【サイプロ・小説】宵空ディストラスト4 | 無題警報

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 お母さんが亡くなったのは、楓が大きな病院に移ってから間も無くのことだった。

入院した理由をお母さんは「ただの体調不良」と言って誤魔化していたけれど、どうやらそれは私に心配をかけさせないための嘘だったらしい。

強くなろうと決めたはずだった。

でも、でも。


月日は流れて。

「莱花ちゃーん!一緒に帰ろ!」

「うん、いいよ」

私は、中学生になっていた。

暮らしていけるだけのお金はあるし、料理や洗濯などの家事も、両親が離婚する前にメイドさん達に教えて貰っていたから暮らしに不自由はない。

中学に入ってからはクラスメイトとも上手くやれていたし、友達と呼べるような存在もそれなりに出来た。

それでも、やっぱり一人ぼっちは寂しい。

家に帰って「ただいま」と言っても「おかえり」と応えてくれる家族を、私は失ってしまった。

泣かない、って決めたはずだった。

1人でもちゃんと生きていこうって、そう決めたはずだった。

・・・・それでも、やっぱり一人ぼっちは寂しい。

そんな中学1年生の、ある夏の日のことだった。

「今日は何にしようかな・・・・・ん?」

夕飯の材料の買い出しをしに近くの商店街に来ていた私は、スーパーマーケットに貼られていた1枚のチラシに目を留めた。

「・・・・ロックフェス、か」

今度の週末にここから少し離れた河川敷で開催されるらしい。

「どうせ暇だし・・・・行ってみようかな」


そして、ロックフェス当日。

会場になっている河川敷がある街に向かう電車に揺られながら、私は窓の外に見える景色を眺めていた。

(・・・・そういえば、この辺って前住んでたとこに近いんだっけ)

そんなことを思いながらも1時間ほど電車に揺られ続けて、ようやく目的の街に到着する。

チラシに書かれている地図の通りに歩いていくと、会場に近づくにつれて段々と人の数が多くなってきた。

(予想はしてたけど・・・・やっぱり人多いなあ)

昔から人がたくさんいる場所があまり好きではなかった私は、興味本位でこのロックフェスに来たことに早くも後悔し始めていた。

帰ろうか、とも思ったけどここまで来てしまった以上は帰る訳にもいかず。

人混みに流されるように、私は会場に向かって歩き続けたのだった。


「あれ?莱花ちゃんじゃん!」

本番の開演まであと少し。

何か食べるものでも買おうと会場内をうろついていた私は、そこでクラスメイトの1人に声をかけられた。

「莱花ちゃんもロックフェス観にきたんだね!」

「うん。どうせ暇だったし、たまにはこういうのもいいかなって」

そのクラスメイトは友達数人と来ているらしく、「一緒に観ない?」と誘われた。

特に断る理由もなかったし、1人で観るのは少し心細かったので、私はその誘いに応じることにした。

友達が場所取りをしてくれていると言うので、なんでもない話をしながらその場所に向かって歩いていく。

「莱花ちゃんはどのバンドが好きなの?」

「ええと・・・ごめん、私こういうの詳しくなくて・・・」

私がそう言うと、クラスメイトは「そうなんだ」と笑いながら答えた。

そういえば、双子の弟の梨桜はこういうのに詳しかった気がする。

小さい頃にピアノを習っていたという事もあってか、梨桜は音楽方面に強い興味を抱いていた。

お気に入りの音楽番組を見ている時のきらきらした瞳は今でもよく憶えている。

・・・と、そんなことを考えていると、不意にクラスメイトがこんなことを言った。

「「SKY」っていうバンドがあるんだけどさ、歌ってる曲がすっごいいい曲なんだよねー。まだバンド組んだばっかりらしいけど、たぶん莱花ちゃんも気に入ると思うよ!」

「ふーん・・・・」

「SKY」。

「空」を意味するそのバンドの名前に、私は素直に「綺麗な名前だな」という感想を抱いた。

その後、クラスメイトの友達数人とも合流して間も無く、ロックフェスの本番が始まった。

それぞれのバンドが思い思いの音楽をかき鳴らしている中で、私はこんなことを感じていた。

(・・・・・なんか、違う気がする)

ギターとベースとドラムが奏でるメロディも、ボーカルがそれに乗せて歌う言葉も、全部、全部。

なんだか、上辺だけの薄っぺらいものに聞こえてしまうのだ。

こんな風に感じるのは場違いなのかも知れない。

こんな風に感じるのは失礼なのかも知れない。

それでも、私はそんな風に感じてしまっていた。

でも、クラスメイトが言っていた「SKY」というバンドだけは違っていた。

メンバー全員が私と同じ中学1年生だというのにも驚いたけど、そのバンドが奏でる音楽は他のどのバンドよりも純粋で、真っ直ぐで。

「本物」っていうのはこういう人達のことを言うんだろうな、と思った。

それは周りの人達も感じたようで、会場の雰囲気もそれまでとは全く違うものになっていた気がした。

そして「SKY」の演奏が終わり、残ったバンドは1組だけとなった。

私を含めたその場の誰もが、「SKY」には敵わないだろうと、そう思っていた。

あんな演奏を見せられた後なんだし、仕方ないだろう。

だけど。

それは、観客のほとんどにとってはいい意味で。

そして、私にとっては、全く思ってもみなかった形で裏切られることになる。

最後にステージに上がったのは、3人組・・・・スリーピースバンドだった。

「SKY」と同じようにバンドを組んで間も無いのだと言う。

演奏も、まだ決して上手いとは言えない楽器を一生懸命にかき鳴らして、ひた向きに、素直に思いをぶつけていた。

だけど、それは私の頭には上手く入ってこない。

私が目を奪われていたのは、3人の真ん中に立って歌っている1人の少年だった。

・・・いや、初めて見た人にとっては可愛らしい女の子、という風に映るだろう。

それでも私の脳内には、ある1人の少年の名前が浮かび上がっていた。

「ねえ・・・あの子、莱花ちゃんにそっくりじゃない?」

クラスメイトか、その友達か。

誰が言ったのかも理解出来ないほどに、私は放心状態になっていた。

やがて、私は震えた声で1つの名前を口にする。

・・・そう。

そこにいたのは。

「・・・・・梨桜」

離れ離れになったはずの、双子の弟だった。


*続く*
こんばんは、るかです。
という訳で「暇つぶしで行ったイベントでもう会わないだろうなと思っていた人に会っちゃってどうしたらいいの」の話です。
そして今回登場した「SKY」というバンド。
この物語の主人公でもある君島奏ちゃんは空が好きなんです。
そして「SKY」という単語は「空」を意味します。
・・・・ここまで言えば、勘のいい人はもうわかるんじゃないでしょうかうふふふふ。
・・・はい。
では、今回はこの辺で!!