど大事な用でもない限り本拠地から遠く離れるなんて事はしない。
その理由は白軍の戦闘スタイルによるものだ。
白軍は各部隊のトップとなっている学生、そして白軍の全部隊を統括する学生が下す作戦を狂いなく遂行しながら戦う・・・という戦闘の仕方をしている。
本拠地からあまり遠く離れてしまうと、その作戦が末端の学生に正確に伝わらなくなる恐れがあるのだ。
「でも、白軍の連中はその危険を冒して関東方面まで進出してきたんだよね?」
「はい。何かしらの目的があっての行動だとは思うんですけど・・・・」
なるほど、と駿は呟いた。
「だから俺達に偵察任務を頼もうとして・・・・ってちょっと!!!いつまでレイピア向けてるんですか怖いから!!!!」
「あっすみませんつい・・・・でも、その通りなんです。・・・お願い出来ますか?」
ちょこの質問に、駿と璃季は顔を見合わせて考え込む。
実は彼らは、こういった敵状視察の任務を請け負う事が少なくない。
というのも、先述の通り、この「学生戦争」では人を殺す、という戦術はあまり好ましくないとされているからだ。
敵部隊の司令官を暗殺する・・・・という任務も無い事には無かったのだが、駿も璃季も、暗殺部隊に所属する他の学生だって人を殺したいという願望は持っていない。
ただそういう部隊に配属されたからやっているだけ・・・という部分が大きいのだ。
それらを踏まえた上で、一応暗殺部隊の部隊長を勤めている璃季は、こう結論づける。
「いいよー。どうせ暇だし、私も少し気になるしね」
それを聞いたちょこは、ほっとしたように、
「よかったです・・・・!!じゃあお願いしますね!!!お気をつけて!!」
そしてしばらく後。
ちょこが去った教室で、璃季は駿にこう告げる。
「・・・・と、いう訳でー。駿・・・行ってきてくれない?」
「何でそうなる」
「勢いで引き受けたのはいいけどさー、ほら・・・・アレじゃん?」
「・・・・・・・・・わかったわかりました行ってきますよ!!!!!!!!!!」
「気をつけてねー」
「くっ・・・・・!!!!」
*
そんなこんなで、東京です。
「はあ・・・・何でこんな事に」
溜め息をついたところで慰めてくれるのは隣にいる小鳥だけ。
可愛いなちくしょう。
「・・・やっぱり、赤軍の連中が先に来てたか」
俺がいるのは少し高めの木の枝の上。
偵察をするにも暗殺をするにも、まずは「対象に気づかれないこと」が最優先となる。
そのためにも、その場その場に応じた隠れ場所を見つけていく必要がある。
例えば海岸沿いなら岩場の陰、森の中なら草が生い茂っている木の上・・・とかだ。
俺が諜報部隊の学生から現場の位置を聞いてそこに到着した時には、既に白軍と赤軍との戦闘が始まっていた。
赤軍はあまり戦闘に参加しないというのが定説だったのだが、ここ最近になって頻繁に戦地で目撃されるようになった。
彼らなりの理由があるのだろうが、それは今の俺にはあまり関係ない。
「今んとこ見えてるのは白軍が10人くらいに赤軍が5人くらいか・・・・」
こうして見ているだけでも、白軍は例の如く統率の取れた戦闘をしているのに対して、赤軍はあまりそういう連携は気にしていないというのがわかる。
各々が好き勝手に戦場を引っ掻き回してその場を支配する戦闘スタイル。
これが、赤軍。
実を言うと俺は赤軍が戦っている姿を見るのは初めてだったので、その強さに少し圧倒されていた。
「・・・赤軍は要注意、だな。っと、そろそろ場所変えるか」
俺は辺りを見渡して近くに人影がないのを確し、隣にいた小鳥のピー助(仮名)に別れを告げて、地面に降りる。
その時だった。
「あ」
「・・・・え?」
がさっ、という物音を聞いてそちらの方を向くと、そこには1人の少女が立っていた。
白軍の学生・・・ではない。
ということは、
(赤軍・・・・・っ!?まずっ、1人見落としてたのか!?)
俺は思わず身構える。
しかし、赤軍の少女の反応は、俺の予想の斜め上を行くものだった。
赤軍の少女は少し考えるような素振りを見せた後、俺に向かってこう言ったのだ。
「・・・・・ねえ!ちょっと手伝ってくれない?」
「・・・・は?」
これが、俺と雪宮夏希の出会い。
この出会いが後に、「学戦戦争」をも揺るがす出来事に繋がる訳なのだか・・・・・、
今の俺と夏希には、知る由もない。
*続く*
はい!
という訳で学戦小説第2話でした!
この小説には主人公となる人物が3人いるんですね。
1話とこの話の最後に登場した夏希ちゃんと、この話のメインキャラとなっていた駿くんと、後もう1人。
この3人と周りの学生達を中心に、この物語は回っていくことになります。
そして今回、あずのキャラ(ちょこちゃん)と牡丹のキャラ(璃季ちゃん)を使わせていただきました。
喋り方とか性格とか、2人がイメージしてる通りに書けてたらいいんですけど。
ではでは、今回はこの辺で!