「使いやすさ」は、手で扱うもの・道具についての総括的な評価用語として一般的ですが、主観的な色彩が濃い。このため、ソフトウェア開発分野では、「使いやすさ」は「ユーザビリティ」に言い換えられ、ユーザビリティガイドライン、ユーザビリティ・ヒューリスティックス、ユーザビリティテストが議論されています。


ユーザビリティエンジニアリング原論―ユーザーのためのインタフェースデザイン (情報デザインシリーズ)


これは、ニールセンによる1993年の本(原題Usability Engineering)です。インターネットもWindowsもまだ夜明け前の著作です。扱われている題材にビデオテックスや、VTRなど古いものもありますが、企業内業務システム、ゲームなどのエンターテイメントソフトウェア、ワープロソフトのようなソフトウェア製品を中心として、そのユーザビリティをどのように実現するか、第一章に基本的な考え方が述べられています。



第1章 概論

1.1 コスト削減 

1.2 いまこそユーザビリティを

要旨『ユーザビリティ実現のためにしのコストかけるだけで、大きな利益の得られた事例がいくつもある。今こそ、ソフトウェア分野もユーザビリティ向上にもっと力を入れるべきである。』

コスト削減事例:

(1)1時間かけてインタフェース改善-> 年間100万ドルのコスト削減

(2)10万ドルかけてユーザビリテ改善->年間536,023ドルのコスト削減

(3)20,700ドルかけてユーザビリテ改善->初日だけで41,700ドルコスト削減



=>コメント

  アメリカ、オーストラリアでの1990年までの事例です。

  もっと身近な事例としては、

  製品開発プロセスでユ-ザビリティ向上につとめた結果、売り上げ増。

  予想にたいし130%の売り上げ実績。

  (「人間生活指向型製品の製造・販売に関わる経済的効果などに関す

  る調査報告書(概要)」経済産業省2002年

   http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002928/0/020711ningenseikatu.pdf

  グルメサイトのユーザビリティ改善で、ページビューが前年比2.5倍 (2006年

  http://www.bebit.co.jp/results/usabilitytest/suntory.html

  ユーザビリティ向上の効果だけをとりだすのは、なかなか難しいようです。



1.3  ユーザビリティ スローガン

要旨『デザイナーの努力だけでも、利用者の意見だけでも、ユーザビリティ実現には不足。デザイナーは、ユーザビリティの優れたソフトウェアの特性を知りたい、それをソフトウェアに持たせて早く成果を得たいと思うかもしれないが、そういうアドバイスは求めれば1000個を越える。中には互いに矛盾するものもある。そういうTIPSを収集しても結局はつかいものにならない。

逆に、ユーザーエンニジニアリングノプロセスならきちんと確立されており、すべてのエンジニアリングプロセスに適用できる。

「1つ1つのプロジェクトはそれぞれに異なり、最終的なユーザーインタフェースも違いますが、素晴らしい結果にたどり着くために必要な活動は普遍です。」』



1.4 簡易ユーザビリティエンジニアリング

要旨最高の方法だけを求めると結局は方法がなくなってしまう
最適な方法にはコストと専門知識が必要なので、単純な方法=
簡易ユーザビリテエンジアリングからはじめるのがよい。』


『簡易ユーザビリテエンジアリングの4つの方法
1) ユーザーと作業の観察 利用者の操作を観察する
2) シナリオ法       プロトタイプを利用者に評価してもらう
3) 簡単な思考発話法  利用者に考えたことを声に出してもらいながらシステムを
使ってもらう
4) ヒューリスティック評価法
  ユーザビリテ原則を用いて設計を評価・改善する

  ユーザビリティ原則
  ・シンプルで自然な対話を提供する
  ・ユーザーの言葉を使う
  ・ユーザーの記憶不可を最小限にとどめる
  ・一貫性を保つ
  ・フィードバックを提供する
  ・出口を明らかにする
  ・ショートカットを提供する
  ・適切なエラーメッセージを使う
  ・エラーを防ぐ
  ・ヘルプとドキュメントを提供する

 

