【サイプロ・小説】追憶ノ欠片10 | 無題警報

無題警報

ブログの説明を入力します。


「・・・・ほんとは真っ先に伝えなきゃと思ったんだけど」

水無月家のリビングで、莱花が言った。

「やっぱり、直接会って伝えようって思ってさ」

「・・・父さんには、伝えたの?」

「うん。お父さんは忙しいから、電話で伝えた」

「・・・・そっか」

突然告げられた訃報に、メイドの長月美穂(ながつきみほ)も動揺を隠せないようだった。

「伊織さん、病弱だったものね・・・・」

仕方ない、という風に美穂は俯いた。

美穂が言った通り、伊織はあまり身体が強くなかった。

それでも、あまりに若すぎる。

その時、梨桜が美穂にこんな事を訊ねた。

「・・・父さんは、仕事?」

美穂はポケットから手帳のようなものを取り出し、

「・・・っと・・今はイタリアにいるはずよ」

「何で・・・こんな時まで・・・」

そう悔しげに言う梨桜にもわかっているはずだ。

水無月家は莫大な資産を有している。

梨桜達の父親である水無月恭助(みなづききょうすけ)は金融関係に深く関わっているため、基本的に仕事の休みがない。

わかってはいる。

それでも、梨桜は納得出来ないようだった。

「・・・・仕方ないよ」

やり取りを見ていた優希は、玲に小声で話しかけた。

(・・・なあ、俺達どうすればいいんだ?)

(俺に聞くな)

そんな2人に気づいたのか、莱花が苦笑いをしながら、

「ごめんね、2人とも」

優希達は、黙っている事しか出来なかった。



「・・・じゃあ、今日は帰るわ」

玄関先で、優希が言った。

「・・・・すみません」

梨桜が申し訳なさそうに頭を下げる。

「気にすんなって。それに、いつまでも落ち込んだままじゃお母さん、悲しむぞ?」

梨桜を元気づけようと、優希は明るく言う。

「・・・ありがとうございます」

梨桜が、悲しげな笑みを浮かべる。

「また、明日な」

玲が優しい口調で言い、2人は水無月家を後にする。

1人になった梨桜は、オレンジ色に染まっていく空を眺めながら、

(・・・優希の言った通り、いつまでも落ち込んでても変わらない)

自分は不幸だ。

素直にそう思う。

だけど。

「・・・・前を向かないと」

自分自身に言い聞かせるように、梨桜は声に出して言う。

「決めたんだ、もう負けないって」

昔から泣き虫で、甘えん坊だった自分。

そんな自分は、もうたくさんだ。

だから、変わる。

今度は、誰かを支えられるような存在に。

そう心の中で誓って、梨桜は小さく呟いた。

「・・・・ありがとう、母さん」

明日は、どんな日になるのかな。

そう思って、梨桜は莱花達が待つ家へと入っていった。



「・・・まあ、こんな感じ・・・ですね」

長い話を終え、梨桜はコップのジュースを一口飲んだ。

「そんな事があったんだね・・・・」

梨桜の過去を知った君島奏(きみしまかなで)は、ある疑問を発した。

「・・・こういう言い方は失礼かもだけど・・・莱花ちゃんは、どうしてああなっちゃったの・・・?」

すると、梨桜の代わりに優希が苦笑しながら答えた。

「・・・それは、直接本人に聞いた方がいいと思うぞ」

「莱花にも、色々あったんですよ・・・」

梨桜が優希の言葉に続ける。

「・・・ってか、もうこんな時間じゃん!」

少し沈んでいた場の空気を明るくしようと、優希が明るい口調で言う。

奏が携帯電話で確認すると、時刻は既に夜8時を過ぎていた。

「確かにもう遅いですね・・・奏さんは時間とか・・・大丈夫ですか?」

心配そうに訊ねる梨桜に、奏は苦笑しながら、

「私の家は門限とかはないから大丈夫。・・・でも、そろそろ帰んないと」

「あ、じゃあ送りますよ!」

「えええ!?で、でもでも」

「気にしないでいいですから!!優希達も、ほら行きますよ!!」

「んー、だな。行こうぜ玲」

「おう」

そうして4人は梨桜の家を出て、夜の道を歩いていく。

「・・・そういえば、梨桜ちゃん達のメイドさんやってたっていう長月さんはどうしたの?」

歩きながら、奏が思い出したように言う。

「ああ、長月さんなら一昨年から保育園で働いてますよ。今もたまにご飯作りに来てくれたりしますけど」

「長月さんが来ると優希が興奮するんだよ」

「興奮ってお前・・・人聞きの悪い」

「え、実際そうじゃないですか」

「うわ・・・」

「おい、梨桜まで変な事言うな・・・ってやめて奏ちゃんわかりやすく引かないで!!??」

他愛のない話を続けながら、4人は歩き続ける。

奏がふと空を見上げ、

「わあ・・・綺麗」

それを聞いた梨桜達も空を見上げる。

「・・・綺麗ですね」

雲1つない夜空には、無数の星が輝いていた。

「私ね、空が大好きなんだ」

奏が空を見上げたまま、言う。

「空ってさ、人の心を映してくれる鏡みたいだよね」

少し梨桜達の前を歩いていた奏は、梨桜達の方に振り返り、

「今日、すっごく楽しかった!梨桜ちゃんの事も色々知れたし、みんなと仲良くなれたし!!」

だからね、と奏は続け、

「莱花ちゃんとも、もちろんみんなとも、もっともっと仲良くなりたい!!」

満面の笑みで、奏が言う。

梨桜達は顔を見合わせ、

「僕もですよ!!」

「俺も!!」

「・・・俺も」

「・・・お?玲がデレた・・・!?」

「デレって何だよデレって」

「よーし・・・私ん家までダッシュ!!!!」

「ええ!?何でですか奏さん!!??」

「いいからいいから!!!ほらダーッシュ!!!」

「わわわっ・・・ちょっ、ちょっと待って下さいよ!!!!」

「玲も走んねえと置いてかれっぞー!!!」

「めんどくせえ・・・」

走り出した奏に続くように、梨桜達も走り出す。

もしかしたら、これから自分達にはまた不幸が訪れるかも知れない。

それでも、明るく、強く生きていこう。

梨桜達は、決して独りじゃないのだから。

──第1章「追憶ノ欠片」・完──

────続く────
10話続いたね…。
こんばんは、るかです。
長かった追憶ノ欠片も終わり、次回から新章が始まります。
今まで出番がほとんどなかった奏や、新太達もバンバン登場しますので、お楽しみに!!!