その190 大英博物館 北斎展 | ココハドコ? アタシハダレ?

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自分が誰なのか、忘れないための備忘録または日記、のようなもの。

六本木のサントリー美術館で北斎展をやってると知って行ってきた。大英博物館に所蔵されている北斎の作品を一堂に展示した展覧会というわけだが、有名な作品は8年ほど前に上野の森美術館で開かれたボストン美術館の北斎展でも展示されていて、そうか版画だから同じ作品もあるわけだと勝手に納得。

 

 

富嶽百景のうち「神奈川沖浪裏」は撮影OKとなっていて、さっそくスマホでパシャッ!

 

この作品は市中に出回った当時から相当に評判だったらしく、解説によると8000枚前後は刷られたらしい。ちょっと信じられない数字だが、遅い時期の刷りには輪郭線が磨滅してぼやけたり、色が作者の意図した色とは微妙に違っていたりと、難点の目立つものが多かったらしい。そもそも現代の木版画の場合100枚程度しか刷らないのが普通で、片隅に1/100(100枚刷った内の1枚目)とか2/100(同2枚目)とシリアルナンバーが書いてあったりする。あまり多く刷りすぎると芸術作品としての希少価値がなくなるのかもしれない。ちなみに北斎のこの作品は当時蕎麦2杯分程度の金額で売られたというから、おそらく「芸術」などというややこしい観念はなく、「錦絵」という華麗なネーミングはあっても、あくまでより多くの人に買ってもらうための廉価な出版物、多色刷りの木版印刷といった程度の認識だったのだろう。もちろん「多色刷りの木版印刷」と言葉でいうのは簡単だが、これはこれで相当に難しい彫りの技術、刷りの技術なのだろうし、どうやらヨーロッパでは発達することなく、日本で独自に発達した技術であるようだ。

 

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さて、浮世絵はヨーロッパの印象派の画家たちに多大な影響を与えたといわれている。フィンセント・ファン・ゴッホがこの「神奈川沖浪裏」を見たかどうかは知らないが、このころの浮世絵に使われている深い青色にえらく魅了されたらしい。これを「藍色」と言っていいのか「紺青」というべきなのか、よくわからないが元々はヨーロッパから中国経由で輸入された「プルシアンブルー」という顔料で、画材屋だったタンギー爺さんにでも頼めばすぐにでも手に入ったろう。ゴッホの描いた「タンギー爺さん」の背景には浮世絵がずらりと並んでいるが、その絵の中ではプルシアンブルーは使われておらず、比較的明るい青が使われている。少し後の「星月夜」や「夜のカフェテラス」に使われた空の青は「セルリアンブルー」という顔料らしいので「タンギー爺さん」の青も同じかもしれない。ただ「星月夜」や「夜のカフェテラス」では一部深い青も使っており、確かなことは言えないが、おそらく「プルシアンブルー」を使っているのだろう。

ちなみに「プルシアンブルー」とはプロイセン風の青という意味なんだそうで、別名で「ベルリンブルー」ともいう。日本の伝統的な染物である藍染はジャパンブルーと呼ばれ、プルシアンブルーほど鮮やかではないが、染の回数によっては非常に深みのある青になる。

 

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北斎の魅力は何だろうと考える。一般には構図にあるといわれているらしい。確かに鳥でも魚でも一瞬の動きをとらえて実に見事である。花を描けばそこには風が吹いている。単純な風景を描いていても何かしら動きを感じさせるところに視線を誘ったり、構図そのものを不安定なものにしたり、こういう描き方というのは西洋美術にはあまり見た記憶がない。実をいうと私は浮世絵だろうが琳派や仏教美術だろうが日本美術の展覧会にはほとんど行ったことがない。広重や写楽、歌麿といった人の作品には興味がない。なのに北斎と聞くとなぜか足が向く。この構図の持つ動きとか不安定感といったものが、見ずにはおかせない、なにか強い吸引力のようなものを持っているような気がする。

 

というのが北斎を見て、今回初めて抱いた感想。

 

 

 

 

 

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