=>コメント

  この原則は、今でも、有効なようです。

  2009年 日本の「電子政府ガイドラインでの作成検討会」でも使われています。

  それぞれ、詳細は、ニールセン同書の第5章。


1.5 実施方法

経営的な視点からのユーザビリティ実行手順。

(1) 会社にとってのユーザビリティの必要性の認識

(2) 経営者・スポンサーの支持の獲得

(3) ユーザビリティエンジニアリング担当者の確保

(4) 計画(システム開発ライフサイクルの中にユーザビリティエンジニアリング活動を位置づける)

(5) 実行』



ハローワークのインターネット・サービスで求人を見ていると、いろいろな仕事があります。

今日、見つけた官公庁「一般事務」の求人、


仕事の内容:

 簡単な書類作成         
 郵便物等の発送、仕分け     
 資料のコピー整理        
 経理(旅費、物品購入)等    
 その他(お茶汲み等)


「お茶汲み」が仕事の内容に入っています。

賃金は、月額 158,652円~ 362,232円です。いい仕事です。


1都近隣三県での範囲で、「お茶汲み」「お茶くみ」を仕事内容に含む求人をハローワークインターネット求人検索すると、他に民間企業が1社ありました。

 *お客様へのお茶出し、湯茶接待と限定して仕事に加えているところは、いくつもあります


面接のときに確認すればよいものを、わざわざ最初から「お茶汲み」を指定するのは、一種の踏み絵なのか、醜男お断りのサインなのか、それとも、ただ無神経で馬鹿正直なだけなのか、何なのでしょう。


同僚・上司へのお茶汲み、お土産配りが、(特定の)女性や新入りの仕事になっていることが少なくないと思いますが、それを求人に書く役所も、それを受け取って載せて公開するハローワークの担当も、時代を超越してなかなかです。



国税庁の確定申告書作成コーナーを使って、申告書を作成して、領収書などど一緒に郵送し、無事申告、後日、還付をうけることができました。


この確定申告書作成コーナーがもっと使いやすくなったら、国民レベルで、相当の時間が節約できます。

どう使えばよいかがわかった今は、注意すべきポイントと流れもわかったので、来年は簡単に使えると思いますが、最初は、何を選んだらよいのか、どこまで進んだのか、あと、何が残っているのかわからず、医療費内訳の作成確認をふくめ、まる一日以上かかりました。


古い本で紹介されている他の国のデータですが、「平均的なオーストラリア人は、申告書の記入に11時間かけ、62%はその仕事を手伝ってもらう代理人を頼まなければならない」(「ユーザエンジニアリング原論」(ヤコブ・ニールセン著)。

さて、日本の場合は、どうなのでしょうか。

仮にはじめてこれを使う100万人が1時間ずつ時間を短縮できたら、100万時間の節約、最後まで進める人も増えるのではないでしょうか。


難しいのは、ひとつは、確定申告の内容そのものがわかっていないためです。確定申告書の様式のどれを選択すべきまずはっきりわからない、次に、確定申告書の各欄の意味がわからない、収入と所得の違い、計算式がわからない、何が医療費控除の対象にできるか(インフルエンザの予防注射は? 人間ドックは? 交通費・ガソリン代は?)などなど。

しかし、システム上の問題もあります。

いろんな申告に対応できるようになっているせいか、利用の多い機能・入力項目も利用の少ない機能・項目も等しく扱われて、目に飛び込んできます。コントラスト・めりはりがありません。

単純な申告でも、多くの無関係なことを自分で選り分けて進まなければならないのは大変です。よくおこなわれる申告パターン、利用状況を優先することはできないのでしょうか。たとえば、サラリーマンで医療費控除だけ申請する人も多いと思いますが。


パンくずリストと呼ばれる位置表示が提供されていますが、画面タイトルと違っていたり、次に進むと思ったら第二階層に戻ったり。 


せっかく確定申告書が作成できるようにシステムが作られていて、使い方・補足説明も提供できるようになっているのに。これをもっと使いやすく、改善する意志と技術を持っている人達はいないのでしょうか(確定申告書の電子申告 e-Taxには、システム開発には、500億円かかったという話を聞いてことがありますが)。国家的な取り組みをされていて、専門家も多くいるはずですが、これが国力。


