その58 不死の時代がやって来る | ココハドコ? アタシハダレ?

ココハドコ? アタシハダレ?

自分が誰なのか、忘れないための備忘録または日記、のようなもの。

 

SFっぽい話だが、人間が不死となる時代がやがて来るらしい。

 

少し前の話になるがそんなテーマの科学番組を見た。番組ではまず、戦争や交通事故で腕を切断した人が使う義手を紹介していた。それはテーブルの上のコップを取ろうとすると、脳から発せられた微弱な信号をセンサーに感知させ、脳の命令通りにコップに手を伸ばして手にすることができる、さらに口にもっていき水を飲むことも、かたづけることもできる。装着する側、人間の側の訓練は必要だが最終的には生まれた時から持っていた手や腕と同じ動きができるようになるというシステムである。

神経とセンサーがケーブルで繋がっているわけでなく、神経末端に流れてくる信号をセンサーでキャッチして義手が動く、脳の命令をセンサーでキャッチできるとは信号としてデジタル化できるという事である。角度を変えて考えるとこれは「念力」に近いシステムなのだが、実際一方が右手を上にあげると、本人の意思に関係なくもうひとりの右手も上にあがってしまうというような「念力」は、原因はともかくその存在は実証されているらしい。

また、番組では脳が描き出す記憶の映像をセンサーで取り出して再現するという試みも紹介していた。1991年のヴィム・ヴェンダースの映画「夢の涯てまでも」に描かれた研究が30年後の今、真剣に研究されている。まだまだ不完全ではあるが脳が思い浮かべるイメージをモニター上に再現とは、つまりこれもデジタル信号に変換できる、そういう事である。

こうした脳の働きを抽出してデジタル化できるなら最終的には、生まれてから現在までの全記憶、経験、それらをもとにして個々人によってカスタマイズされた気性や性格、考え方、行動規範といったものがすべてデジタル化された信号としてとらえられ、ソフトウエア化出来るようになる。そうすると何が起こるか?

 

医学の世界ではすでに哺乳動物のクローンを作ることに成功している。人間のクローンもその気になれば作れるだろう。自分のクローンに自分の脳の全データを移植する、するとそこに自分と同じ人間が誕生する。80歳の人間のデータを生まれたばかりのクローンに移植するとはアプリケーションも何も入ってないOSだけのパソコンに80歳の人間の全アプリケーションとそれによって作られたコンテンツがインストールされるということで、生まれたばかりの赤ん坊が80歳の脳を持つ、その彼がまた、80年か90年生きる。これを繰り返していけば「不死」が可能になる。不死が可能なら1000年も2000年もかかる星間旅行も可能かもしれない。番組の内容はおおよそそんなものだった。

 

だが、しかし、そんな簡単な話なのだろうか?

 

80歳の私とクローンの「私」は同じ私だろうか。80歳の私は肉体的にはいずれ死ぬことに変わりはない。

我々が「私」という言葉を使うとき、そこには精神だけでなく肉体も分かちがたく含まれているはずで、80歳の私がクローンを見て自分と同じ私とはとても思えないだろうという気がする。クローンの「私」にしても同じだろう。元の私を同じ「私」とは思わないだろう。肉体が変わればその瞬間から異なった時間、異なった人生を歩むのだ。自分と同じ他人がいる世界とはどんな世界なのだろう。

さらに一歩進んで「私」がクローンではなくロボットにインストールされたらどうなるのだろう?

精神だけが移植されて生き延びる、肉体の滅びを受け入れ、その生き延び方を自覚した精神とはどのような精神だろう?肉体はただの消耗品に成り下がってしまうのだろうか?新しい「私」は古い私を殺しゴミのように処分するのだろうか?

 

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どんな科学技術であれその予想される結果にかかわらず実現できるものは実現すべきだという科学者や政治家は確実に存在している。倫理問題や宗教問題など最後の最後でけっこうという人種が一定数確実に存在しているように思う。

 

だから原爆でも毒ガスでも作られたし、実際に使われた。アメリカのトランプ前大統領は使えるように小型の原爆を作るべきと発言したことがある。まだ使いたいのである。クローン羊も作られた。COVID-19ウイルスは武漢の研究所から漏れ出たという説が最近改めて注目されているが、コウモリから採取したウイルスに何らかの遺伝子上の変異を人為的に与えたのではという疑惑も出てきている。遺伝子を構成する4つの塩基を化学的に合成しシャーレの中で生命を誕生させようという実験もある。

SpaceXのイーロン・マスクは2050年までに火星に自立した都市を建設すると言ってる。この火星移住計画は地球への帰りの用意はなく、移住者はそこで亡くなることになるだろうということだ。あくまで「移住」なのである。どこまで実現するかわからないが素人考えでは30年後なら不可能ではないような気がする。先遣隊のような形でロボットを火星の原野に放って、人間が生きるスペースを建設させれば何とかなるかもしれない。量子コンピュータ制御の超ビッグデータでも高速処理できるようなAIをロボットに搭載できれば人間が生存可能な、生存により適した環境を設計して短期間で建設することも可能だろうし、食物として野菜を栽培するくらいはロボットでできるかもしれない。映画「トータル・リコール」や「オデッセイ」のような風景が火星に現実のものとして現れる。これが100年後になればクローンの「私」やロボットの「私」に行かせることも可能かもしれない。

 

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1990年代以降のIT技術発達の驚くべきスピードは、そこから生まれるあらゆる分野の科学的技術的発展の速さをともすれば見逃してしまいそうだが、医学や宇宙工学、ロボット工学の進歩は思ってもない速さで我々を全く見慣れぬ世界へ引き連れてゆくだろうことは間違いないと思われる。我々にそういう覚悟はあるだろうか?

21世紀に入ってはや20年が過ぎたというのに、今頃になって、やれデジタル庁だ、やれデジタルトランスフォーメーションだと言ってるこの国は今や発展途上国ですらない、ただの後進国に成り下がっていないか?

 

アメリカや中国が宇宙軍創設とか言ってる時代に、尖閣列島は安保があるから大丈夫とか言ってる。アメリカの分断はこれからも進むし極右が台頭しかねない時代にアメリカ頼りの一辺倒でこの国は大丈夫か?安保があるうちにポスト安保を考えなくてよいのか?

 

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この国は誰も責任を取らない国、誰も考えない国になってしまった。

未来のない国になってしまった。

 

そんなことを考えては暗い気分になる日々である。

 

 

 

 

 

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