雨の日に、ずぶ濡れの捨てネコに傘を差してあげた経験はおありか?
我々の視界は狭い。
日々通過していく風景は、ともすれば異質なものがあろうとも素通りしてしまいがちになる。
しかしながら、それはかなりの異彩を放っており、氏はハタと歩みを止めた。
そこにドラミちゃんがいた。
一瞬眼を疑ってしまった。世界でもっとも乗降者が多いというこの新宿駅にドラミちゃんがいるはずないと。
しかし、胸元にマジックで『ドラミ』と書いてあるじゃないか。
なるほど、未来でタイムマシーンは完成したのだ。うぇるかむ・とぅ・2009。
今日は誰と待ち合わせかな?
氏は思っていた。ドラミちゃんてもっとまるくてカワイイものだと。
しかし眼の前のドラミ的サムシングはどうしたことか?
普通のおっさんじゃんか。涙目、、だよな?上履きに白ハイソックスがやけに痛々しい。
フリルの着いたメイド的なエプロン、スカート。
なんていうか、全身から全力でイタイタしい。
いやいや、ゲンジツの未来なんてこんなもんだ、きっと。
あれはアニメでデフォルメしてあるけど、実際のドラミなんてこんなもんなんだよ。
未来ではネコ型ロボットが大量生産され、一家に一台、家政婦に・恋人に・ペットにと、多機能ドラミ的サムシングが溢れかえるだろう。
い、イヤだ。
カオナシじゃなくても幼女の1人や2人、3人4人、追いかけたくなる。
あんなおっさん顔のドラミをラブドールとして毎晩枕をともにするくらいなら、今のうちから幼女を掻っ攫って自分好みにカスタムメイキング、、、ちくしょー光源氏のヤロウ、うまいことやりやがって。完全に犯罪じゃねぇか。アイツの彼女めちゃかわいいのに、オレの彼女、はぁ?なにこれ?ドラミ?フザケてんの?なんでマジックで書いてあんだよ?オマエ物まねするヤツがさ、『こんばんは、田村正和です』。って名前言っちゃったよ。物まねなのに名前だよ、名前。名前言っちゃだめなんじゃねぇーの?それ反則じゃね?その胸のフザケタ『ドラミ』ゼッケンなかったら、絶対分かんねぇよ。嘘ついた。嘘ついたよ、ほんとゴメン。『ドラミ』って書いてあっても分かんない。『何かの間違いじゃないか?』って疑っちまったぞ、バカヤロウ。
こ、こいつは、ニセモノだーー!
諸君、騙されるな、こいつは頭に異常をきたしたただの『春を待ちきれなかった人』だ。断じてドラミちゃんなんぞではない!
その証拠に、タイムマシーンはどこだ?四次元ポケットはどこだ?ドラえもんはどこにいるー!?
危うく騙されかけた氏も、ヒゲがないコトに気づき声を荒げる。
今となっては『なんだかわからないけど、写真とってもいいですか?』とドラミちゃんとツーショットを目論んだ自分が恥ずかしい、浮かれすぎだった。
未来を信じる氏の純情な心を弄んだこの偽ドラミがっ。万死に値するぞ!
氏はぷりぷりぷんすか怒ってその場を後にした。
その時、氏は気づかなかった。
待ち人来る。
後ろから忍び寄る、青い影に。