一度それに手を染めるとひと月後、それは再び訪れる。



口にするのも煩わしいのだが、今日何の日か存じているだろうか?

氏はもちろん存じているが、記憶の奥底に封じ込め幾重にも鎖を巻き鍵をおろした。

所詮向こう岸で起きた火事、こちらに燃え移ることはあるまいて。

あぁあちらは熱そうなことで。涼しい涼しい、こちらはちょー涼しい。

フン、痛くも痒くもないね、、

あれ、でもどうしてだろう?なんだか、、、、、アツッ、、熱いっ、あつひィィ!!


昨夜の大風に見舞われ対岸から火の粉が舞い仕切る。

のんびり超越的に高みの見物を決め込んでいた阿呆面した氏の肌を少しだけ焦がす。


『りゅぢさんにバレンタインデーあげようと思うんですけど、カレーでいいですか?』


いや、絶対よくない。

女人様にはお分かり頂けないかもしれないが、世の多くを覆う阿呆男性どもはコテコテのシチュエーションが大好きである。

バレンタインに本命告白?諸手を挙げて大歓迎なのである。

長年付き合った彼女からのチョコレート。いらないと言いつつ本当は欲しい男心。

たとえ義理といえどもそこは『ちょこれいと』が欲しい。


『あれ?カレー好きですよね?ちょっと高いカレーとかでもダメですか?』


「えっと、、ごめんね、もしかしてそれルーの話?」


『えっ?はい。ルーです。』


調理されたカレーでなくルーをくれようとしてたのですか。そうですか。

ごめん、全然いらない、かな。


『カレーにチョコいれると美味しくなるじゃないですか?逆にチョコにカレー入れたらどうなりますか?』


もう話がぶっ飛んできて何言ってるかわからない。どうなるもなにも、それはいわゆる『カレールー』なんじゃないかな。

とにかく純然たるカレールーもいらないし、カレー味のチョコも欲しくない。

氏が求めるのは左利き眼鏡勝ち気で知性的の細身な乙女からのちょこれいとである。

しかし、そんなシバリが激しく厳しい高い条件を満たす女人なぞいるはずもなく、さらにその乙女が氏を運命的に愛するなんてコトと比べれば、まったくもって砂漠から一粒の星の砂を見つけることの方がたやすい。


世間にはあまりの悲嘆にくれて、自分自身にちょこれいとを購入する阿呆がいると聞く。

そこまでいくと自虐的を超えてすでに病気であり、はやめの診療をお勧めするしか手立てがない。

氏としてもそれは不本意であり、そんな何者もを恐れぬ生き様、近所で3番目くらいに軟弱者を自負するオトコとしてとても真似できない。

なによりも人から貰ってこそのバレンタインデーである。

自分からPresent for meは違う、断じて違う。


そこで古来より小林家に伝わる秘技が持ち出された。


『オレがお前にチョコやるから、お前はオレにチョコくれ』


ぞくにいう『プレゼント交換』というやつだ。

なるほど、これならば『あげる』と『もらう』両方の行為がなりたち、需要と供給ばっちしで誰も損をしない、まさに盲点を突いた理想的な解決策、、、か?


あぁ、怖い怖い。

えっ?何が怖いかだって?

そりゃあんた、来月の14日が怖い。



Not Place Utopia
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