3階の病室からは、沈んでいく夕日がよく見える。
その夕日を背負いながら優しく微笑む楓が普段通り過ぎて、私は少しイラついた。
「・・・・・入院した、って聞いたから」
私がそう言うと、楓はぱあっと表情を明るくして、
「お見舞いに来てくれたんだ!ありがとう!!」
いつも通りの、おっとりした口調で言った。
「・・・・・べ、別にお礼なんて・・・・」
やっぱりだ。
楓といると、なんだか落ち着かない。
どうしても素直になれない。
その理由はたぶんわかるけど、絶対に言えない。
むすっとしている私に、楓は今度はおろおろとした口調で話しかけてきた。
「あ、えっと・・・・・何しよっか?」
「・・・・・・・帰る」
「えっ」
「今日はもう遅いから」
病室に掛けられた時計の針は、午後6時を指している。
「あ、そうだね・・・・・」
楓がぽつりと呟く。
私は病室のドアを開け、
「じゃあね」
「あっ・・・・莱花ちゃん!」
「・・・・・なに?」
楓に呼び止められて振り向くと、やっぱり楓は笑っていた。
「明日も、来て欲しいな・・・・・なんて」
もじもじしながら話す楓に、やっぱり私はイラついていたんだと思う。
でも、
「いいよ。また明日ね」
不思議と、もう初めて会った頃の不快感は無くなっていた。
「ほんと!?やったあ!!」とはしゃぐ楓を適当にあしらって、私は病室を後にする。
その日の帰り道は、足取りが軽く感じられた。
*
その次の日から、私は毎日楓のお見舞いに行った。
その日の学校の事、昨日見たテレビ、最近ハマってる事。
私の家と楓が入院している病院は方向が正反対であまり長時間はいられないけど、その少しの時間にするなんでもないお喋りは、少なからず私の小さな楽しみになっていた。
最近は私以外のクラスメイトも何人かお見舞いに来てくれているようで、楓はとても嬉しそうだった。
嬉しそうな楓を見ていると、不思議と私の気持ちも明るくなっていた。
そんなわけで、今日の私は珍しく機嫌がよかった。
だけど。
「ただいまー」
だけど。
「・・・・・お母さん?出かけてるのかな」
やっと、梨桜との別れから立ち直って、友達も出来て、再び前を向こうとしていた私の心を。
「・・・・・・!!!!」
嘲笑うように、「不幸」が、また、強く強く踏み潰す。
*
その夜、私は病院にいた。
不幸中の幸いというか、母は単なる寝不足のようで、少し入院して休めばすぐによくなる、との事だった。
「・・・・・・はあ」
特にする事もなく、待合室の椅子に腰をかけてぼーっとしていると、
「あれ?莱花ちゃん」
「・・・・・楓」
車椅子に乗って、楓が私に話しかけてきた。
まだ操作になれていないのか、ふらふらとしながら私に近づいてきた楓は、いつも通りの笑顔を浮かべて言った。
「どうしたの?こんな時間に」
「・・・・お母さんが倒れちゃって、ね」
「えっ・・・・大丈夫なの?」
私はこくりと頷き、
「うん、心配ないって先生も言ってた」
私がそう言うと、楓はほっとしたような表情を浮かべた。
「そっか・・・よかったね」
「・・・・うん」
「じゃあ、私病室に戻るね」
「うん」
ばいばい、と私に手を振って、楓は自分の病室へと戻っていった。
「・・・・・・・?」
その時一瞬、去って行く楓の身体がとても細く見えた・・・そんな気がした。
「・・・・・・・気のせい、かな」
ふう、と溜め息を吐いて、私は窓の外を眺めてみる。
窓の外は真っ暗だ。
星の輝きが淡いのは、かすかに雲がかかり始めているからだろう。
なんだか、私の心を映してるみたいだ。
私は素直にそう思った。
「・・・・・憂鬱だな」
*続く*
お久しぶりです、るかです。
僕は生きてますよ。
テストやらなんやらのおかげで更新ペースが亀でした。
すみません。
話は変わりまして、今日はこの小説のタイトルにもなっている「宵空ディストラスト」という曲について話そうかと。
この曲の主人公は知っていると思いますが莱花です。
ディストラストの意味は不信とか、信じられないとか疑うとかそんな感じです。
サイレンプロジェクトの楽曲は「空」を取り上げているものが多いのですが、この曲の舞台は夜空です。
雲がかかって、星が見えない…いわゆる曇天ってやつですね。
段々と澄んだ夜空に雲がかかっていく…莱花の心の移り変わりにぴったりだと思います。
これからもそんな莱花や他の登場人物の心の移り変わりに注目しながら読んでいただけると嬉しいです。
それにしても内容が暗い。
まあ仕方ないですかね。
楽曲の歌詞を見ればわかると思いますが、最後には莱花は救われるんです。
一体誰が人間不信に陥ってしまう少女の心の雲を払うんでしょうか。
その辺にも注目して、次回も読んで下さい(土下座)。
まあまだまだ続くけどね!
長くなった。
では、今回はこの辺で!!