■2026年4月17日(金)■
望んだわけでもなく4連休になったので、
チケットを取っていなかったNODA MAPの当日券の抽選にチャレンジすることにしました。
最新作「華氏マイナス320°」です。
実は、2024年の第27回公演の松本潤出演の「正三角関係」の時も
ダメもとで当日券の抽選に参加してみたのですが、その時は悉く落選。
↓その時の整理券リストバンド
そして、今回も池袋の東京芸術劇場へ。
落選したら有楽町に移動して映画「ハムネット」でも見て帰ろうと思っていました。
当たらなくて当然と思いながら、17時過ぎに整理券を受け取り、
ルミネで買い物をし、上映スケジュールをチェック。
17:45にQRコードからサイトをチェックすると、運良く自分の番号が当選リストに!
立ち見ではなくS席、1階の最後尾で見ることが出来ました!
最近は映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」やXGの代々木体育館公演に気を取られて、
野田地図のことは忘れていたのですが、突然思い出したのは、
野田秀樹さんが母校である東京大学の入学式に出席して祝辞を読んでいたからです。
若い頃から舞台上を飛び回って芝居してきた野田さんらしい祝辞だなと思いましたが、
特に私が響いたのは、この部分。
AIが今後、人間のクリエイションに取って代わる」などと戯言を言う人もいますが、それは「人間」が創作をする「喜び」を無視しています。
どれだけレオナルド・ダ・ビンチの絵に似たものをAIで書くことができたとしても、ダビンチの喜びは再現されません。
例えば英語の勉強にしてみても、今じゃ効率的にAIが英文をすぐ作ってますが、
自力で読み書き・聞き話しを達成出来た時の喜びに勝るものはないんですよね。
面倒臭いけど、そこが楽しい。
日々考えていたところだったので、それな!と思いました。
祝辞の内容を読んで、
「肉体が老いるのが速い人とか…AI に近い下等生物みたいな話になっちゃう」
といった投稿も見かけましたが、
若い人が多い入学式だから体に根ざす若い心で感じ取れるものを大切にと言ってるのであって、
老いや絶望や達観も人間ならではだと触れているし、
野田さん自身も、人工知能の情報の波に飲み込まれずに
人間でしか得ることのできない感覚を大切にしなければいけないという
危機感のようなものを感じているのかもしれませんね。
お話戻って、「華氏マイナス320°」。
主演の阿部サダヲは、深津絵里演じる分子生物学の窮理教授を手伝う
タスケテという青年を演じていますが、
その一方で、阿部サダヲ本人(55歳)としてナレーション的な役割も担っています。
その際にはアンサンブルの一人MISAKIが
通常の手話案内のように舞台横に立つのではなく、
阿部サダヲの目の前に立ち、手話で通訳をします。
窮理教授は考古学の発掘現場から出てきた骨が「天使の骨」であるとし、
同じ骨を持つタスケテを「骨伝導理論」を用いて研究。
タスケテが持ち、天使たちも持っていたはずの病を治癒するための方法を探ろうとします。
しかし、教授のスポンサーである製薬会社のウーロン・チャー会長(高田聖子)から独立した弟
ウーロン・デスマスク社長(橋本じゅん)から雇われたという
失踪したはずの師匠であるドクター骨伝導(橋爪功)が現れ、双方は対立することに。
この発掘現場やスポンサーの存在、研究者同士の対立は、
「パンドラの鐘」を思い出させますね。
主人公が叫びのような名前(タスケテやミズヲ)と言うのも同じだし。
タスケテは彼らの研究材料として、
中世の研究室、さらには古代の洞窟へと時代を遡っていきます。
そして中世では同じく研究をしているファウスト(橋爪功)や、
古代では母体の中にいる赤ん坊を天使かどうか見分けることが出来る
ヒ巫女(深津絵里)とも出会うことになりますが、
同時に出会うのが広瀬すず演じる少女ジーンズ。
またの名をメフィスト、またの名を「”あくまで”天使」。
現代では「クレオパトラの受精卵」を売り物にする詐欺師っぽい少女ですが、
過去ではメフィストとして、ファウストやヒ巫女をそそのかし、若返りの変身をさせます。
その変身した姿は、なぜかタスケテとメフィスト自身であり、
彼らは古代の洞窟の中で、現代で見つかった天使たちの骨の真実を知ることになります
元々、野田秀樹/野田地図のファンである私ですが、
前回見た「兎、波を走る」同様、大倉孝二さんを見ることも大きな目的の一つ。
今回大倉さんは、それぞれの時代の研究所にいるネズミたちを逃す
ハーメルンの笛吹き男を演じています。
