ふと思うのだが、人は自分のうしろ姿を見ることがあるのだろうか?
私は見たことがない。
では、見たいか?と自問する。
実は、あまり見たくない。
怖いもの見たさで見てみようかと、思ったりもするけれど、ひどく失望しそうな気がする。
もう何年も前の事だが、今でもはっきり目に浮かぶほど、見事に姿の美しい女性を見かけたことがある。まもなくラッシュが始まろうかという時間帯の山手線の中、その女性だけが場違いなほど物静かで、ちょっと近づけないほど美しい姿でそこにいた。なんでこんな人がこんなところにいるのだろう、そんなことを思って目を離せなくなってしまった。
人の姿を美しいと思ったのは後にも先にも、その時一度だけ。その美しさを表現する言葉は、今もって持つことができずにいる。
「男は30過ぎたら、自分のうしろ姿が見えてなくちゃいけない」と、まだ20代だったころに人から言われたことがある。
無論、うしろ姿が見えるほど際立った生き方をしてきたわけではなく、だからだろう、ずっと気になっていて、こだわりとなっていまだに私の胸に残っている。