さて、この電子申告については、調査結果、改善報告もされています。

(1)楽天リサーチの調査レポート 2010年

http://research.rakuten.co.jp/report/20100222/


調査エリア  :全国
調査対象者  :20~69歳男女 確定申告経験者または今年確定申告をする人
回収サンプル数:1,000サンプル(性別×年代均等割付 各セル100サンプル)
調査期間   :2010年1月21日
調査実施機関 :楽天リサーチ株式会社


ア.今年の確定申告の主な方法

税務署または還付センターなどで作成・提出・・・・・・41.9%

「e-Tax(国税電子申告・納税システム)で申告」・・・・・・15.8%

「国税庁のホームページ(確定申告等作成コーナー)で申告書を作成し、税務署にて提出」する人

  ・・・・・・11.5%

「国税庁のホームページ(確定申告等作成コーナー)で申告書を作成し、郵送にて提出」する人

  ・・・・・・10.8%

「自宅で申告書を作成し、税務署にて提出」する人

  ・・・・・・9.3%

「自宅で申告書を作成し、郵送にて提出」する人

  ・・・・・・6.1%

そのほかの回答 ・・・・・・14.0%


=>38.1%が国税庁のシステムを利用


イ.「国税庁のホームページ」で申告書を作成・提出する人以外(533人)にたいし、

国税庁のホームページで申告書を作成できることを知っているかどうかの質問

「知っている」 ・・・・・・83.7%

「知らない」・・・・・・16.3%



=>

知っていても使わない人が多い


ウ.確定申告書作成の難易度に関する質問の回答(全員に質問) 

「難しい」 ......・・・・・・18.7%

「どちらかといえば難しい」 ・・・・・・32.3%

「実際に作成してみると、それほど難しくはない」・・・・・・39.2%

「どちらかといえば簡単」・・・・・・5.3%

「簡単」・・・・・・4.5%


=>

難しいと感じている人が51%

この人達が、税務署・還付センターで順番を待って申告書を作成して提出している?

申告の内容についての問い合わせは最寄りの税務所に電話でもできるのですが、申告書作成ページに税務内容の問い合わせ先の番号が出ていて、住所名前をいわなくても聞ければ簡単になるように思えます。 地元の税務署に電話して住所・名前をいって聞くのでは、下手な質問もできません?

「実際に作成してみると、それほど難しくはない」が39.2%なのは、最初は難しかったということではないかと思います。


エ.今年の確定申告の理由

「医療費控除」・・・・・・34.7%

「自営業・自由業など職種上必須のため」・・・・・・30.1%

「年金生活者のため」・・・・・・13.1%

「副業収入があるため」・・・・・・12.4%

「株や投資信託の売買」・・・・・・12.4%

そのほかの回答13種の合計・・・・・・44.5%


=>

一度わかってみれば単純な申告内容も多そうです。



(2)電子政府ユーザビリティ基本調査報告書 1999年4月
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/guide/kaisai_h20/dai2/sankousiryou2.pdf


申告書の作成についての専門家などによるチェック、一般利用者による実際の操作テスト(ユーザビリティテスト)の結果が報告されています。

確定申告書の作成では、かならずしもスムーズにいかないところがあったけれど、一般利用者平均で、14分21秒で、全員、独力で作成完了。

現状は、それほど悪くない。今後もユーザビリティの向上につとめていくとの結論です。

=>

どんな申告書を作成してテストしたのかは不明です。14分強で作れるほど簡単なら、もっと使われてよいと思うのですが。

もっと利用状況・実態に目を向けてください。



この公表に先立つ委員会の議事録がありました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/guide/usability/kaisai_h20/dai5/5gijiyousi.pdf

「電子政府ユーザビリティ調査(第2次調査(国税・登記分野)結果報告(概要版)」についてあれこれ。

限られた予算で使い勝手を改善しなければならないため、利用者がつまずいた原因は、システム、利用者のパソコン、業務内容のどこにあるのか、改善のためには、具体的にどうすればよいのかを調査する必要がある。」

=>

問題が少ない、うまくいっているといったら、予算もかけられません。

問題の多いことを認めた上で、大きな効果を期待してもっと予算をかけてはどうでしょう。