前半は例によって飄々とした笛吹き男/清掃員のように振る舞ってはいますが、
終盤になって実は重要人物であることが分かってきます。
このいつも通りの独特な間合いの喜劇的な演技とシリアスなギャップがたまらんかった。
実は去年、大倉さんが読売演劇大賞特別賞を受賞した
「最後のドンキホーテ」を見ていたのですが、同じような感想を呟いてました
↓
やる気を出して横浜まで #最後のドン・キホーテ を観劇に。何気にKAATは初めて。昔から大倉さんの言葉が上手く出てこないような間合いの演技が大好きだったけど、シリアスな演技にも説得力があり、そのギャップにグッとくる。
— ミウモ 𝕄𝕖𝕨𝕞𝕠 (@notfspurejam) September 25, 2025
個人的には舞台美術も好きだった。あれ、ドン・キホーテだからですよね?! pic.twitter.com/eF7gBChF50
※ここからは本編の核心に触れていますので、ご注意ください
今回事前に知っていた情報は、阿部サダヲが3つの時代を行き来する、
と言うことだけだったのですが、
いつも野田地図を見る時と同じように、「どうやって最後のオチをつけるつもりダァ?」
と、ジグソーパズルのように散らばった要素を頭の隅に置きつつ、
それぞれを手繰り寄せていくような気分で観劇していました。
全体像がなんとなく見えてきたのは、メフィストが明かした、
アイルランドのジャガイモ飢饉に言及するセリフ。
収穫量の多いジャガイモの品種の開発が進み、
その品種のみが中心に育てられるようになったため、
アイルランドでは病原菌があっという間に広がり、壊滅的な被害に遭ったというもの。
↓はWikipediaから引用
ジャガイモは通常、前年の塊茎を植えるという無性生殖による栽培法を用いる。これを利用して、当時のヨーロッパでは収量の多い品種に偏った栽培が行われてゆき、遺伝的多様性がほとんど無かった。そのため、菌の感染に耐え得るジャガイモがなく、ヨーロッパでは菌の感染がそれまでにないほど広がった。 - ジャガイモ飢饉
19世紀のジャガイモ飢饉については、
アイルランド人を祖先に持つ、私の好きな俳優を通じて知っていましたが、
飢饉が広まった原因が、優秀な品種の偏りであったと言うのは初めて知りました。
つまり、役に立たない品種を残さず、優秀な品種のみを広まらせた結果、滅びに繋がる。
優秀なものだけ残したはずなのに、むしろ滅びにつながるという矛盾。
これが一番わかりやすく核心に迫ったセリフだったと思います。
そして、前述の大倉さん演じたハーメルンの笛吹き男。
いろんな童話が頭の中でごちゃ混ぜになっていて最初は思い出せませんでしたが、
「ハーメルンの笛吹き男」は、大繁殖したネズミに困っていたハーメルンの町に
笛吹き男が現れ、ネズミをおびき寄せて溺死させ、
駆除に成功したにもかかわらず、ハーメルンの住人が謝礼を払わなかったため、
怒った笛吹き男が今度はハーメルンの子供達を笛を使っておびき寄せ、
洞窟の穴に閉じ込めてしまった、と言う話でした。
町に残ったのは笛の音が聞こえない耳の聞こえない子や、目の見えない子だけ。
「華氏マイナス320°」の劇中の笛吹き男は、
同じように、研究室のネズミたちを「外へ逃す」と言って誘き寄せますが、
(ここではメフィストのみが「笛が聞こえない」と言って研究室に残る)
笛吹き男はタスケテが遡った古代にも現れ、
ヒ巫女が見分けてバベルの塔の最上階に隠されていた
障害を持つ子どもたち=「異天使(遺伝子)たち」を笛で誘いだします。
笛吹き男は、はじめは善意で「異天使たち」を逃がしていたそうですが、
陽の光に向かって喜んで不器用に駆けていく「異天使たち」が、
目の前の崖に気づかずに落ちていくのを見て、
この子たちはコロしてやる方が幸せだと思うようになり
最後には、洞窟に隠した「異天使たち」を青い炎で焼き○すのです。
その青い炎は「華氏マイナス320°」。
摂氏で言うマイナス196℃は、受精卵の凍結保存をする際の温度です。
受精胚の凍結保存とは、生殖補助医療でできた受精胚を凍らせて保存する方法です。受精胚は、専用の凍結保護液に浸したあと、凍結保存の容器に入れてマイナス196℃の液体窒素で凍結保存します(図)。マイナス196℃という低温では生物の活動や化学反応がほとんど止まるため、受精胚は何十年経っても変化しない状態で保存できます。- 日本生殖医学会
炎を放つ笛吹き男の虐殺行為はショッキングでありながらも、
しかし考えようによっては、青い炎で焼かれて残った骨(受精卵?)が発掘され現在に繋がっているとも思え、
様々な歴史が表裏一体になっているような場面です。
