私の職業について交通誘導警備員だと書いた。道路上でやっているガスや電気の工事、高所作業車で電柱に登ってやる様々な作業、そういったところには必ずヘルメットをかぶり赤い誘導棒や赤白の旗を振って歩行者や車を誘導している警備員がいる、あれである。
ある時突然会社勤めがばかばかしくなり、辞めた後の計画も何も立てないままに放り出して就いた仕事がこれなのだが、案外好きというか気にいってる。警備という仕事について面白おかしくブログに書いたり、それが本になったりしたことがあったのは知ってる。警備員というのは最初から警備員になりたくてなったという人間はまずいなくて、だいたいがどこかで別の仕事をしていた人間が、あれこれあって続けられずにこの世界にやってきたというのが多い。だからいろんな人間がいて面白いのである。もとは一流企業のビジネスマンだったのもいればデザイナーやカメラマンといったクリエイティブ系から来たのもいる。マンション建築の監督してたのがマンション建築現場のガードマンになっちゃったという笑っていいのかいけないのか、、、そんな話もある。みんなどこかで挫折を味わっており、それゆえの人間味のようなものを漂わせて愛すべき人間の多い世界である。
そんなわけだが、今回はそんなおもしろ話ではなく、すこし真面目に「交通誘導警備」という仕事を紹介しようと思う。警備員はクレームの標的になりやすく、そうでなくても、なんか貧乏ったらしいオヤジがやってる胡散臭い仕事と、上から目線、軽蔑の目で見られたりすることも多い。確かに無精ひげぼうぼうで制服は汚れ放題、制服を脱いだらそのまま橋の下のホームレスと見分けがつかない、なんて警備員もいるにはいる。しかし仕事の実態は決してそんなものではない。汚いオヤジは放っておいて、仕事に対する偏見は少しでも正しておきたい。
警備の仕事には色々種類があって、イベントやお祭りで交通整理をする雑踏警備とか大型店舗やオフィスビルに勤務する施設警備、現金輸送車に乗っているのは貴重品運搬警備、ほかにも核燃料物質等危険物運搬警備、空港保安警備、身辺警護とかALSOKやSECOMでおなじみの機械警備などがある。こうして並べてみると交通誘導のどこが警備なのかと思う方もいるだろう。でも、警備なのである。警備業の基本的な考え方は人の身体と財産を安全に守るということにあり、工事が原因で狭くなった道路で歩行者がけがをしたとか、重機が民家の塀を傷つけたとか、そういうことの無いように目配り気配りするのも「警備」なのである。
さて、その警備という仕事に法的な根拠を与えている法律に「警備業法」というのがある。その中に警備員になれない「欠格条項」が定められている。たとえば18歳未満は不可、成年被後見人とか破産者で復権を得ないものも不可、これはこうした人物に他人の財産を守らせることは不適当という判断だろう。また、集団的または常習的に暴力的不法行為を行う恐れのあるもの、これは他人の身体の安全にかかわることでもある。また健康診断を受け薬物中毒でないことも証明しないと警備員にはなれない。こうした細かい欠格条項がいくつも定められているだけでなく、社会保険一式、今はほとんどの警備会社がそろえているし、働き方改革のおかげで「有給休暇」も取れるし残業代も払ってもらえる。(サービス残業もかなり少なくなったが、時に取引先企業に強制される場合はある。)
つまり、安全とか堅実という意味では警備というのは結構いい仕事なのである。1日9,000円とか10,000円の収入で我慢できるなら、そして夏の暑さや冬の寒さを1日中外で我慢できるなら、犯罪者が隠れることのできる職場でもないし、おおむね身元の確かな人間がやってると思えば、女性にとってもいい職場だろうと思う。
「警備業」というのは前回の東京オリンピック(1964年)あたりから次第に成長し、手元の資料によると初めて警備業法が制定されたのは1972年、当時は警備会社数776社、警備員数41,146人とまだ小さな業界だったが、それが2013年には9,133社543,165人となっている。数字だけ見るとどこにそんな会社があるのかと思うが、一歩外に出ると「警備員」を見ない日はないくらいいたる所で警備員は見る。およそ40年で10倍以上に膨らんだ数字を見ると、2021年の現在1万社60万人は超えているんじゃなかろうか。今や立派なサービス産業なのである。
産業として成長する過程にはそれなりの紆余曲折もあって、途中暴力団関係者が警備会社を経営したり、その手の犯罪者が警備員になってトラブルが頻発するようなこともあったらしい。法の制定後何年かおきに法改正は行われてきて今はそういうこともなくなった。警備会社を管轄するのは各都道府県の公安委員会で警備会社は2年か3年に1回公安委員会の査察を受ける。会社に来て所属隊員に対する教育記録などをチェックする。警備会社は年に1回必ず「現任研修」といって隊員を集めて研修会を開く、その記録や各隊員に対して個別に指導、その記録を残さねばならず、工事現場に出向いてあれこれ教育することになっているのである。警備会社はその営業所ごとに「警備員指導教育責任者」という公安委員会の資格を持った社員を最低一人は置くように法で決められており、それだけ隊員教育については神経質にならざるを得ないようになっている。また隊員の質が良ければ取引先の企業からの信頼も厚くなるのは当たり前で、警備会社の営業力は総じて隊員の質の高さに比例しているといってもいいように思う。
隊員の質というのは大まかに言って、誘導のスキルとマナーだと思ってもらえればいい。スキルは研修もあるが、基本的には現場で身につけるしかない。一般の車に迂回路をどの道に案内するか、どの道が狭く、どの道が広く安全か、一方通行じゃないか、そうしたことを事前に頭に入れて、相手に礼儀正しく、わかりやすく伝えるにはどんな言葉を用いるか、こうしたことは慣れてしまえばそんなに難しいことではない。工事車両の誘導も、例えばUターンするのにどれだけの半径が必要か、1回切り返さないと無理とかそうしたことも慣れればそんなに難しいことではない。気をつけなければいけないのは、その瞬間近くに歩行者や自転車がいないかとか、周囲の状況を冷静に見て判断できるかどうか、むしろそっちのほうが大事で、慌てると事故のもとになる。それと、あとはクレームである。クレームにもいろいろあって、ほこりがひどいとか騒音がうるさいといった工事中の作業にまつわるものは速やかに監督に届けて対応してもらわねばならないし、誘導に対するクレームはケースバイケースで自分で適切に対応しなければならない場合もある。こうしたことを少しづつ経験して、おそらく半年もやればほとんどの現場は自分の判断で動けるようになる。どんな仕事でも人が相手であれば気配り目配りは必要で、それができて交通ルールがわかっていれば誰でもできるようになる仕事だと私は思う。
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というわけで、コロナで店を閉めてしまったとか、会社が倒産とか、困ってる人に警備の仕事はおススメです。アルバイトですから週1日2日だけでもOK、元の仕事に戻れるようになったらいつでも辞められるし、一度スキルを身につければいつでもまた戻れます。経験者大歓迎の業界。
そうそうこの仕事10年以上やってますが、毎日外にいるせいか一度もインフルエンザにかかったことがありません。「密」にならないんですね。 だからコロナも大丈夫??、、、、多分(笑。
しまらないオチですが、以上。