また「骨は対になっている」と言うセリフが出てきて、
タスケテとメフィストがその対の一組であるように示唆されていますが、
過去に滅ぼされた「異天使/あくまで天使」と、
その時間の先に遺伝子操作のために生き残ることが出来たタスケテ、
過去と未来の天使が対になっていたのだなと、理解しております。
(「パンドラの鐘」でミズヲが被爆者から水を請われる立場だったのと同じく、
タスケテは、過去の天使たちの叫びを受け止めた存在なのかもしれない。)
最後、妊娠中だと仄めかしていた窮理教授(?)が、
天使を出産することを決断し、生まれた赤ん坊をあやす中、
阿部サダヲとMISAKIが手話を使いながら、繰り返し繰り返し愛を投げかけます。
途中までSEが流れていたところで、突然音が止まり、
静寂のまま、阿部サダヲとMISAKIとアンサンブルがそのまま手話を続け、次第に暗転。
単純に言ってしまえば、優生思想を問う芝居なのですが、
野田さん自身もパンフレットの前書きで以下のように書いています。
長々と答えても答えられようのない「短い問い」がこの芝居だ。
相変わらず、前書きも面白いです。
笛吹き男が助けようとしていた「天使」も元々は「ネズミ」として表現されているし、
童話の中では健やかな子供達を連れて行ったのに、
劇中ではヒ巫女に振り分けられた病を持つ子供だけ連れて行っていたり、
優性っぽい存在の「天使」と劣性っぽい存在の「ネズミ」があべこべになっていて、
これは前に触れた、優秀なジャガイモが滅びた矛盾と共通する気がします。
つまり、どちらが優っていて、どちらが劣っているなんて、
今の人間が決定することなど出来ないのではないかと。
パンフレットの中に載っているiPS細胞研究所の山中伸弥教授との対談でも
こんなふうに触れられています。
山中伸弥「一見、障がいに見えるような遺伝子の変異も、違う基準や角度から見たら実はものすごい才能の持ち主という例もたくさんあります。」
橋爪功演じるドクター骨伝導も劇中で、神より上の立場から見下ろす人間になりたくない、
というようなことを言って立ち去って行きましたね。
「ブラック・ジャック」の本間丈太郎先生の言葉を思い出します。
人間が生きものの生き死にを自由にしようなんて、おこがましいとは思わんかね。
カーテンコールは3度ほど。最後は野田さんのみ残って一礼。
でも、まだ始まって前半のせいか、熱狂的な拍手やスタンディングオベーションはなく、
カーテンコール中に立ち去る人も多かったです。
(2時間半だし、電車の都合もあったかもしれないけど。)
鑑賞された中で、他の方も投稿していたけれど、
もし、私と同じようにあまり前情報なしでディスアビリティの人が見たら、
ショックを受けるだろうな…とは思いました。
もちろん、作っている側に傷つける意図もないし、
むしろ問題提起をしているのもわかるけれど、
直接的に受けるインパクトが大きそうだということは想像に難しくないです。
でも、ネタバレするわけにもいかないだろうし、難しいですね…
野田地図を見る前には、いつだってある程度覚悟を持ってみた方がいいには違いないけど。
私も帰りの電車でパンフレットを読みながら、
どう捉えていいものかとぼんやり考えていましたが、
劇中の「バベルの塔」の一語を思い出して、
そうか、優生思想や医薬学、遺伝子研究問題だけじゃなくて、
人種問題→戦争にも繋がっていくのか!
と頭の中で結びつき、問題提起の大きさに圧倒されました。
ここで取り上げていることは、どの問題にとっても根本的な原因なのだと。
まあ、あまり現実の問題と結びつけて考えすぎると、
「南へ」の時のように、野田さんに笑われてしまうかもしれませんけどね。
あとは戯曲が出ることを楽しみに待つこととします。
ところで、舞台上の舞台転換に使われるカーテンを
「ブレヒト幕」ということを今回初めて知りました(苦笑)
なんで今まで知らなかったんだろ。学生時代に絶対聞いたはずなのに…
異化効果!
来月うまくいけば英国でブレヒトの舞台を見る予定なのですが、
ブレヒト幕、出てくるかな。
劇中に相変わらず言葉あそびという名のダジャレが多用されていて、
またロンドン公演もあるのにどう翻訳するつもりなのかな?と思いましたが、
英語に置き換えて考えるのもまた楽しいのかもしれませんね。
それこと、AIが得ることの出来ない、創作の喜びなのかも。
ちなみに、劇中でも史上最低と言ってましたが、
一番記憶に残る言葉遊びは「生死をかけた/精子をかけた受精卵」でした![]()
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